仮面ライダーW全話解説

第11話 復讐のV / 感染車

監督:諸田敏
脚本:長谷川圭一
 雨の降りしきる夜、鳴海探偵事務所に恐慌状態で一人の男が救助を請う電話を掛けて来た。男の慌てぶりは尋常ではなく、急いで男に指定された埠頭へとやってきた翔太郎だったが、何とか落ち合った電話の依頼主・青木幹男(辻岡正人)だったが、青木は突如として猛スピードで突っ込んできた黒い車に轢かれてしまった。
 だが青木を轢いた筈の車は、丸で幽体であるかのように、青木の体をすり抜けたて走り去った。そして青木は顔を紫色に変色させ痙攣した後、息絶えた。

 場面は代わって風都署取調室。
 重要参考人として取り調べを受ける翔太郎に対し、普段から彼を快く思わない真倉刑事は「車に轢かれた」という供述を信用しない。
 まあ「検死報告によるとガイシャの青木って男はウイルス感染で死んだらしい」とのことなので、「黒い車が」と言っても信用されないのも無理はなかった。だが、医者でも化学者でもない翔太郎がウイルスを用いて殺す方が無理がないだろうか?(笑)
 ともあれ「ウイルス感染」という意外な言葉に驚き、訝しがる翔太郎は釈放後も考え込む。ただでさえ風邪に苦しんで体調の優れない亜樹子の方は「依頼主の死」=「依頼終了」と遂行に消極的だが、翔太郎は「目の前で依頼人を殺されたんだ。このまま引き下がれるか。それに…あの車は泣いていたんだ」という意味深な台詞を吐いた。

 その頃、園咲霧彦は1人のミュージアムのメモリ販売員、根津(蒲生純一)という気の弱そうな眼鏡の男を締め上げていた。バイラス(ウィルス、ヴィールス)というメモリが無駄になったとのことだが、相応しくない相手に売ってしまったということだろうか?ともあれ、最近嫁とその父に対して弱い霧彦が社員にはその反動の如く高圧的だ(笑)。
 詰め寄る霧彦に対し、根津の釈明は、「アクシデント」ということと、「バイラスのメモリに関しては今、想定外の事態が起きている」とのことで、「想定外の事態」に興味をそそられた霧彦は一先ず訊問から聴取に移った。

 一方翔太郎はウォッチャマンから青木に関する情報を得ていた。青木は風都では有名なストリートギャングのメンバーで、そのリーダー・黒須サチオ(Koji)という男は父親が財界の大物と繋がっているとのことだった。
 翔太郎はギャング達の行き着けのバーに向かい、「アンタ等、黒い外車に心当たりない?」と単刀直入過ぎる質問をする。これでゲロする奴がいたら相当なアホで、吐く訳ない(苦笑)と思っていたら、三下の一人が、「く、黒い外車…そいつが青木さんを殺った犯人だってのか?ヤバイっスよ黒須さん!きっとあの雨の日…」と漏らしたから相当なアホ」だった(笑)。
 三下がアホならリーダーもアホで、「バッキャロウ!あのことは二度と口に出すなっつたろうがァ!」と言って即座に三下を殴る始末(大笑)。ゲロはしなくても、お漏らしはするのね(笑)。
 この時点で既に怪しさ150%なのだが、返す刀で「おい探偵!話はここまでだ!殺されたくなきゃとっとと出て行きな!」と今度は翔太郎に拳銃を突きつけて出て行けと喚く…………いくら親父が財界と繋がっているからと言って、ここまで派手やっていて、悪事丸出しで、馬鹿なのに捕まらないストリートギャングって、風都署は本当に何をやってんだか……。

 大人しく引き下がった振りをして、翔太郎は黒須の部下を尾行。するとそこに例の黒い車が現れ、チンピラの内、が体の良い方が速攻で轢かれてウイルスで死亡した。
 もう1人のチンピラを助けようとする翔太郎だが、その邪魔をするかのように霧彦が現れた。黒い車を止めんとしてフィリップの場違いな「風と馬鹿」に関する推論を遮る様に翔太郎はWに変身すると、いきなりジョーカーエクストリームを放ったが、ナスカ・ドーパントはひらひらのマフラーで急降下キックをあっさりキャッチ。逆に引きつけてサーベルの一閃を見舞った。
 意外な手強さに驚くWに、ナスカ・ドーパントは「ガイアメモリに発現した想定外の特性」のために黒い車に対する邪魔をさせないことを宣言し、含み笑いを浮かべたまま去っていった。そしてこの間にもう1人のチンピラも殺され、黒い車も逃げ去ってしまった。だが翔太郎は戦いの最中にバットショットで車の運転席を撮影することに成功していた。

 フィリップの検索によると車を運転していたのは山村康平(橋爪遼)という18歳の少年で、その姉・山村幸(松岡璃奈子)が一週間前に轢き逃げ事故に遭って、意識が戻らない状態に在った。状況や言動から犯人が黒須達なのはほぼ間違いないのだが、康平がそれを目撃していながら警察は証拠不充分で黒須達を逮捕出来ていないとのことだった(←おい、風都署……)。詰まる所、黒須達が黒い車で襲われているのは明らかな復讐だった。
 一応、「姉の仇」にしても、姉さんが死んではいないから、殺害という報復はやり過ぎの感じがしないでもなかったが、回想シーンの黒須達は事故を起こした直後こそ、ほんの一瞬気まずそうにしたが、すぐに「やっちまったモンはしゃあねえやな!」とか言って走り去る始末だったので、確かにこれは殺したくなる。
 いずれにせよ、同乗していた3人のチンピラが既に殺された以上、残る復讐対象は黒須のみである。翔太郎は何とか康平の凶行を止めようと本人を訪ね、直談判した。だが「もうこんなことはよすんだ。姉さんだってきっと望んじゃいない。」という翔太郎の言は正論ながらも、さすがに康平が説得を聞き入れず態は見せなかった(無理もない気がするが)。
 トンズラする康平を翔太郎は追ったが、バス停に偶然に居合わせた湯島則之(坂田鉄平)という青年に邪魔された形で、康平はバスで逃げてしまった。

 明らかに康平と知り合いであることが丸分かりな湯島は、落ち着いて話すとちゃんと話に応じ、画家で、時折女子高で美術を教えて糊口をしのいでいる人物であることが分かった。
 更に山村幸とは3ヵ月後に彼女と2人で選んだ教会で式を挙げる予定で、本来なら康平とは義兄弟になる間柄であったことも判明。早くに両親を失い、母親代わりでもあった姉の挙式を楽しみにしていた康平の憎しみを湯島は代弁するのだった。

 その頃、3人の部下を殺され、残るは自分1人となった黒須はチンピラの親玉らしく、往生際の悪い抵抗に出た。完全居直り状態でマシンガンで武装して廃工場に立て篭もり、黒い車を逆に撃退せんとした(←何でこんな武装が罷り通ってんだ?フィクションとはいえちょっとひどいだろ……)。
 そこへ康平の運転する黒い車が登場したが、お約束通りマシンガンの効き目は無かった(笑)。正確には車体に次々と傷は付けるのだが、攻撃の手は全く緩まないのだった。
 現場に急行する翔太郎に、フィリップは黒須が街の害で、助けるに値する人物ではないと断じる。つまり康平の気持ち的にも復讐を妨害するべきではない、とのことだ。それに対し翔太郎も黒須が人間の屑であることは認めつつも、彼も「風都の人間」であることと、風都での殺人を許さないことと、復讐が心の傷を癒さないことを答えて、康平を止めに走り続けた。
 そんな翔太郎を「ハーフボイルド」と呟くフィリップだが、この問題は難しい。正義的には翔太郎の言う通りなんだろうけれど、死刑存置論者でもあり、加害に対する復讐心を否定し切れないシルバータイタンはフィリップの論に一票投じたくなる。勿論黒須の部下達の死には一片の同情も抱いていない。
 だが、幸が死んでいないことを考えると命を奪うことに肯定的になれないし、黒須達が裁きを受けないのも釈然としないから、ここは翔太郎の意見に賛同しそうである。
 まあ仮面ライダーがみすみす人殺しを見過ごす存在でもあって欲しくない。理想的な展開は、被害者に散々いたぶられてもう少しで死に兼ねないところでライダーに救われ、警察に突き出されて然るべき裁きを受けることではなかろうか?勿論康平にこれ以上罪を重ねさせないことも大切だ。

 ようやく戦闘に入ったが、戦闘による車との接触でウイルスに感染することを警戒する翔太郎に、フィリップは「馬鹿は風邪を引かない」論を持ち出すが、これは彼独特の悪質ジョーク。メタルヒートのスタイルでメタルブランディングを放つと黒い車を吹き飛ばし、Wの身体もウイルスに感染していなかった。つまりは「ウイルスなら熱に弱い」と見て、フィリップはヒートの力で防菌していたという訳だった。
 車が大破したのを見て、安心した直後、さすがに翔太郎に礼を述べた黒須だったが、次の瞬間「様ぁ見ろ!」と嘲笑。恐怖を感じまくったとはいえ、この男ここまで余りにも傷つかなさ過ぎであることに釈然としない……。

 これにて事件解決と思われたが、フィリップはいつもドーパントが倒された際に体外に放出される筈のガイアメモリが見当たらないことに気付き、康平がドーパントではないことに気付いた。困惑するWだったが、その眼前にバイラス・ドーパントの本体が姿を現したところで以下次週へ。


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平成三〇(2018)年六月八日 最終更新