仮面ライダーW全話解説

第14話 レディオでQ / 生中継大パニック

監督:石田秀範
脚本:長谷川圭一
 クレイドール・ドーパントを粉々にして気分は晴れたのか、バイオレンス・ドーパントはWを残してその場から逃走した。
 呆然とするWだったが、次の瞬間ばらばらになった破片が吸い寄せ合うように集まるやあっさりとクレイドール・ドーパントが復活。「あー油断したわ・・・アイツ次は絶対に逃がさないんだから」とのたまう彼女に驚愕するW。そして離れた物陰からそれを見ていた霧彦は先週の「死なない」という冴子の台詞を思い出して納得していた。
 去りゆくクレイドール・ドーパントに手が触れたときのことを思い出し、若菜と手が触れたときの記憶を重ね、無理矢理「気のせい」と思い込もうとするフィリップだった。

 何事もなかったかのようにスイーツ・ロケは続行。二軒目は第9話・第10話の依頼人、浅川麻衣とそのスイーツ店が再登場で、これまた嬉しいシナリオだ。ただ前の話で麻衣は園咲家に名パティシエとして招かれ、危機にも曝されていたたから、今回若菜とも以前から面識があったことは踏襲された対応をしていたが、麻衣に以前の恐怖は無かったのだろうか?
 そこへMr.クエスチョンからスイーツ店に本日二度目の電話が入った。相変わらずのプレゼント送付宣言だが、今回はノーヒントとのこと。ノーヒントではフィリップの検索も厳しいかと思われたが、フィリップに言わせるとバイオレンス・ドーパントは既に致命的なミスを犯しているとのこと。
 曰く、「好きな場所:風都タワー」という質問が過去のどんな雑誌にも掲載されていないのに、それを知る犯人は若菜本人から聞ける程の身近な人物、とのことだった。
 その推理に愕然とした若菜はすぐに激しい怒りへと転じ、またもや収録を抜け出したのだった。

 行き先は鳴海探偵事務所で、尋ねる相手は勿論フィリップである。犯人が自分の身近な誰なのかを問う若菜に、誰かに殺されそうになった経験があるか?と質問で返すフィリップ。
 普通に考えれば凄く失礼な質問だが、若菜はあっさり、ある、と答えた。しかも実例を挙げて。その実例とは、「自分の実の姉」とのことで、「ちょっと特殊でね」と称する園咲家における生い立ちが披露された(勿論フィリップに対しては言葉だけだが、視聴者には回想シーンで)。
 琉兵衛は若菜が幼い頃から仕事にかかりっきりで、少女の頃からそれを手伝わされていた冴子は時に父から平手打ちを喰らわされることもあったが、若菜は自由に遊ぶことを許されていたためか、姉は妹が気に食わず、よく私に意地悪(人形を壊す等)をした。
 それに黙って耐えるような若菜ではないのだが、彼女の反撃を止めたのが「弟」とのことだった。
 確かに回想シーンを見れば、境遇の違いに冴子が若菜を嫌うのは分からないでもないが、それだけで「殺されそうになった。」って、チト大袈裟でないかい?
 いずれにせよ、「どうして私を怒らせるの?」というお得意のフレーズはこの頃に生まれたらしい。だが、「弟」に言わせると「そんなの本当の若菜お姉ちゃんじゃない!」とのことで、』今はもういないその弟の言葉は不思議と若菜の怒りは消し、優しくさせたと云う。
 聞いていたフィリップも、「弟」を語る若菜がとても優しい声をしていることに言及し、それこそが「本当の姿」ではないかと述べ、若菜もまたそこに不思議と素直になれる感覚を抱いていた。「弟=フィリップ」説、決定的だな(笑)。

 その頃。若菜が失踪した現場は大騒ぎになり、代役として先輩の素子が呼ばれていたが、ギリギリのところで若菜が帰還。素子は嫌な顔一つもせず、マイクを返し、彼女を激励した。
 最後のロケ現場は何と風麺。おおよそスイーツに似つかわしくない場面だが、正真正銘のスイーツ紹介で、口下手なマスター(どうきひろし)に代わって、ウォッチャマンが「麺に絡まる生クリームとチョコチャーシューの絶妙なハーモニー」を褒めちぎるが、シルバータイタンは食べたくない(苦笑)。
 若菜の寸評も、「興味と勇気のある方はスイーツラーメンに挑戦してくださいね」というもので、些か褒めている気がしない(苦笑)。
 かくしてロケは何とか無事成功したのだが、そこへマスターの携帯にMr.クエスチョンからの電話がかかってきたが、正体を知る若菜はもう微塵も動じてなかった。若菜が電話に向かって告げたその正体はマネージャーの上尾で、動機はマネージャとして尽くす内に本気で彼女を好きになっていたのに邪険にされ続けたことへの怨恨だった。

 正体を見せた上尾はバイオレンス・ドーパントに変身すると、若菜を丸呑みして立ち去った。船の上をジャンプし立体交差点を飛び越え逃走するバイオレンス・ドーパントをハードボイルダーで追走するW。
 パーツを次々換装することでこれを容易く追い詰めると、スパイダーネットで捕縛し、地面に叩きつけると、バイオレンス・ドーパントは若菜を(←ちなみに無傷)吐き出した。
 マネージャーでありながら若菜を苦しめる暴挙に走ったことを詰るWに、バイオレンス・ドーパントが答えたのは、「怖くてワガママだけど憎いなんて思ってない。むしろずっと好きだった。」と云う想いと、叶わない想いに「強い男にしてやる。」と云う唆しと、メモリを貰い、自分が抑えられなくなったという経過だった。やはりガイアメモリとは力を与えるとともに、人間の暴走を促進させる麻薬の様なものでもあることが分かる。
 正体も動機もばれたバイオレンス・ドーパントルナトリガーバーストであっさり撃破されたが、それよりは生来気弱でそんな大それた事が出来ると思えない上尾が1人で今回の凶行に出たと思えなかった故に、彼を焚きつけ人間の存在こそが問題だった。

 場面は変わって園咲邸。メモリ販売のデータベースを調べ、バイオレンスのメモリを購入した者を突き止めた霧彦は冴子を「意外に妹想い」と評したが、冴子に言わせると「ただの気まぐれ」とのこと。
 いずれにしても単純に「悪人」との一言で割り切れないファミリーである。

 同じ頃、風都ラジオ局内では、上尾をバイオレンス・ドーパントに仕立て上げた張本人=メモリの購入者がほくそ笑んでいた。その正体は佐伯素子だったが、そのイヤらしい笑みを打ち消すように若菜が現れた。
 狼狽えた素子だったが、次の瞬間居直りギレ。詰まるところ、後輩にNo1DJの座と仕事を奪われたことへの逆恨みに、上尾を利用したことを白状しつつ、「理解と包容力のある後輩想いな先輩」という仮面が剥がれ、「嫉妬に狂った醜い本性」を曝け出す様は同一人物見えなかった。
 「どうして私を怒らせるの?」というフレーズで若菜はクレイドール・ドーパントに変身。若菜がドーパントであることを知らなかった素子は命の危機に狼狽えまくったが、若菜は幼き日の弟の台詞を思い出して、素子殺害を思い留まり、楽屋を後にした。
 これまで表裏の相違が激しく、周囲を見下し、感情をむき出しにする我儘女というイメージの強かった若菜が、優しい姿こそが「本当の彼女」ではないか?と思わせられた。
 一方で、九死に一生を得た素子は懲りたり、反省したりするどころか、「ア…アハハ!園咲若菜の正体は化物!これをマスコミに報せれば…。」と電話に飛びついた。これほどまでの眼に遭っても、若菜を追い落とすことの方が大切とは「ダメだこりゃ。」な女である。
 だが、素子が助かったのも束の間のことだった。
 入れ替わりに霧彦が現れ、「園咲家に対する不安要素はすべて取り除く」とのことで始末された。勿論これは殺人だが、さすがに素子には同情出来ず、死に様が描かれなかったのもまだマシだった気がする。

 次なる場面は園咲邸。事件から一転してご機嫌な若菜に、「結局タレントは続けるのかしら?」と問う冴子。「私ある人に気付かされたの。自分らしく生きていればいいんだって。」と答える若菜。その台詞が真実であることを証明するように姉の嫌味も爽やかに返す。
 そこへ彼女の携帯に、「気付かせてくれた人」からの電話が入った。勿論その人物はフィリップだが、いつの間にか携帯番号交換したのやら。
 フィリップからの電話は若菜がガイアメモリを持っているか否かを問うものだった。というのも、上尾と対峙した際に若菜が「ガイアメモリ」という単語を口にした、つまりは彼女がガイアメモリの存在を知っていたことに驚いてのことだった。勿論一般人にはガイアメモリの存在を知られていない。
 しばしの沈黙の後、若菜は所持を否定(勿論大嘘)。一応回答した若菜は事務所で約束した、顔を合わせての再会を求めたが、フィリップは「もう少しこのままの関係」を提言し、少し憂いを見せた若菜だったが、「その方がスリリングでいいかも」と了承した。
 残念そうに電話を切った若菜はクレイドールのメモリをその場に捨てた。フィリップに所持を否定したからだろうか?
 そしてその瞬間を見ていた父・琉兵衛は、叱りもせず、微笑んでこれを拾い上げた。果たしてその真意は?


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平成三〇(2018)年六月二六日 最終更新