仮面ライダーW全話解説

第16話 Fの残光 / 相棒をとりもどせ

監督:柴崎貴行
脚本:三条陸
 自分の名前が「来人」であること……加えて「運命の子」であり、自分を手にした人間が「地球の勝者」であることを告げられ戸惑うフィリップ。自分は物ではないと告げ、冴子に「その冷たい目だけで敵と判断するには充分だ!」として同行を拒まんとするも、消える上辺の笑顔を通り返しに返って来た台詞は「生意気に育ったわね」で、冴子が明らかに自分の過去を知る人物であること、記憶を消した関係者であることが伺えた。
 次の瞬間、冴子はタブー・ドーパントに変身。ビギンズナイトで彼女を見た記憶を持つフィリップはより一層の危機感を募らせ、リボルキャリーを自動運転させてタブー・ドーパントの攻撃を防いで無事に逃走した。相変わらず頑丈な車だ(笑)。

 一応危機は脱したが、翔太郎、亜樹子が人質に取られている状態に変わりはなく、翔太郎の携帯を通じて剣児から早く戻って来い、との要求がフィリップに来た。
 フィリップの身を案じる翔太郎は携帯の向こうから「もし来やがったら俺達の仲もそこまで」とまで叫んで彼が来るのを阻止しようとする。
 そんな苦悩するフィリップの前に小さな機械生物が現れた。前週から度々姿を見せては消えていたもので、フィリップはそれを「ファング」(=牙)と呼んだ。だがフィリップはそれに対して、物を投げつけてまで強い拒絶反応を示した。

 一方、監禁状態の翔太郎も、「ファング」を「W第7のメモリ」して認知していた。ただかなり問題のあるメモリの様で、意志をもって自分で動き回るそのメモリをフィリップは認めないだろうと捉えていた。つまり一度過去に(ビギンズナイトにて)装着済みだったのだが、回想シーンでファングの変身を解いたフィリップは言い知れぬ恐怖に怯えていた。フィリップ曰く、使えば「僕が僕でなくなってしまう」とのことだった。
 そして翔太郎も「ただでさえ検索にハマると暴走する」という傾向を持つフィリップがファングを装着することはWでなくなる危険を孕んでいると見ていた。早い話、Wに絶大な力を与えるが、それは精神に大きく作用し、理知的で温厚なフィリップをバーサークさせるものらしい。

 事態打開のため、同じく逃走に成功していた冬美に倉田の弱点に繋がるような情報を教えて欲しいと要請したフィリップだったが、返ってきた答えは「今度こそ必ず説得して見せる」で答えになっていなかった。フィリップはメモリの力に飲み込まれたアームズ・ドーパントへの説得を「無意味な危険」としたが、冬美は「「理由なんてない!相棒だからだよ!アタシ達はずっと二人で一人だったんだ!」と返した。
 さすがにこの台詞はフィリップに取って、他人事ではなく、衝撃を受けたフィリップは  「ありがとう。ひとつ結論が出た。」と述べ、自分が成すべきことを見つけた。
 そこへ再びファングが現れたが、今度はそれを拒絶しなかった。

 その頃、廃工場では時間稼ぎを許さないとばかりに、翔太郎が剣山の上に吊るされていた。彼を吊るすロープは亜樹子の手に握られていた。つまり時間が掛って亜樹子の体力が尽きれば、翔太郎は落下して串刺しになると云う寸法である。
 『魁!男塾』や『闘将!拉麺男』や『北斗の拳』でも似たような事例が見られた外道な方法である………。
 翔太郎は「もういい、放せ亜樹子。俺・・・お前と会えてよかったぜ・・・」と観念気味だったが、亜樹子は「そんなこと言うなぁバカ!それ死ぬ人間の台詞だから!」と叫んで最後まで諦めようとしない。
 この辺りのセンスは、かつてジャンプ作家だったという経験を持つ三条陸監督によるものらしい。
 必死に耐える亜樹子だったが、手の皮がズル剥けでロープは血が滲み、顔が苦悶に歪んみ、ついにその手からロープが滑り抜けてしまった!が、間一髪で落下する翔太郎のロープはファングによって掴み止められた。
 ファングの姿にフィリップが来たことを察知した翔太郎はそれを詰ったが、それに対する「絶交でもなんでもしたまえ。させないけどね。」というフィリップの決意溢れる台詞が心地いい。
 「何か策はあるのか」ととう、翔太郎に、「策なんて…動いてから考えればいい。」と前週の翔太郎の台詞で返すフィリップ。「地獄の底まで悪魔と相乗りしてくれ!」と第1話と同じセリフで二人は相棒としての絆を更に強め、深めた。

 覚悟の咆哮とともにファングメモリを突き刺し、翔太郎もジョーカーメモリを突き刺した。すると普段とは真逆にフィリップの姿がWへと変化し、翔太郎が倒れ込んだ。
 遂にその姿を見せた仮面ライダーWファングジョーカー!一つの刃を除けばデザイン的に他のスタイルと大きな違いは無い様に見えるが、雄叫びを上げるフィリップは翔太郎の危惧通りファングの力を自制出来ずにバーサークした。
 腕からカッターを生やし、襲いかかるマスカレイド・ドーパント達を次々と斬り倒し、離れた場所に停めた車の中から様子を伺っていた冴子も、その強さと鬼気迫る立ち居振る舞いに戦慄していた。そしてファングが来人を(狂戦士に変えてでも)守る為に存在しているメモリであることを確信した。
 圧倒的強さでマスカレイド・ドーパント達を全滅させ、アームズ・ドーパントも追い詰めるWファングジョーカーだったが、まともじゃ勝てないと判断したアームズ・ドーパントは亜樹子を人質に取ったが、フィリップがファングに暴走させられていた状態では委細構わず、Wファングジョーカーは亜樹子諸共アームズ・ドーパントを斬り殺そうとした。
 Wファングジョーカーのもう1つの意識である翔太郎は心の中でそれを止めんとして絶叫した。

 相棒の暴走を止めるために心の底から叫んだ翔太郎は、その意識をフィリップの心象世界へとダイブした。そこは業火に包まれる地球の本棚という、実に凄惨かつ痛々しい光景で、翔太郎はそこにフィリップが自分の知識と理性がすべて燃え上がっているような恐怖に襲われていると踏んだ。
 必死になって翔太郎が炎の中を探しまわると、程なくして本の中に埋れているフィリップを発見した。フィリップは信じて待っていた、翔太郎が必ず自分を探し出してくれることを。それを当然として、「俺達はなんだ?」と問う翔太郎への答えは勿論、「僕達は…2人で1人の仮面ライダーだ!」である。仮面ライダーWの原点、ここに極まれり、である。
 そして2人が手を取り合った瞬間、燃え盛る炎は跡形もなく消え去りいつも通りの整然と並んだ地球の本棚が復活し、亜樹子の首筋めがけて放たれたアームファングは、触れるギリギリのところで寸止めされていた。
 「ごめんよ亜樹ちゃん、もう大丈夫だ。さあ、お前の罪を数えろ!」と言って、アームズ・ドーパントに向かい合うWファングジョーカー。こうなるともはや勝負は見えた。
 ヘコヘコ逃げようとするアームズ・ドーパントにマキシマムドライブを発動するのだが、
 「ファングの必殺技はファング・ストライザーでどうだ?」と翔太郎が問えば、「フフ、名前はキミの好きにしたまえ。ファング・ストライザー!」と答える余裕(笑)のWファングジョーカー
 レッグファングがシャキーンと伸びた状態で上空高くジャンプし、敵に向かってグルグル回転しながら急降下して斬撃を叩き込まれ、ブロッケンの帰還が炸裂した。
 勿論アームズ・ドーパントに耐えられる筈はなく、メモリブレイクし、剣児は人間の姿に戻ったところを冬身に抱きしめられ、安堵の中意識を失った。

 完全な形勢逆転を見届け、その場から逃走した冴子だが、Wはこれを追跡。フィリップが疲労困憊のため、メモリを入れ替え、いつも通り翔太郎ベースのWでハードボイルダーに搭乗し、これを追い詰めた。
 ルナトリガー・マキシマムバーストで追い詰められるタブー・ドーパントだったが、それを目にも留まらぬ速さで飛来した影が救った。
 影の正体はナスカ・ドーパントの高速移動に覚醒した夫・霧彦だった。
 霧彦曰く、「僕にも意地というものがあってね。訓練を重ねていた。キミのために」とのことで、あれだけ辛辣に責められながらも、妻の為にひたすら己を磨いていたとはかなりの根性である。さすがの冴子も旦那様の想いに感動した様で、皮肉な言葉が出ることもなかった。

 タブー・ドーパントを追う際のカーチェイス中に、崩れたコンクリートからあわやのところで少女を救ったWは、その行いと、偽ライダーを騙っていた倉田剣児の逮捕で風都のヒーローに返り咲き、刃野刑事の応対も丁寧なものに復した。
 冬美は翔太郎との約束通りツィンローズの相方として自首し、この事件は幕を閉じることとなった。だが翔太郎は1年間姿を見せなかったファングが今頃現れたことに、前に更なる危険が訪れるという予見と見ていたが、そんなシリアスシーンが次の瞬間絶叫に変わった。話の冒頭で無茶な減量に挑んでいたフィリップはリバウンドで激太り………妙な落ちがついたところで(笑)、終了。


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平成三〇(2018)年六月二六日 最終更新