仮面ライダーW全話解説

第17話 さらばNよ / メモリキッズ

監督:諸田敏
脚本:長谷川圭一
 話が始まるや、いきなりWとナスカ・ドーパントが死闘を繰り広げていた。きっかけは30分前の偶然に在り、回想シーンにて翔太郎と霧彦が同じ馴染みの理容店・バーバー風に居合わせたことにあった。
 互いに蒸しタオルで顔が見えないため敵同士とは露知らず、風都を心から愛する者同士として意気投合し、霧彦は風都のマスコットキャラクター・風都くんは自分がデザインし、小学三年の時コンクールで優勝したものであることを告げ、翔太郎はそれに敬意を抱き、霧彦は「限定生産50個の激レア物」の、特製風都くんキーホルダーをプレゼンするという。
 「やっぱ風都は最高だよなぁ〜」と満面の笑みで蒸しタオルをのけて互いの顔を見た翔太郎と霧彦は互いに驚愕した。どうやら風都の辞書、並びに地球の本棚には「声で人を識別する」という言葉は無いらしい(苦笑)。

 かくして「表へ出んかい!」状態となって、冒頭の戦闘シーンへ繋がった訳だ。前回覚醒した高速移動に霧彦はファングジョーカーとの戦いを熱望したが、ファングメモリは再びその姿を消しており、普段通りのサイクロンジョーカーでの対戦になっていた。
 だが、戦いの場にバーバー風のマスターが来たことに気付き、両者は戦いを止めた。(何も知らない)馴染みの人間の前で殺し合ったり、戦闘に巻き込んだりするのを共に厭うた、粋な計らいの為だった。
 そして、「運命の悪戯」ともいえるこの「偶然の出会い」が「決して忘れられない別れの始まり」と翔太郎のモノローグで表現された。

 マスターがやって来たのは、一昨日から家に帰って来ないマスターの娘・江口茜(今野真菜)を探して欲しいという依頼を顔見知りの探偵である翔太郎にする為だった。
 勿論、快く依頼を引き受けた翔太郎。学生が対象とあってはこれまた当然のようにクイーンとエリザベスから情報提供を得て、さして時間もかからず彼女を発見した。
 だが、昔から「翔太郎兄ちゃん」と言ってよく懐いていた素直な娘が、その目を合わせようとせずに見るからに不真面目そうな級友とつるんでいた。

 「茜ちゃん、お父さんが心配してるぞ?早く家に帰るんだ。」という保護者的対応をする翔太郎に「あーマジめんどくせーしー。」というふざけた理由で攻撃を仕掛けようとする藤川統馬(木村遼希)という如何にも頭悪そうなクソガキが取り出したのは、なんとガイアメモリ。
 中学生がガイアメモリを所持していると云う事態に驚いた翔太郎が取り上げようとしたが、統馬はもう一人の少年・金村有一(吉原拓弥)にメモリをパスするや、有一はバード・ドーパントに変身した。
 その危険性を認識しているのか?と問う翔太郎に返したバード・ドーパント(有一)の台詞は、「知らねーよ!俺達はこいつの力で楽しみたいだけだ!」という、正に今時のクソガキのそれだった。
 真剣な想いもなく、ただ力を楽しむだけのドーパントなどWの敵ではなく、バード・ドーパントはあっさりWにボコられた。有一はたまらず変身解除して降参するかに見えたが、ガイアメモリを統馬にパスし、すると今度は統馬がバード・ドーパントに変身した!
 ガイアメモリの使い回しに驚く翔太郎。そしてフィリップもまた、メモリの使用には体へのコネクタ手術が必要で、それゆえに多数での使い回しは不可能の筈、との見解からこれに驚愕した。だが驚いたのは2人だけは無かった。
 物陰から事の一部始終を見ていた霧彦もまたその1人だった。中学生が面白半分に使っていることなど霧彦の目的とした使われ方ではなかった。

 バード・ドーパントに変身した統馬は驚くWを尻目に茜を抱いてその場をトンズラ。取り敢えず残された有一を締め上げようとすると、有一は腕を押さえて苦しみ出した。見れば、腕のコネクタ部分と思われる個所が真っ黒に焼け爛れ、凄く痛そうにしている。これまた霧彦の知らない事態だった。

 即座に病院に運ばれ、幸い大事には至らなかったが、さすがにこうなってはもう一人の女の子友達・久保田弥生(伊倉愛美)もすっかり怯え、翔太郎に真実を話し出した。
 最初の内は空を飛べるアイテムとして、純粋に飛行を楽しんでいたのだが、しばらくすると統馬が「これで空から人とか襲ったら愉快じゃね?」と馬鹿げたことをほざき出した。強烈な恨みを持つ相手でもいるならまだ分からないでもないが、襲撃理由は明らかに面白半分で、こうなるとメモリの副作用で苦しんでいることに同情出来なくなる(嘆息)。
 最近は茜が止めるのも聞かずにあちこちを襲っていたというどうしょうもない屑で、茜が家に帰らなかったのは、アホの彼氏の暴走を制する為だったと見えた…………てゆーか、もっとマシな男選べ、茜よ。
 ともあれ、弥生から統馬の次のターゲット候補を聞き出した翔太郎は、統馬を止め、茜を救う為に行動に出た。

 場面は替って園咲邸。琉兵衛が若菜に、彼女のガイアメモリを拾ったことを告げた。ほぼ同時に「落としたことを言い出せなかったんだね?」と優しく微笑まれては、若菜もそれを狼狽えながら琉兵衛の言葉を肯定し、礼を言って受け取る他なかった。
 尚も微笑みながら、ガイアメモリを「我々家族の絆」として、大切にするよう語りかける琉兵衛。明らかに再度捨てることを許さない静かな圧力であった。
 若菜が去ると、今度は冴子に新メモリの開発について尋ねる琉兵衛。「もう少しだったのですが思わぬ邪魔が入ってしまいまして。」と弁明する冴子の台詞に「そうか。来人はまだ戻らんか。」と少々残念そうに呟く。
 そんな父に冴子は、「霧彦さんがナスカの高速移動に覚醒した。」との朗報を伝えたが、琉兵衛は「流石は冴子が選んだ男」、と一応は褒めつつも、「レベル2」や「ここまでは」という気になる単語を口にするのだった。

 その夜、霧彦は珍しく語気を荒げて妻に詰め寄っていた。曰く、「まだ15歳の子供にメモリが出回っていた」のが納得出来ない、とのことだった。
 霧彦の論では、自分達がガイアメモリを売るのは人間をより高度な生命体へ進化させる為で、その過程において「薄汚い大人達」が犠牲になるのは一向に構わないが、「未来ある少年少女」が犠牲になるのは許せない、とのことだった。
 大人が相手でもやったらアカンことだが、ガイアメモリの使い回しは現実社会の、軽い気持ちで手を出すガキどもの薬物問題とダブって見える。ともあれ、風都を愛するこの男にとって、風都の未来を担うであろう未成年者へのメモリ流通は度し難い事態だった。
 一応は、夫に同調し、調査を約束し、同時に夫の体調を気遣う冴子。ナスカのメモリ所有者としてのレベルアップは身体への負担が大きいのだろうか?

 場面は変わって、風麺の屋台。そこでは刃刑事と真倉刑事が風都署に配属される超有能新人の噂をしていたが、照井竜(木ノ本嶺浩)登場への伏線だな(笑)。
 そこへ屋台襲撃にバード・ドーパントが現れたが、弥生の情報により駆けつけた翔太郎がこれを阻止した。「お願い翔太郎お兄ちゃん!統馬を止めて!」という茜の台詞に応じようとして、茜の存在に驚いて振り返るとそこにはフィリップがいた。
 フィリップが現場に出張った目的はファングで、自分がピンチになればファングは必ず現れるという仮説を確かめる為、敢えて自らの身を危険に晒すという行動に出たものだった。外れとったらどうすんねん(笑)。
 かくして無防備でバード・ドーパントに歩み寄ったフィリップだったが、羽手裏剣が打ち込まれるも、全弾とも眼前でファングに撃ち落とされていた。「検証成功」はもはやお約束だな(苦笑)。
 当然2人はWファングジョーカーに変身。勿論バード・ドーパントなぞ敵ではない。ファング・ストライザーであっさり瞬殺した。

 だが、別の問題が残った。メモリブレイクの際にはドーパントの体内からガイアメモリが排出され、それと同時に壊れる筈が今回はそうはならなかった。
 それに驚くフィリップの横で、統馬も有一のように腕を抑え苦しみ始めた(←正直、「様あ見ろ。」と思っている)。
 そこに現れた霧彦曰く、「おそらくメモリを使い回したせいだろう。本来そんな使い方はできない筈。」とのこと。ミュージアムが売ったのに他人事の様に見える霧彦に激昂する翔太郎だったが、霧彦は過去に未成年者にメモリを売ったことはない、と強弁し、現実に未成年が所持しているという問題に対してその原因を調査している、とも答えた。

 視聴者的にはこの問題に霧彦が真剣に胸を痛めているが分かっているが、翔太郎達にはそこまでは分からない。おまけに霧彦は、未成年問題は未成年問題として、自身はファングジョーカーとの決着を望み、有無を言わさずファングジョーカーに斬り掛ったところで、以下次週へ。


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平成三〇(2018)年六月二六日 最終更新