仮面ライダーW全話解説

第18話 さらばNよ / 友は風と共に

監督:諸田敏
脚本:長谷川圭一
 前週のラストから一騎打ちを継続していたWとナスカ・ドーパントだったが、今週に入ってナスカ・ドーパントがナスカの高速移動に体がついて行けないとの異常に陥った。
 正に突け入るべき隙を見せた訳だが、Wは敢えて攻撃を止め、「なぜ・・・攻撃を止めた?」と訝しがる霧彦に、それには答えずに彼が風都を愛しているといった言葉を信じ、それが本当なら子供達を泣かさない為にも「メモリ流通を止めろ」と言い残して見逃した。

 その後、旅行代理店、交番、歯医者、そしてラーメン屋台…と一見バラバラに見えるバード・ドーパントの襲撃地に一定の関連性があることが検索で分かった。それは江口茜の陸上競技のライバル達…勿論中学生なのだが、その親の勤め先だった。
 またバード・ドーパントに変身した4人の内、ガイアメモリを差しこむ生体コネクタが、3人になく、1人だけあることも判明。その1人こそが最初にガイアメモリを謎の女性(=冴子)から貰った茜で、彼女は「統馬は私の為におかしくなっちゃったの。」と泣き崩れた。
 幸い、病院に担ぎ込まれた統馬の命に別状はなかったが、事務所に戻ったフィリップは更なる検索により事件の真相に辿り着いていた。バードメモリのコネクタを持つ正式な所有者は、誰あろう茜本人で、陸上大会が間近に迫るも好成績が残せずスランプに苦しんでいた茜は、ある謎の女性からそのメモリを受け取ったのだという。
 茜の回想シーンに現れた女性(←視聴者には冴子と分かる)曰く、「これを使うとアタマがスッキリして調子も上がるわよ」という女の言葉にほだされ、最初にそれを使ったのも彼女だった。この様な教唆の進め方も、使ったときの感覚に溺れるのも、正に現実の若者による薬物乱用と酷似していた。
 ガイアメモリを提供した謎の女の言葉通り、バード・ドーパントに1度変身すると身体に力が漲るようになり、高跳びの記録もグングン上がった茜だったが、そのメモリを仲間達に見せてしまったのが今回の事件の発端になってしまったのだと言い、自責の念に駆られて号泣する茜を責めることも出来ず、翔太郎達は落ち着くまで事務所で休ませることにして、翔太郎は一先ずバーバー風のマスターに茜の無事を伝えに行くことにした。

 風都を愛し、風都の未来を担う少年少女がガイアメモリに毒されて人生を棒に振るのを座視できない霧彦に対して、彼が怒りの対象とした未成年者へのガイアメモリ提供者はその妻・冴子だった。さすがにこれにはいくら悪人でも、ある種の筋を通そうとする霧彦に同情する。
 園咲邸で自分も知らない部屋から冴子が出て来たのを見た霧彦はその扉から地下に入り、広大な空間を見つけて驚愕した。そこに琉兵衛が現れ、「この場所で我々は地球の記憶を手にし、ガイアメモリは生まれたのだよ。」と霧彦に告げた。
 琉兵衛と対峙していた霧彦は、琉兵衛の口から、この地下空間こそが園咲家が”力”を手に入れたルーツにして、聖地とも言える場所であること、未だ多くの謎に満ちている地球の記憶を解明する為に「実験」を必要として、ミュージアムはメモリを風都に流通させていることを教えられた。
 つまりバードメモリが中学生に流通したのも、純粋無垢な精神と肉体により、バードメモリが急速な進化を遂げ、やがて使用者の肉体は限界を越えるのを確認する大いなる人体実験であったことが明かされた。
 ただでさえ危険なガイアメモリが子供達を死なせるかもしれない上に、それを子供達に流通していたのが義父であったことに愕然とした霧彦に、琉兵衛は「だから何だね?無駄な死ではないよ。得られたデータは我々の目的に大いに貢献するだろう。」と、相変わらずの笑みで恐ろしいことをあっけらかんと言い切った。
 自分の中で何かがキレた霧彦は「そんな事はさせないっ!教えろ、どうすれば彼らを救える?」と問えば、琉兵衛は「体内のメモリの場所を正確に特定し、破壊するしかあるまいな。」と答えた。だが琉兵衛はその解答を無意味なものと見ていた。
 というのも、完全にブチ切れた霧彦がナスカ・ドーパントに変身して琉兵衛の首に剣を突きつけて凄むも、霧彦の体はナスカのレベル2で限界に達していた。
 驚き、「ま、まさか?」と問う霧彦に琉兵衛は「そう。キミも実験台だったのだよ。ナスカのメモリを解き明かす為のね。もうすぐキミは死ぬ。辛そうだな霧彦君…すぐ楽にしてあげよう。寂しいものだね家族が1人減るというのは…。」と宣告。恐らくこの台詞のすべてが本音だから園咲琉兵衛は恐ろしい。
 テラー・ドーパントに変身した琉兵衛はあの謎のドロドロを広げ、霧彦は一旦これに捉えられたが、最後の力を振り絞って高速移動を発動して脱出。園咲邸を飛び出した。

 その頃、鳴海探偵事務所では茜が目覚め、「返して…私のバードメモリを返して!私はもっと飛びたいのよォォォォォ!」と叫ぶや、フィリップを貼り倒し、亜樹子を突き飛ばして事務所外に飛び出した。
 ここまで来ると完全に「メモリ=麻薬」の禁断症状である。この描写を通じて禁断症状の(自分が自分でなくなることの)恐ろしさが伝わり、現実の薬物乱用に少しでも歯止めがかかることが願われてならない
 夢遊病者のように事務所を出た茜はそこで再び冴子と遭遇、バードメモリを受け取って変身してしまった。琉兵衛に見捨てられた霧彦だったが、冴子ももはや霧彦の妻とは言えなかった。
 すぐに茜に追い付くも、正体が正体なのでWも本気で戦えなかった。

 場面が替って、こちらは霧彦。琉兵衛の元を逃れた霧彦はミック=スミロドン・ドーパントの追撃を受けていた。その彼の危機を救ったのは、クレイドール・ドーパントに変身して火炎弾でスミロドン・ドーパントを追っ払った若菜だった。
 「いつものクールさが台無しですわね。霧彦お義兄様」との皮肉めいた台詞にも、「やぁ若菜ちゃん助かったよ。キミには嫌われてるとばかり思っていた。」と妙に本音溢れる感謝で返す霧彦。やはり多少なりとも若菜はフィリップとの邂逅を通じて良化している様だ。
 息も絶え絶え状態で霧彦は若菜に、「もし信じていたものに裏切られたとして…キミならどうする?」と問う。穏やかならぬ質問だったが若菜は「自分の心に聞いてみるわ。本当に自分がしたいことは何なのかって」とアドバイスし、琉兵衛との間に何かがあったのでは?と訝しがった。
 だが霧彦はそれには答えず、若菜に「おかげで吹っ切れたよ。」と感謝の言葉を述べ、彼女のラジオ番組が結構好きだったと告げて立ち去った。愛する風都を守る為に……。

 現場に駆け付けた霧彦はナスカ・ドーパントに変身し、琉兵衛から得た情報を基に、「バードのメモリは体内の場所を正確に特定しないと破壊出来ない。私がメモリの場所を見つけるからキミが破壊するんだ!」とWに告げて、バード・ドーパントにしがみつくと、そのメモリの位置を露出させた。まさかの助っ人の加勢だったが、Wはこれを利してトリガーマキシマムドライブのバットシューティングでメモリブレイクは正確にバードのメモリだけを破壊することに成功した。

 まさかの協力に釈然としないながらも、礼を言う翔太郎に、霧彦は「フッ、まさか君等に礼を言われる日が来るとはな・・・ぐううっ!き、気をつけろ・・・ミュージアムという組織は・・・想像以上の闇を抱えているこの街を・・・よろしく頼む。」という言葉と一緒にバーバーで約束していた風都くんキーホルダーを投げて寄こし、霧彦はこの街を守るという役目を翔太郎に託した。

 夕暮れ、重傷の霧彦の元に、彼に呼び出された冴子が現れた。こんな場所に呼び出す夫を訝しがる冴子に霧彦が告げたのは、「冴子…私と一緒に園咲の家を出てくれないか?私を愛しているのなら。」という台詞だった。
 琉兵衛には裏切られたと思っても、妻である冴子は信じたかったのだろう。背景はどうあれ、霧彦は冴子を愛し、冴子に愛されていると信じていた。「そう、わかったわ霧彦さん…。」と言った冴子だったが、即座に「(分かったのは)あなたがもう私にとって必要なくなったことが。」という台詞で、タブー・ドーパントの火炎弾を生身の体でまともに食らった霧彦は元妻の名を口にすることも出来なくなった。
 「これは返してもらうわよ。我々ミュージアムの…いえ、私の崇高なる目的の為にね…さようならあなた。」と元夫からナスカのメモリとベルトを奪い、冴子は去っていった。
 遠ざかっていく妻のヒールの音を聞きながら、しかしその表情は憤怒や怨嗟に歪むことなく穏やかで、「ふふ…やっぱり風都は…いい風が吹くなぁ…」と生まれ育った地への愛を口にして息を引き取った。その体は砂のようになって崩れ、塵となって風都の空に舞っていくのだった。

 事務所では例によって翔太郎がラストのタイプライティングを行っていた。統馬と有一は無事意識を取り戻し、茜は父であるマスターの元に帰った。だが、事件解決の裏で1人の風都を愛する男=園咲霧彦が消えたことが回想されていた。
 報告書を打つ翔太郎の視線の先には「園咲家婿、突然の事故死」と書かれた風都新聞の一面記事があった。あの死に様を「事故死」にされてしまうのだから、ミュージアムの力が強いのか、風都署がへぼ過ぎるのか……。
 ともあれ、彼との共闘、そしてキーホルダーと風都の未来を託してくれたことの意味を悟り、哀しみを募らせる翔太郎は自分達が霧彦さんの分までこの風都を愛し、そして守っていかなければならないと心に強く誓い無意識に敬礼のポーズを取っていた。

 そして本当のラスト。霧彦と入れ替わるように1人の男(木ノ本嶺浩)が風都にやって来た。
 「嫌な風だ…だから嫌いなんだよこの街は」と呟く赤尽くめの男。善に属そうと、悪に属そうと登場人物のほぼ全員が風都に何らかの愛着を持っている中、嫌悪感を示す奴は珍しい。果たして、この男は何者?


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平成三〇(2018)年六月二六日 最終更新