仮面ライダーW全話解説

第20話 Iが止まらない / 仮面ライダーの流儀

監督:石田秀範
脚本:三条陸
 尋常ならざる殺意で戦意喪失状態の片平真紀子にエンジンブレードを振り下ろす仮面ライダーアクセル・照井竜。
 すんでのところで割って入ったWがこれを阻止したが、当然アクセルは猛抗議。照井曰く、「コイツは俺のすべてを奪った”W”のメモリの持ち主。」とのこと。だが、Wは「”仮面ライダー”」の名に掛けて照井が「罪を憎んで人を憎まず」という風都の人々が仮面ライダーに望んでいる期待を裏切ることを許さない。
 勿論これで収まれば警察は要らない(?)訳で、照井は翔太郎の考えが甘く、風都は腐っている故に人の心も腐り、そんな街が大嫌いであると言い放った。
 愛する風都を貶されては、掴みかかろうとしてながら照井の名を絶叫する翔太郎も気合が入りまくる。

 照井が口にした「Wのメモリ」をヒントに、「ウィンター」、「ホワイト」等の頭文字がWの氷のメモリでは検索を絞り込めず、頭を抱えるフィリップは照井の確信に対して疑問を感じた。
 翔太郎は照井のやり方に反発し、「街が悪いから人も悪くなる・・・?そうなのか?」、「いいや照井は間違っている。俺達は俺達でこの事件を追うぞ。」と考えながら傷ついた身体を押して単独で片平真紀子を追った。

 その頃、公園で落ち合った真紀子と清の母子は何やら言い争っていたが、清はもう知らん、とばかりに公園を後にした。
 「母親を庇う孝行息子にもついに見放されたか?」と呟きながら登場したアクセルはまたもや無抵抗のオバハンに斬りかかろうとする。だが翔太郎&フィリップが到着し、これを阻止。フィリップは自分の方が説得に向いていると宣して、2人はファングジョーカーに変身した。
 「法の番人として当然の正義を行っているだけだ!」と激昂するアクセルに、「キミの行為は正義ではない!個人的な復讐だ!」と反論するW。どうやら自分の過去を調べたらしいフィリップを「検索小僧」と呼んで、「俺の心の痛みが解るとでも言うのか!」と吼えた。
 つまるところ、照井の尋常ならざる怒りはアイスエイジ・ドーパントを仇と見るが故のものだった。
 つまり、1年前、謎の凍結ドーパントの手によって両親と妹を殺害されたことへの復讐心に端を発していたもので、過去に風都で起きた凍結事件を検索したフィリップは、そのことを突き止めていたのだった。
 丸で平成ライダー版風見志郎を想わせる照井竜の過去。そんな怒りと哀しみに暮れる照井の前に現われ、アクセルのメモリとエンジンブレードを授けたのがあのシュラウド(声:幸田直美)という女性だった。「復讐を支える」というシルバータイタン好みの低めの声の持ち主だが、普通に考えるなら他の稀もしないのに復讐に加担するとは、容貌並みに随分不可解な女性である。
 凍りついた父が事切れる寸前に照井に残した言葉が、”Wのメモリを持つドーパント”で、それゆえに照井は風都を「悪魔の巣」と見做し、片平真紀子殺害を宣し、翔太郎達に自分を止める資格はない!と言い放った。激昂しながらも「君達」というらしくない2人称を使っているところが平常心の喪失を伺わせる。
 だが立ち去ろうとした照井に、真相を知った翔太郎とフィリップが突きつけたのは、「お前の気持ちは痛いほど伝わったぜ照井。だがな…そのせいでお前は間違った人間を殺めるところだったんだぞ。片平真紀子は犯人じゃない」という驚愕の台詞。
 勿論驚く照井。詰まるところ本当のアイスエイジ・ドーパントは息子の清の方だった。

 場面は替ってとあるクラブ。ウォッチャマンの情報通り、評判が悪いのは真紀子ではなく、母親の金で派手に遊び歩いている息子の方で、見るからに馬鹿な遊びに耽ってそうな仲間達とクラブで踊り狂う青年こそがアイスエイジ・ドーパントだった。

 翔太郎、フィリップ、照井はついに真犯人を追いつめたのだが、この作品に出て来る悪党らしく、全く悪びれるケラケラ笑いながら犯行の動機をカミングアウト。その動機は「どいつもこいつも俺のことを親のスネかじってるバカ息子って笑いやがってよ…だからこのメモリの力で思い知らせてやったんだ。人を凍えさせるのは楽しかったぜぇ〜。」という身勝手なもの。否、「親のスネかじってるバカ息子」って、その通りだし(笑)。
 世間の評判を逆恨みし、「だからムカついた奴を片っ端から凍らせた」という、身勝手且つどうしようもないクソガキで(年齢は二〇歳を超えてそうだったが)、真紀子の怪しげな行動は捜査の目を自分に向けて、清を庇おうとしていたものだったことも分かった。
 いくら両親と妹の仇討ちに逸っていたとはいえ、さすがに誤解で無実の人間を殺しかねなかったと知っては、反省しない様な人間ではなかった、照井は。
 そしてそこに真紀子が乱入し、息子は必ず自分が自首させますから!と涙ながらに息子・清を攻撃しないよう懇願したが、カス息子はそんな母の想いにも応えずトンズラ。
 翔太郎は真紀子に「彼は俺達が止めます。もうアンタを1人でメリーゴーラウンドには乗させはしない。あの時のアンタの切なそうな表情が忘れられなくてね。」と声を掛けて駆け出した。フムフムこれぐらいの年齢層の熟女はこの様にして口説くのか………(←個人的趣味を妄想中)。
 翔太郎を甘いと評しつつも、秘かにその甘さに救われたことを仄めかす照井。そんな翔太郎を「ハーフボイルドだからね、あいつ」という亜樹子の台詞にようやく自分の勇み足が持っていた危険性と、翔太郎の言わんとしていた仮面ライダー像を悟り、照井もその後を追った。

 「振り切るぜ!」と前回同様ヒートをメインに挑んで尚アイスエイジ・ドーパントに苦戦を強いられるWにアクセルは、「スチーム」「エレクトリック」等の新能力を次々披露しこれを追い詰めた。エンジン・マキシマムドライブを発動させ、必殺キックアクセルグランツァーを放ち、剣先から発せられた衝撃波が「A」の形状となって敵を貫いた。
 「絶望がお前のゴールだ」との台詞とともに大爆発が起こり、メモリブレイクされて変身解除した清に無言で歩み寄るアクセルは清に刃を突き付けた。
 必死にそれを止めようと駆け寄る翔太郎と真紀子だったが、次の瞬間、アクセルは照井の姿に戻って、清に「行き先を変えよう。お前のゴールは…刑務所だ。」といって、手錠を掛けていた。
 「ハーフボイルド…とかいうらしいな。キミの流儀。この街にいるうちはその流儀に合わせよう。俺も仮面ライダーだからな。」と、1つの改心を遂げた照井竜がそこにいた。ウム、これぐらい一歩一歩砕けていくのが自然かな?

 メモリブレイクされ、ガイアメモリの悪しき影響かを脱したためか、清もようやく自分の罪の重さを認め、心配をかけたと母親に謝罪し、母はそれを優しく抱きしめた。
 万事OKに見えたが、ここでメモリが「W」ではなかったことに照井が気付いた。落ちていたのは「アイスエイジ」だった(解説の都合上、何度も表記していたが、アイスエイジ・ドーパントの名が初めて出たのはこのときだった)。
 少し冷静さを欠きながら照井が尋問したところ、清がアイスエイジのメモリを手に入れたのは僅か2週間前で、照井の家族が殺された1年前とは計算が合わなかった。
 血が出る程唇を強く噛み締め、見えない真犯人に対する復讐心を再び熱く燃やし、「Wのメモリは…俺の家族を殺した犯人は…別にいる」と静かな怒りを漲らせる照井竜だった。

 一方その頃、冴子と若菜の姉妹は珍しく2人揃って会食に出席していた。その前のシーンで相手を「ミュージアムに取ってとても重要な人物」と知らされていたその人物は顔を見せなかったが、身なりのいい紳士風だった。
 若菜は「にこやかだけど怖い人」と評し、冴子は「ガイアメモリが生み出した突然変異の化物」、「私に…いいえ園咲の家に相応しい男(←冗談)」、「誰にもなびかない」、「大事なのはミュージアムの敵に回さないこと」等の寸評を付け加えた。
 そして彼女達さえ、敵に回してはいけないと警戒するその男が持つガイアメモリのイニシャルこそ「W」であった。

 そしてラストの場面での鳴海探偵事務所。何故か現役警察幹部である筈の照井がそこにいた。訝しがる翔太郎に珍しく怒りもせずに照井が答えたその答えは、「キミの炒れるコーヒーが酷過ぎるからだ。せっかくの豆が泣く。」というもので、確かにその味は翔太郎も、フィリップも、亜樹子も固まる程絶賛するものだった。
 だが、「何ならフィリップの相棒も代わろうか?彼の能力はキミには不釣合いだ。」と言われては翔太郎もいい顔出来ず、枕を投げて、「二度と来んな!」と怒鳴りつけて追い出した。まあ本気の敵意ならもっと固い物を投げつけると思われるが(笑)。


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平成三〇(2018)年六月二七日 最終更新