仮面ライダーW全話解説

第21話 還ってきたT / 女には向かないメロディ

監督:坂本浩一
脚本:長谷川圭一
 冒頭、登場したのは照井と真倉刑事のタッグ。警察の捜査情報をミュージアムへ流していた悪徳刑事・氷室(村岡弘之)と、現場で彼に金を渡していた三下達を抑えに掛った。
 だが、三下達はマスカレイド・ドーパントに変身して抵抗しようとした。せっかくの見せ場なのにうろたえ、一人で勝手に転んで気絶した真倉(嘆息)。それに対して照井は「これで心置きなく暴れられる…。」とアクセルに変身。つまり自分が仮面ライダーであることは部下に隠しているんやね。まあ照井が仮面ライダーになったのはつい最近な訳だが。
 「絶望がお前達のゴールだ。」の決め台詞とともに周囲3方向に引かれた直線が「A」を形成する斬撃でマスカレイド・ドーパント達を一掃した。チョット三下相手に大技を使い過ぎた気はするが。
 その間にその場から逃げ出した悪徳刑事・氷室だったが、突如聞えて来た口笛に死んだ筈の「溝口」なる人物の名を口に出して驚愕。あっさりと謎のドーパントに殺されたのだった。
 直後に駆け付けたアクセルは殺害された氷室を見て、口封じと判断し、ドーパントに戦いを挑んだが逃げられた。

 倒れた真倉刑事のところに戻り、介抱していた照井。気がついた真倉刑事はマスカレイド・ドーパントの生き残りが照井を狙っているのに気付いて、「志村!後ろ!後ろ!」的に警告としたが、マスカレイド・ドーパントはどこからか放たれた銃弾がマスカレイド・ドーパントを仕留められた。
 狙撃の主は1人の女性。本日付けで風都署超常犯罪捜査課に配属された九条綾(木下あゆ美)と名乗った。ロス市警帰りの敏腕女性刑事とのことで、英語が混じるのは言いのだが、「ナイストゥミーチュー」を始め、時折出て来る英語は恐ろしい程カタカナ読み発音だった(泣)。

 次の場面は鳴海探偵事務所。そこにやって来たのは真倉刑事。普段何かと翔太郎が事件現場に顔を出すのを厭い、名前すら呼ばずに「探偵!」と凄むことの多い彼が、尋常ならざる勢いで「頼む!俺に力を貸してくれ翔ちゃん!翔太郎さん!いや翔太郎先生!」と土下座までする………明らかに異常だ。
 刃野刑事と仲は良くても、元々は権力に靡きたがらない翔太郎は話も聞かずに断ろうとしたが、フィリップの「真倉刑事が翔太郎に頭を下げるなんて興味津々だね。話だけでも聞く価値がある。」との一言でまずは話を聞くこととなった。
 ここから真倉刑事の回想シーンとなったのだが、その場所は風都署内の格闘技の訓練所で、照井と綾が組手(空手?キックボクシング?マーシャルアーツ?)をし、流麗な殺陣を披露しながら情報交換をしていた。
 その最中に滞米経験から人をファーストネームで呼ぶクセがついたという綾は上司である照井を「竜」と呼んでいいか?と尋ね、照井は「「好きにしろ」と答える……………って、アンタ、新島八重か大山捨松かい!?個人の中ならともかく、職務中に部下が上長を、ファーストネームは良いとしても、呼び捨てとは頂けない。いくら今回と次回限りの話とはいえ。
 ともあれ、二人の訓練を見ていた真倉刑事は照井と綾がなんかイイ雰囲気になったのを激しく嫉妬。
 ここで回想シーンが終わったのだが、要するに綾に一目惚れしてしまった真倉刑事が、彼女にイイ所を見せるために照井を出し抜いて手柄を挙げたいという、実にくだらない依頼だった。

 あまりにも俗な理由にフィリップは「聞いて損した」という態度を取ったが、逆に「照井には1度ガツンと思い知らせておく必要がある。」と思っていた翔太郎の方が乗り気を見せた。しかも普段の「マッキー」ではなく、「真倉刑事」と呼んで(笑)。
 かくして互いの利害が一致した、普段は犬猿の仲2人がタッグを結成。超常犯罪捜査課とは別行動で事件を追うことに。

 綾の情報によれば、殺された氷室は窓口役に過ぎず、ミュージアムへ内通している悪徳刑事は他にもう1人いるという。ウォッチャマンの情報から阿久津憲(大高洋夫)という刑事に目星をつけた翔太郎達だったが、阿久津の周囲では彼が面倒を見ていた無職者が次々姿を消しているとも言う。
 一方、照井達の方でも彼に辿り着いていた。阿久津を見張る照井の隣に綾がいるのに気付いた真倉刑事はすっかり冷静さを失って、手柄を焦り、「うおー阿久津ぅー!逮捕だー!」と大声を上げながら突貫。ダメだこりゃ、マッキー………。当然これがために阿久津には逃げられた。
 これを追走し、追い詰めた照井だったが…そこで再び冒頭の口笛の音が聞こえたかと思うと、あのドーパントが現われた。
 ドーパントの動きは素早く、照井は変身直前に弾き飛ばされ、ゴミ置き場の上に転落した。阿久津の狼狽え振りから、ドーパントの正体は死んだ筈の溝口なる男と見え、ドーパントもまた「地獄から戻ってきたのさ。お前達を迎えにな。」と阿久津の推測を肯定するかのような台詞を吐く。
 だが悪党が対象でも目の前の殺人を許さないWがこのタイミングで登場。激しい戦闘の末、右足をメタルシャフトで思いっきりブッ叩かれたドーパントは足を引きずりながら退散した。阿久津にもまんまと逃げられてしまったが、そこに戻って来た照井は阿久津が残した「キャサリン」と書かれたキーホルダーを入手し、一行は鳴海探偵事務所へと向かった。

 初対面となるフィリップに綾は「ナイストゥミーチュー」というバリバリ日本語発音の英語で握手を求めたが、フィリップはそれに応じず(←おい、無礼だぞ!)、綾が足を怪我しているのではないか?と返した。曰く、「微妙に庇ってるように見えます。」とのことだった。
 ともあれ、検索に掛ることになり、その為に手掛かりが集められたのだが、ここで明かされたのが氷室も阿久津も口にしていた、ドーパントの正体と思しき”溝口”である。
 その人物を綾は知っていた。知っていたどころか、元風都署捜査一課刑事・溝口正輝(白井圭太)とは綾の同僚にして、綾の刑事としての成長に大きく貢献してくれた存在でもあった。
 真倉刑事の記憶では、半年前に裏金を巡る汚職で懲戒免職になり、世間やマスコミに追い詰められ、最後は投身自殺した最低な刑事、というものだったが、綾は連中に濡れ衣を着せられたとして真倉刑事の論評を真っ向から否定した。
 だが、しばしの静寂後、真倉刑事は「やっぱり最低の刑事じゃないですか!優秀な刑事なら犯人逮捕し、法に委ねるべきだ!それをドーパントになって復讐だなんて!」と叫んだが、「お前に何が分かるっ!」の台詞とともに放たれた照井の裏拳を顔面に食らってダウンした。
 自身、家族の復讐の為にも戦っている照井にしてみれば他人事ではない。確かに刑事として、理そのものにおいては、真倉刑事は完全な正論を述べている。だがフィリップが漏らした「正論は時として暴論以上に人を怒らせる。」という台詞がこの場の的を得ていたと言えよう。
 「正論であれば貫き通されるべきだ。」と考えて人の感情や想いを顧みずに痛い目を見続けて来た前半生を持つシルバータイタンは真倉刑事にチョット同情するし、フィリップの言も良く分かる。
 外に出た照井は、そこで綾に自分も家族を殺された事とその相手に対する復讐心を持っていると語った。自分の為に真倉刑事を殴ってくれたのか?と問う綾に「ハエが止まっていた。」という大嘘な理由に力が抜ける(苦笑)。

 場面は変わって、ディガル・コーポレーション社長室。冴子は職場にミックを連れてきて、ペット同伴の遊び感覚を意識していない若菜にビンタを喰らわせ、「遊びじゃないのよ、この仕事は。あなたはまだ何も分かってないわ。ガイアメモリの本当の力も。その恐ろしさも。」と宣う。
 冷酷な女では有るが、職務には熱心と言うべきか。「ガイアメモリの本当の力も。その恐ろしさも。」という台詞が、事の是非はどうあれ、真剣に事に挑んでいる姿勢と、妹を心配すればこそとの想いが見え、さしもの若菜もいつもの舌打ちを見せずに黙って聞いていた。  そこへ冴子の元に1本の電話が掛って来た。電話(→しかも公衆電話からだった)の主は阿久津だった。

 場面は鳴海探偵事務所に戻る。フィリップの検索により、「キャサリン」は阿久津の所有するクルーザーの名前であることが判明。クルーザーってめっちゃ高いからやはり悪い事して儲けた金で買ったんだろうな。
 早速一行がそのクルーザーへ向かうと、潜伏していた阿久津をアッサリと発見。難なく身柄を確保することが出来た。
 訊問に対し、この番組に出る悪党らしく全く悪びれず、自慢するかのように犯行を語る阿久津。つまりは警察の情報を利用して、「行方不明になっても誰も捜さない人間」に「仕事をやる」と言って、ディガル・コーポレーションに彼等を売っていたという。しかもガイアメモリの実験台にされたであろうことを承知の上で。
 かかる悪行を笑いながら、「いい商売だったぜェ〜。」とほざき、あまつさえ、悪行を知って止めに来た溝口刑事を「あの野郎正義漢ぶりやがって…だから氷室と2人で殺ってやった。」と手前勝手な暴論を吐露し、更には「化物になって戻ってくるなんてよぉ!」との逆恨み節。「風都署が市民に頼られないのはこんな奴等がいるからか?」とすら思ってしまう悪党ぶりであった。

 開いた口が塞がらない悪党ぶりだが、ドーパントでも殺さない翔太郎は逮捕を前提として、「…テメエの命は刑務所で守ってもらうんだな。」と吐き捨てれば、「いいや俺を守るのはあの化物さ!」と喚く阿久津。化け物の正体はスミロドン・ドーパントのミックだった。
 どうやら先の阿久津の連絡を受けた冴子の命令で派遣された様だが、かりそめにも自分の身を守ってくれる存在すら「化け物」と呼ぶこの阿久津の性根はどこまで腐っているのか……。
 さすがに幹部クラスの強さを持つことを知っていたからWも油断なく戦ったが、それでもスミロドン・ドーパントルナトリガーのホーミングレーザーでも追尾し切れないスピードで襲い掛かる。
 翻弄される二人だったが、アクセルのスチームで煙幕を張り、目標を消失させたところで上空から斬り掛かるという奇襲により何とかこれを撃退した。
 そしてスミロドン・ドーパントの相手をしている隙に、阿久津はキャサリンに乗ってまんまと海へと逃走………と思ったら次の瞬間。阿久津を乗せたキャサリンが突然爆発四散し、外道は海の藻屑と消えた……。
 爆発の原因はいつの間にか埠頭に現われたドーパントがブン投げた槍の一撃によるものだった。そしてドーパントの正体はリベンジャー・溝口ではなく、九条綾であることが照井の口から告げられ。その暴露を受けた瞬間、正体を隠すこともなく変身を解除したトライセラトップス・ドーパントの正体は紛れもなく九条綾だった。
 ドーパントの正体が判明したところで以下次週へ。


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平成三〇(2018)年六月二八日 最終更新