仮面ライダーW全話解説

第22話 還ってきたT / 死なない男

監督:坂本浩一
脚本:長谷川圭一
 トライセラトップス・ドーパントから人間体に戻った九条綾は照井に尋ねた。自分の正体を知ったのがいつなのか?と。照井の答えはフィリップが彼女の足の怪我を指摘したときだという。うーん、この気付きは刑事として大切なものだが、こういうことは完全に照井とフィリップの出番となっている。哀れ翔太郎(苦笑)。

 納得した綾は、同時に照井が自分に同情し、見逃してくれていたものだと思った。だが照井は「復讐者の気持ち」自体は尊重しながらも、彼女が復讐の為に罪を重ねることを見逃すつもりはなかった。
 メモリを渡すよう命じた照井だったが、綾は溝口殺しの犯人はまだいるとして、これを拒否。彼女は復讐にこだわった。そんな綾に照井は斬り掛った。
 それを翔太郎が食い止めている間に綾は逃走。翔太郎と竜は睨み合って別れたのだった。

 鳴海探偵事務所に戻ると、フィリップはこのことに関しては照井の方が正しく、翔太郎を「せっかく見つけた猛獣を再び街に解き放ってしまった。」として非難した。
 翔太郎は、綾ならメモリに振り回されず、組織と戦っているとしたが、フィリップはメモリの力に飲み込まれた人間達の変貌を差し、油断出来ないとした。
 翔太郎がここまで綾を買う根拠は詳らかでないが、フィリップは翔太郎の精神論を鼻で笑い、「ハーフボイルド」と揶揄するが、「キミは忘れてないか?既に彼女は法で裁くべき人間を2人もその手に掛けている。」という現実を突き付けられては、「それでも俺は綾さんの強さを信じる!」とでも言うしかなく、綾を探しに出掛けた。翔太郎には綾が行きそう場所の心当たりがあるという。

 場面は替って風都署超常犯罪捜査課。自席のPCで溝口刑事が投身自殺したという風吹岬を調べていた照井は、刃野刑事との会話から、翔太郎が刃野刑事から岬のことを聞いていたのを知り、自分もそこへ向かおうとした。
 署を出た照井の携帯に電話が掛って来た。電話の主は自らを照井の家族を皆殺しにした者、と語り、妹の死に際を演出して照井を挑発した。丸で『ジョジョの奇妙な冒険』第3部に出て来たJ・ガイルである。
「出てきて俺と戦え!」と、この電話で完全に冷静さを失った照井は相手に言われるがままに指定された工事現場にやってきた。だが、突如頭上から落下してきた大量の鉄骨の下敷きになった。普段冷静な男が、平静なら掛からない単純な罠にまんまと掛かってしまったのであった。

 そして場面は風吹岬。そこで溝口の様に口笛を吹いていた綾は翔太郎に気付いた。
 翔太郎は自首を勧め、メモリの危険性を訴えた。意外にも綾はあっさり応じた。だが、「明日まで待って。ようやく組織の幹部への手がかりが見つかったのよ。」とのことで、「それを突き止めたら自首するわ。」と答えた。
 甘いと言おうか、御人好しと言おうか、翔太郎はこれを信じ、了承した。

 そしてその夜、綾はトライセラトップス・ドーパントに変身して、ディガル・コーポレーションにガイアメモリ流通の元締めである園咲冴子を襲撃した。
 ガードマン2人をぶっ飛ばし、変身しようとした冴子のガイアメモリを弾き飛ばして、彼女を組み敷いた。う〜ん……代わりた………ゴホッゴホッゴホッ……あっさり訪れた冴子のピンチ。冴子が抑えられた状態では若菜も動けない。
 だが変身を解除した綾は冴子に取引を持ち掛けた。幹部待遇で自分に私に阿久津の仕事を引き継がせろ、というのだ。仲間にすれば立場を利用して探偵事務所の3人を始末するというのだ。
 残念ながらフィリップの推測通り、彼女もまたメモリに悪の心を増幅させていた。冴子は条件付きでこれに応じた。条件=証拠として、超常犯罪捜査課・刃野刑事を殺して来いという。
 警察の仲間を殺せば信用するという理論は分からないでもないが、何故刃野なのか?3人の仮面ライダーの1人の名が出る方がまだ分かるのだが………?
 あっさり承諾した綾にはショックだったが、刃野刑事が冴子にその存在を認識されている事の方が驚きかもしれない(笑)。
 ともあれ、超常犯罪捜査課はミュージアムにとって邪魔な存在として冴子に認識されているというのが分かる。「冴えない刑事」との人物評は哀れだったが。

 翌朝、風都署に張る綾を物陰から亜樹子と共に見ていた翔太郎は「これで事件は無事解決」と胸を撫で下ろした。刃野刑事を殺しに来た綾を、約束通り自首しに来たと思ったのはまあいいが、そのまま確認もせずに署を離れたのは頂けない。飯をおごるぐらいで「一生ついて行くわ!」と歓喜してついて行く亜樹子も(苦笑)。
 街に出るとクイーン、エリザベスらと合流し、誘われるままにカラオケへ行ってしまった。午前中に合流した2人に「学校は?」と問われると、「創立記念日で休み!」とのこと。不良学生がさぼる時の定番台詞やな、と思っていたシルバータイタンの疑念は亜樹子が独り言で代弁していた(笑)。
 しかし、さぼりにしても、本当に創立記念日にしても、制服を着ているのが解せないな。官憲に職質されるのは面倒な上に、うざいだろうに(←恥ずかしながら経験者である)。

 その頃、綾はまっすぐ超常犯罪捜査課に向かい、タイミング悪く課内で1人いた刃野刑事をその手に掛けようとした。
 だが刃野刑事にパシリに出されようとした真倉刑事が署の前でフィリップと出会ったことから2人は刃野刑事の元に駆け付けた。
 フィリップは綾を信じようとした翔太郎が外れ、疑った自分が当たったことを残念がる旨を告げたが、綾はスカートをまくりあげて生足を曝して(嬉)、太ももにメモリを差して(嬉々) トライセラトップス・ドーパントに変身した。
 フィリップはファングジョーカーに変身して応戦しようとしたが、肝心の翔太郎はカラオケに興じていて着信に気付かない。暴れるトライセラトップス・ドーパントに刃さんは真倉刑事ともども段ボール箱に叩きつけられて気絶した。
 照井の机を盾に攻撃を凌ぎつつ、フィリップは再度翔太郎に連絡。今度はタイミング良く曲の途切れ目立ったので、翔太郎が出て、ファングジョーカーに変身出来た。
 翔太郎は眼前に広がる光景に自分の目を疑い綾の裏切りを糾弾するが、彼女は悪びれることもなく、阿久津を始末した時に自分の復讐対象は悪徳刑事の様な小者ではなく、風都そのものであることに気付いた、と言い放った。
 彼女は、溝口が愛し、守ろうとした風都に守られず(←悪徳刑事の濡れ衣を着せられ、マスコミの餌食にされたことね)、彼の誇りをズタズタにしたとして、風都を恨むようになっていた。

 とんでもない理論の飛躍である。

 恋人を失った悲しみから多少感情的になるのは分からないでもないが、ミュージアムに取り入るところからして、これもまたメモリの悪影響なのだろう。

 その頃、ディガル・コーポレーションでは、若菜が本当に綾を幹部として迎えるのか?と問うていた。冴子は約束を守るとしたが、綾が成功しないと見ていた。
 その根拠は「彼女もうだいぶ”混じってた”から。」というもので、若菜が訝しがると冴子は「ガイアメモリの強力な毒素は怒りや悲しみといったマイナス感情に反応し心まで完全な化物に変貌させてしまう。」と説明。
 それこそが翔太郎とフィリップが見て来た、ガイアメモリを利用しているつもりで、依存し、悪しき感情を増幅させてしまった人々の末路の原因を代弁したものだった。その精神作用は正に特撮界の麻薬と言えよう。

 そして風都署では、綾もまたマイナス感情に心を暴走させていた。Wを照井同様に消す、というトライセラトップス・ドーパント。その意を問うWに彼女は照井の復讐心に付け込んで騙し討ちにしたことを丸で自慢するかのように語った。
 つまり「Wのメモリの持ち主」を装って照井を呼び出したのは綾だったという訳であった。だが、その言葉が終わるとともに、当の照井がボロボロの風体ながらその姿を露わした。
 うろたえる綾を照井は「復讐に因われた哀れな女」と評し、「俺が救ってやる。」と宣言してアクセルに変身した。
 だがそんな照井の想いももはや暴走した綾には届いていなかった。風都への憎しみを果たすためか、照井に街のシンボル・風都タワーを破壊する、と宣言して巨大化した!
 それはまさしく現代に甦ったトリケラトプスで、為す術なくやられトドメの一撃を食らいそうになったアクセルだったが、そこにシュラウドが開発作成した自立型AIを搭載したアクセルのサポートドロイド・ガンナーAが現れ、アクセルを守った。
 トライセラトップス・ドーパントの破壊弾をものともせず、単機でもその火力と装甲で頼りになり、Wに対するリボルギャリーに等しい存在だった。
 そしてガンナーAとの合体形体、アクセルガンナーとなった照井は主砲ガイアキャノンをぶっ放し、トライセラトップス・ドーパントを一撃のもとに仕留めた(勿論メモリブレイク後、メモリは粉々に)。
 「お前の心は…俺が背負って生きよう。」という照井の言葉を聞くや微笑み、安心したように綾は倒れ込んだ。

 ラストでタイプライティングしている翔太郎の近くで九条綾の末路を残念がりつつも、彼女の分まで頑張ろうとの決意を固める真倉刑事は良くも悪くも典型的刑事ながら、幾ばくかのカッコ良さを見せた。
 それに亜樹子も感心したかの様に見えたが、そう言いながら探偵料の請求書を見せられた真倉刑事は顔面蒼白となり、減免を必死に訴えるという、元の小心者刑事に戻ってしまったのだった(苦笑)。


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平成三〇(2018)年六月二九日 最終更新