仮面ライダーW全話解説

第23話 唇にLを / シンガーソングライダー

監督:田崎竜太
脚本:三条陸
 今回はクイーンとエリザベスが鳴海探偵事務所に依頼して来たところから始まった。
 意外な人物が依頼に訪れた訳だが、その内容は「私達の名誉の為にフーティックアイドルの審査が不正だって証明して!」というものだった。
 フーティックアイドルとは、名前から想像出来るように風都のローカル人気番組だが、視聴者参加で舞台にて歌い、「3週勝ち残れば無条件でCDデビューが約束される」というデビューシステムを持つ、歌手を目指す者には実に手っ取り早いデビューが狙えるというものだった。
 クイーンとエリザベスは同番組で3週目まで勝ち残り、3週目でも堂々と歌い上げる様は本物の歌手みたいだった(笑)。スタジオの観客達も大いに盛り上がり、CDデビューを確信し、ほくそ笑んだ2人だったが、意外な裁定が下った。
 審査員の上木彩矢(本人)とTAKUYA(同じく本人)は2人を「クズ」と吐き捨て、大貫一朗太(水木一郎)は「その程度のシャウトじゃ俺の心は揺さぶれないゼェェット!」とオーバーアクション(笑)。それにしても主題歌の歌い手本人と特撮ソング界の「兄貴」を持ってくるとは物凄いキャスティングである(笑)。ちなみにこの第23話のオープニングはストーリーと同じ舞台で上木彩矢さんとTAKUYA氏の二人が歌うものだった。
 ともあれ、審査員の評価は会場の盛り上がりとは真逆で、クイーンとエリザベスは散々な酷評を浴びて敗北してしまった。
 ただ、酷評自体はフーティックアイドルのお約束らしく、彼女達が理不尽に感じたのはそこではなかった。問題は彼女達を破った挑戦者のジミー中田(冨田佳輔)というストリートミュージシャンが「死ぬから。」というほどド下手糞なものだったから、2人は納得いかず、審査の不正を翔太郎に暴いてくれ、と依頼するに至ったのであった。

 取り敢えず事の真偽を確かめるべく、ジミーの歌を聴きに行った翔太郎と亜樹子。とある公園でジミーは歌おうとしていたのだが、それを見た周囲の人々は耳栓するわ、逃げ出すわ、店舗のシャッターを閉めるわ、と個々に「避難」し始め、歌を聴いた翔太郎と亜樹子はジャイアンリサイタルの「ホゲェ〜〜♪♪」を聴いた状態に陥った。
 空を飛ぶ鳩が落ちてくるとあってはジャイアンよりひどいかも知れない。でもジャイアンも人魚やツノクジラというモノホンの化け物を悶絶させて、仲間の危機を救ったことあるからなぁ〜(←何の話だ)。
 ともあれ、ジミーの歌が評価されるべき代物ではなく、フーティックアイドルの審査か、審査員が何かおかしいのは間違いなかった。

 台風一過の様な惨状を呈するジミー中田のストリートライブ後、元凶たるジミーは周囲の悶絶が丸で目に入っていない様で、翔太郎、亜樹子と握手を交わし(亜樹子はばっちそうにしていた)、翔太郎の「今の音楽は何だ?」という質問に「スピックです。”スピニング・トゥ・フォーク”の略。」と答えた。
 何か、テリーマンの必殺技の様な名前のオリジナル・ミュージックだが、ジミー中田曰く、「フォークをベースにロックやラップの高揚感をブレンドしてます。センスの古い人には理解し辛いかな?」という。翔太郎の遠回しな酷評にも気付かず、「センス古いですね。」と笑いながら答える感性はぶっ飛んでいるとしか言いようがない。
 そこへジミーに同調し、彼の曲を理解したいならもっと勉強して来い、と強弁した女性、墨田ゆきほ(中野公美子)がいた。画面上すべての人物が悶絶する中、花束を持ち、終始にこやかに聴いていた唯一の人物だが、「今日もサインもらっていい?」と顔見知りの様である。まあ、あの地獄ソングを毎回危機に来る上に、絶賛する人物なんて他にはいないだろうから、顔見知りで当たり前の様な気がする。

 翌日、今度はジミー中田が挑戦を受ける側で、事前に「大貫一朗太は赤い装飾物を持った人間を高確率で指名する。」というフィリップの検索で翔太郎とフィリップは「2人で1人の仮面シンガー」として、飛び入り参加者として舞台に立つことに成功した。

 名乗りの通り、マスク(←仮面舞踏会タイプ)を装着し、ノリノリのフィリップと慌てふためく翔太郎でルナトリガーのテーマ曲「Finger on the Trigger」を歌う2人。
 その放映を園咲邸で若菜も見ていたのだが、途中で翔太郎のマスクが外れたことで、もう片方がフィリップと推測された。
 そんなステージを屋根裏から眺める1匹のドーパントが「ジミー中田は天才だからな。」として必ずジミーが勝つと呟いていた。イカサマがあるとすればこいつが黒幕と思われる。
 するとその呟きを聞きつけたかのように、照井が現れた。しかも「お前が”電波塔の道化師”か。」と言っていた台詞から、翔太郎達とは別途にこのドーパントを追っていたとみえた。
 忽ち戦闘となり、アクセルに変身した照井はこれを呆気なく倒し、メモリブレイクに成功。本体には逃げられたが、排出され、壊れたメモリを回収し、「もう悪事は働けんだろう。」として、取り敢えずその場を離れた。
 だが、このドーパントの影響力は残っていたのか、今週の勝者もジミー中田だった。翔太郎達が歌っている間ノリノリだった観客もこの裁定に大ブーイング。翔太郎達が歌っている間、「もしかしたら負けるかも?」みたいな表情だったジミーは安堵するや、2人にも尊大に振る舞った。
 いずれにせよ、翔太郎曰く「観客は正気。」とのことで、やはり審査委員が何かおかしいということになった。

 場面は替って、鳴海探偵事務所。照井が討ち果たした”電波塔の道化師”とは、連続詐欺事件の指名手配犯で、あの辺りに出没するという情報を得て張り込んでいたのだと言う。  だがここで極めておかしなことが起きた。これが証拠のメモリだ、とドヤ顔で照井が袋に入れたメモリを示すと、翔太郎から「頭大丈夫か?」と返って来た。
 思わぬ台詞に驚いた照井が押収した筈のガイアメモリの破片がよく見りゃは言っていたのはガイアメモリではなく、酢昆布の箱(笑)。
 フィリップ曰く、「どうやらキミは何かの暗示をかけられたようだね。」とのことで、アクセルはドーパントの能力により、壊れた酢昆布の箱をメモリと思い込まされていたのだった。
 つまり今回のドーパントの能力は強力な暗示で、審査員達はジミーのヘタクソな歌を上手いと思い込まされていたのだ。となるとこの段階ではゆきほが一番怪しいのだが………?

 ともあれ、「電波塔の道化師」が今回ジミーの不正に暗躍しているのなら、その近辺を張り込めば尻尾を掴めると考えた翔太郎と亜樹子はウォッチャマン情報から路上詩人・沢田という中年男性から情報を聞こうとした。
 それに対して沢田は、翔太郎には「半人前でもいいじゃん」、亜樹子には「金無くたっていいじゃん」と、各々一番言われたくないことを色紙に書かれてプレゼントし、2人は意気下がるしかなかった。
 それよりも彼等が「アラサー女」と呼ぶところのゆきほの存在を思い出した翔太郎は、沢田に別れを告げて彼女の元へと向かった。

 そのゆきほはリサイクル工場と思しき所で明らかに限界を超えた働き方をして、翔太郎の眼の前で倒れた。放っておけず病院へ運んだ翔太郎だったが、ゆきほは「過労」と診断し、栄養剤と熟睡出来る薬を処方しようとする医師に、薬も休息時間も惜しんで不要、と言い張る。シルバータイタンと同じ道場主の分身・ダンエモンは本当に追っかけるアーティストの為に体を酷使しまくって働く者達を知っているが、それと比べてもゆきほがここまでするのは解せない。
 翔太郎はゆきほに、ジミーを合格させたのは自分なのか?とまず肯定されそうにない直球質問(苦笑)をぶつけたが、やはり言い掛かりは止めろとしか返って来ない。
 「嘘で合格させたからってどうなる!アイツの為になると思ってるのか!?」と半ば彼女をドーパントと決めつけた詰問に対するゆきほの答えは、「彼の為じゃないわ!私の為よ!私には他に何の楽しみもないの!私の人生にジミー君が必要なの!」というものだった。
 これだけでは決め切れないが、彼女がジミーが成り上がる為に(いい意味でも悪い意味でも)やれる限りのことをやりかねない女性というのは伝わって来る。
 だが詰問から逃げるゆきほを追いかけた翔太郎は、そこで彼女と相対する「電波塔の道化師」の姿を目撃した。ゆきほは必死に稼いだと思しき大金を差し出して、ジミー成功の工作を懇願していた。つまり、ドーパントを利用していたものの、彼女自身がドーパントではなかったことが判明した。
 だがドーパントは金が足りない、と冷たく一蹴。残りも必ず用意するからもう少し待ってくれとの懇願にも耳を貸さず、契約破棄を叩きつけた。歪んだ手段とはいえ、身を削る想いをしてまで尽力して来た懇願を踏み躙られるゆきほには些か同情するが、翔太郎は怒りを露にし、そこにフィリップの検索によってメモリの特定を終えた照井も駆けつけ、2対1の戦闘へと突入した。
 照井からの情報によると敵の正体はライアー・ドーパント。つまりは「嘘吐き」のドーパントで、虚偽も強烈な暗示で本当と思い込ませるのがその能力だった。  つまりは照井が討ち取っていないのに討ち取ったと思い込んだのも、酢昆布の空き箱片をメモリの破片と思い込んだのも。審査員達がジミーの歌を素晴らしいと思い込んだのもライアー・ドーパントの能力によるものだった。
 そのアクションは言葉にした嘘を針にして相手に突き刺すことでその嘘を信じ込ませるもので、喋った言葉がほわほわーんとフキダシになる演出は『忍者ハットリくん』を観ている様だった(笑)。
 厄介な能力の持ち主だが、戦闘自体は弱い様で、ボコったライアー・ドーパントをメモリブレイクで終わらせようとしたWだったが、そこにゆきほが立ちはだかった。曰く、「この人がいなくなったらジミー君が勝ち残れない!」とのこと。  あんな目に遭わされてもまだドーパントに縋ってでもジミーに偽りの合格をあげようとするゆきほに翔太郎も呆れ、ジミーに正々堂々と実力で挑戦させるべし、と言い放ったが、ゆきほから返って来たのは、「無理に決まってるじゃない!私がどれだけ彼を見てきたと思ってるの?あの子は信じられないくらい才能ないんだから!」というあんまりな台詞だった。
 その時、彼女の背後でギターケースが落ちる音がした。勿論そこにいたのはジミー中田本人。自分の2週勝ち抜きが実力によるものではなく、化け物の不正によるものだった上、唯一の理解者にして最大のファンだと思っていたゆきほですら、自分の才能を認められていなかったことに愕然とせずにいられなかった。ジミーがそこにいたのは偶然ではない。「電波塔の道化師」が最初から彼をこの場に呼び出していたのだ。「嘘だ…。」と信じられない思いで呆然とするジミーに、「残念だったなぁ、嘘はお前の合格のほうなんだよ!」と耳打ちするライアー・ドーパント
 ショックを受けたジミーはパニックに陥り大絶叫。思いもかけぬ展開に、ゆきほはただオロオロと狼狽するしかなった……。

 場面は替って、園咲邸。そこにいたのは琉兵衛と若菜の父娘。
 冴子がまたWのメモリの持ち主を訪ねていることを語る琉兵衛に、彼を敬遠する気持ちを述べる若菜。
 「新しい恋か…少し早すぎる気もするがまぁ、冴子も大人だ。」と呟く琉兵衛だが、娘への想い、Wのメモリの持ち主への興味、亡き霧彦をほんの少し惜しむ気持ちが見て取れて深い。
 そして当の冴子が足を運んだ場所、井坂病院はさきほどゆきほが運ばれた病院だった。
 院内では「今日の診察はもう終りましたよ。」と言いつつ、「園咲のお嬢さん。」と続ける医師は、彼女の来訪を予見していた様だ。「あら、裏の診察はこれからでしょう?伊坂先生。」って、チョットアンタ、時間的にもエロい事想像しそうになるぞ(卑笑)。
 そして白衣を脱いでフォーマルに着替えた医師・井坂(檀臣幸)が手にしていたのはW…ウェザーのメモリだった。
 一体、何が始まるのか?というところで以下次週へ。


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平成三〇(2018)年七月三日 最終更新