仮面ライダーW全話解説

第24話 唇にLを / 嘘つきはおまえだ

監督:田崎竜太
脚本:三条陸
 フーティックアイドルにおける自分の勝利が真実ではない事を知り、打ちひしがれたジミー中田はゆきほに対しても「何がスピックの唯一の理解者だ!もう顔も見たくないよ!」と心を閉ざしてしまった。
 そしてライアー・ドーパントの真の目的はジミーが見せた絶望にあった。「青春に挫折した若者の色・・・私はこれを集めるのが大好きでねぇ」と言いながら現れたライアー・ドーパント
 Wとアクセル相手に戦闘では明らかに劣っていたライアー・ドーパントだったが、得意の能力でWにアクセルを敵と思わせ、同士討ちの隙を突いて窮地を脱出していたのだった。
 号泣するジミーの涙を小さな紙切れに吸い取ると、上機嫌で笑いながらその場を去っていってしまう。虚偽で一時の夢を見せ、それが嘘だったと知って挫折に慟哭する若者の涙をコレクションすると云う悪趣味極まりないと言おうか、歪んだフェチシズムを持っていると言おうか、いずれにしても数あるドーパントの中でも胸糞悪くなることにかけては筆頭クラスの下劣振りである。

 ともあれ、茫然自失状態のゆきほを連れて一旦事務所へ。辛うじて落ち着きを取り戻したゆきほが過去を語った。
 「何もない空白だった私の人生に初めて笑顔で応えてくれたのが彼だったの。彼の喜ぶ顔が見たくて私…ねえ、私のしたことは間違ってたのかな?」と述べる彼女に、「ジミーはアンタの玩具じゃない。1人の人間なんだ。」という反論は誠に的を得ている。
 応援する気持ちそのものは素晴らしいものでも、その為に本人の気持ちを置き去りにした不正に走ったことは「間違い」と断ぜざるを得ない。自分の浅はかな行動のせいで、結局一番大切なジミーを傷付ける事になってしまったことを翔太郎の一言で諭されたゆきほは泣き崩れた。

 ゆきほの責任は小さくないが、勿論一番悪いのは下衆極まりない悪趣味で2人の人間を狂わせ、その慟哭に悦に入るライアー・ドーパントであることは間違いない。電波塔の道化師に対し、翔太郎は言い知れぬ怒りを募らせるのだった。

 場面は替って、井坂診療所。そこでは本当に「裏の診察」が始まっていた!
 残念ながら診察ベッドに横たわっていたのは園咲冴子を演じる生井亜実さんではなく、タブー・ドーパント (苦笑)。しかし、意図不明な冴子=生井亜実さんの喘ぎ声はエロく聞えて………………(悶絶)。
 タブー・ドーパントの「完璧」な、「人間の可能性に満ち」た肉体に御満悦の、「ドーパント専門のドクター」を自称する井坂だが、「変身前の私にはちっとも興味がない。」ことに冴子は些か複雑な模様。
 井坂が特に絶賛するのは、彼女の爪で、「これならばあの”恐怖の帝王”にも勝てるかもしれない。」と呟き、直後に「そしたらキミがミュージアムのトップだ。おっと本音を当て過ぎたかな?」と言っていることから、「恐怖の帝王」は1999の7の月に空から降って来たものではなく園咲琉兵衛を差していると見え、同時に冴子の野心を見抜いているようにも見える。
 「私はキミの力になりたいと思っている。また身体を見せに来なさい。」という井坂に、それを承諾しながら更なる嬌声を漏らす冴子……かなり後々への伏線となりそうな一場面である。

 そして時間は流れ、フーティックアイドル3週目。失意のジミーはスタジオに向かうことなく、砂浜にギターを突き刺し音楽への熱意を失おうとしていた。
 そんな彼の前に現われた翔太郎はそれでいいのか?と問い質す。「何で追いかけてくるんですか!?僕のことはもう放っておいて下さいよ!」と逃げるジミーに、追う翔太郎。
 場所が場所であることに、「チクショー!何で男2人で砂浜追い駆けっこしてんだ俺は。それにこの白いギターに空飛ぶたくさんのカモメ・・・ああ恥ずかしい!恥ずかしいぞ!」とチョットしたギャグシーン(笑)。
 追いつかれたジミーはすべてが嘘だったことに絶望して音楽は辞めると述べる。だがそれに対して翔太郎が断じたのは、「ジミー、一番の嘘つきは彼女でもドーパントでもない。お前自身だ。」という台詞。
 つまり、「お前は自分の弱さを彼女のせいにして逃げているだけ。思い出せ。あれだけヘタクソなお前がこれまで音楽を続けてこられたのは誰のおかげだ?」とのこと。確かにゆきほの不正は褒められたものではないが、彼女の支えが真剣なものであったことは疑いようのない事実だったことはジミーも感じていた。
 自分はどうするべきか?と問うジミーに、「自分で決めな。男の仕事は8割が決断だ。」とおやっさんの受け売りであることとともに告げて、ジミーに己の決断を促した。確かにここはジミー中田本人が決めないと意味がない。

 場面は替って鳴海探偵事務所。照井がもたらした最後のキーワードは「和紙」(ジミーの涙を拭った紙がそれ)から、フィリップはライアー・ドーパントの正体を検索した。
 その正体は路上ポエム作家の沢田幸男。仕事柄和紙を使い、ストリートでいつでも若者に目をつけることが出来る存在だった。
 しかし既に沢田は広場から姿を消しており、その消息はまったく掴めない。そこで沢田のよく使うフレーズから彼が若菜のファンと推察したフィリップは、若菜に沢田を罠にかける協力を要請することにした。

 協力要請を受けた若菜はラジオ(←まだやってたのね)で、「今噂の電波塔の道化師と会うことになっちゃいました!」と口にした。それを聞いた沢田は大ファンである若菜と自分の名を騙る偽物が会うとあって、いてもたっても居られず対面場所にノコノコ現れた。
 局内のとある舞台に現れた自称・「電波塔の道化師」は青々としたホモヒゲを生やした怪しいピエロ姿で、喋り方もアホ丸出し。その怪しい偽物が本物の書いた詩集を貶すに及ぶと、ただでさえ偽物の「見るからにアホみたいな格好」に怒り心頭だった沢田は遂にブチギレて「や、やめろぉ!あんな詩集だってなあ!俺ぁ一生懸命書いたんだよ!聞いてくれ若菜姫、あれは偽物なんだ!俺こそが本物の…。」と叫びながら飛び出した。
 ここでアホっぽいピエロがメイクを拭って正体を現したのは勿論、翔太郎。つまりはフィリップの仕掛けた罠に沢田は誘き寄せられたのであった。
 「現われたな嘘つき野郎。騙すのは得意でも騙されるのには慣れてないか?」と言いながら現れたのは若菜付きの運転手とマネージャーに扮した照井と亜樹子。そして若菜はフィリップの変装だった!!(←勿論若菜姫を危険に曝さないため、途中で入れ替わったのだ)
 一瞬感心した亜樹子だったが、「アタシ聞いてない!」と叫んだ。配役的に女である自分が若菜役でないことにショックを受けていたのだ(笑)。亜樹子の猛抗議に、翔太郎が「俺は亜樹子にやらせるつもりだった。」と言えば、「俺が却下した。所長では無理だ。」と照井が続けた。
 ショックを受けて崩れ落ちる亜樹子をよそに、フィリップ・翔太郎・照井の3人が横並びでの変身シーンに入った。さすがに倒れるフィリップを支えることを忘れる程自分を失わない亜樹子ではあった(笑)。
 その頃、ジミーは(遅刻してではあったが)フーティックアイドルのステージに立っていた。「愛を込めて歌います。僕を信じてくれた、たった1人の為に。」というジミー。勿論観客席にはその「たった1人」であるゆきほがいたのは言うまでもない。

 その頃戦いはWとアクセルが初の、即興の合体技を敢行していた。
 ライアー・ドーパントにビルの屋上から落とされたWだったが、壁面を激走して救い上げたアクセルバイクフォームに乗ってそのまま駆け上がって天高く飛び出し、高速回転する前輪にWが足をかけ、そのスピードを利用してキックを加速・威力を倍増させる連携技を披露したのだった。
 驚異的な加速・威力を得たジョーカーエクストリームで決め。見事ライアー・ドーパントは撃破された。

 そして審査は終わった。ライアー・ドーパントの影響を脱していた審査員達からは酷評の声が相次いだ。
 大貫は「正直言って酷いの一言だ。まだ工事現場の騒音の方が心地よく聴こえるよ。人生最悪の歌だゼェェッット!!!」と叫び、上木は「全くだわ。どうして先週までこんな歌を良いと思えてたのか解らない。」と続ける。
 さすがに勝てると思ってこの場に来た訳ではなかったが…それでも肩を落とすジミー。だが、上木の評価は続き、「でもね…ハートは感じたわ。」と締められた。
 TAKUYAは「同感。そこだけはイケてたよ。」と述べ、ついさっき酷評した大貫も「志ある若者を我々は見捨てはしない。また会おうジミー。」と締め括った。
 会場からは初めてジミーに対して拍手が贈られ、どんなに音痴で耳障りだろうが、その歌に込められた気持ちが会場のすべての人々に伝わっていたのを確信し、参加して良かった、と清々しい笑顔でステージを降りたジミーの前に、おずおずとゆきほが現われた。
 「ジミーくん…今日初めて気付いたわ。この歌ラブソングだったのね。」
 「遅いよ。ファンのくせに」
 そう言ってはにかむと、ジミーはゆきほを自分の胸に抱き寄せた。少し臭いが心温まるラストシーンだった。

 そしてラストは鳴海探偵事務所。本来勝ち抜ける筈だったクイーンとエリザベスは番組関係者の口利きによって特別にCDデビューが決定。うん、本当に2人は歌手みたいだ(笑)。


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平成三〇(2018)年七月四日 最終更新