仮面ライダーW全話解説

第29話 悪夢なH / 眠り姫のユウウツ

監督:田崎竜太
脚本:長谷川圭一
 冒頭、鳴海探偵事務所にやって来た依頼人は「ですぅ〜。」という語尾が妙にウザい女子大生・雪村姫香だった(麻生夏子)。眠れない、と訴える彼女は不眠症かと思えばさにあらず。彼女と同じ風都大学の研究室の男子が6人、次々と夢の中の怪物に襲われて目覚めなくなったとのこと。
 そのため、彼女自身眠るのが怖くて、もう何日もまともに寝てない、とのことだった。
 ちなみに姫香の台詞はあんまりにも語尾がウザいので、今回と次回は姫香の台詞は極力直接話法を用いません。悪しからず御了承下さい(苦笑)。
 つまり依頼内容は、安心して眠りに就けるよう、「夢の中の怪物」とやらを退治して欲しいとのことなのである。

 翔太郎達は、「夢の中に現れるドーパント?」と訝しがる。依頼を承諾し、身辺の安全を確約する翔太郎に「もしかして私の運命の王子様?」とメルヘンチック満開で翔太郎の首に手を回して抱きつくのだった。
 分からず屋な意味で腹の立つ女性ゲストとはまた違う苛立ちをもたらすキャラである。

 翔太郎と亜樹子が風都大学(←しかしこの作品、建物や施設の名前を設定するの楽だろうな(笑))にある姫香の研究室を訪ねると、そこからは上半身裸でライオンの被り物をかぶったエキセントリックなおっさんがドアを開けて勢い良く飛び出してきた。その人物こそ姫香達の研究室の主、赤城教授(西冬彦)だという。
 おおよそ夢幻界に興味のない人には何を言っているのかわからない問答とも理論ともつかない台詞を連ねる赤城教授は、翔太郎の問いかけに、教え子達が自分と共に明晰夢について研究していたと答えた。
 「明晰夢」は「ルシッドドリーム」とも呼ばれ、自分が夢を見ていると自覚できる夢のことで、赤城教授達は睡眠中の脳波を調べる装置で明晰夢の謎を解き明かそうとしていたという。
 そこへ、同じく事件の調査にやってきた照井も加わり事情聴取開始。自分の明晰夢についての研究に自信を持つゆえか、目覚めない6人の教え子を、「疲れて眠っているだけだ。」と楽観論をぬかす。だが、眠る6人はいずれも額に「H」という文字が浮かび上がり、苦しそうな顔で唸っている。これに平然としている赤城教授はどこかぶっ飛んでいる。

 事件解決の為、装置を借り、眠りに就こうとする照井。危険を告げて姫香が止めようとしたが、「ご心配なく。怪物は真正面から叩き潰してみせます。」と照井が宣言すると、姫香は照井に対しても「もしかしてあなたが運命の王子様?」と口にして抱きつく………。誰に対してもそうなのか、と思わせる天然ボケキャラの様だ。
 そんな姫香に呆れる亜樹子だったが、「あれが姫香りんの優しさ」と憮然とした表情で答える大学生がいた。その大学生の名は福島元(加藤康起)。眠り続ける6人と、姫香と福島の計8名が同じ研究生とのことだった。しかし「姫香りん」とは…………赤城と言い、姫香と言い、福島と言い、教授が教授なら研究生も研究生の「類友」の様だ。
 つまり研究生中、姫香と福島が現時点での「生き残り」という訳であった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。亜樹子はマッドサイエンティストと見た赤城教授を、「研究の為に学生達を実験台にしてるんだわ!」と怪しんだ。確かに状況的に一理ある。
 ともあれ、その夜、それぞれの寝室で装置をつけて横になった照井と翔太郎。
 刃野刑事と真倉刑事に「俺の様子がおかしくなったら起こせ。」と言って枕元に待機させて眠りについた照井だったが、夢の中では署に弁当を届けに来た妹・春子が刃さんと結婚するという悪夢を見せられ、悶絶した(このとき、保険としていた両刑事は爆睡中)。
 だがあんまりな展開に照井はそれが明晰夢だと認識。するとそこにナイトメア・ドーパントが出現。照井はアクセルに変身してあっさり倒した…………と思ったのも束の間、ナイトメア・ドーパントはすぐに「なァ〜んちゃって。」と言って復活。どうやら夢の世界は「ナイトメア=悪夢」の名前通り、ナイトメア・ドーパントのホームレンジらしく、第2ラウンドにてアクセルは手も足も出ずに敗れ、眠り病7人目の犠牲者になってしまった。

 一方の翔太郎は、気が張って眠れず、冒頭で興味のなさから「5秒で寝られる。」と評していた時代劇のDVDでも見れば眠れるか、と考えて、亜樹子が見ていた巷で人気の時代劇『風の佐平次』のDVDを鑑賞。
 だが、いざ見てみるとあっさりハマってしまい(笑)、亜樹子同様朝までぶっ通して見てしまったが、これは結果論的にラッキーなことだった。
 ここで真倉刑事から照井敗北の報が入り、翔太郎は湧き上がる怒りを抑えながら再び姫香のいる風都大学へと足を運んだ。

 場面は替わって園咲邸。食堂では些細なことを対象に妙に若菜が笑い転げている。どうやらメモリ直挿しの副作用による精神汚染とのこと。
 この状態に対し、井坂は「順調にメモリに順応している証拠。」と宣うが、傍目にも正常には見えない。琉兵衛は「井坂くん、これだけは言っておこう。父親にとって娘は宝だ。もし若菜に何かあったらその時は覚悟したまえ。」と2つの積み重ねられた皿の山の隙間から、いつもの笑顔ではなく、ギロリと井坂を睨みつけるのだった。
 こういう表情を見せるあたり、やはり琉兵衛を初め、園咲ファミリーはただの悪党という一言では片づけられない。

 フィリップの検索の結果、翔太郎とフィリップはWに変身した状態で眠ることで、フィリップの意識を翔太郎の夢の中に飛ばす作戦を立てた。これは「眠る前にスタンドを出しておけば、夢の中にもスタンドを持ち込める。」という、またもや『ジョジョ』第3部のインスパイアーか!?
 枕持参で大学にやって来たフィリップは翔太郎とともにそのままグラウンドで2人横になった………って、何故グラウンド?別に大学なら他にも快適に仮眠出来そうな場所なんて幾らでも有りそうだが……。
 ともあれ、舞台は翔太郎の夢の中に移行した。

 翔太郎の夢の世界は、日常がそのまま江戸時代風にシフトしていた。翔太郎は「この町の” はあどぼいるど”な岡っ引き」で、そんな彼を「親分」と呼び、時代劇お約束の「親分てーへんだ!」を叫びながら駆け込んで来た「ふぃりっぱち」にされたフィリップは、そのまま翔太郎に「何だいこの格好は?」は抗議せずにはいられなかった(笑)。
 明らかに徹夜で見た『風の佐平次』の影響で、世界への不満はともかく、目論見通りフィリップの意識も夢に入れたのははっきりした。

  ふぃりっぱちの言うとこの、「てーへん!」はナイトメア・ドーパントの出現で、2人はWに変身。メモリは木の札、「Cyclone」は「疾風」と、「Joker」は「切り札」と記されていたのだった。更には変身音楽が和風で、変身中に映る顔は歌舞伎メイクで、体の変化過程を表すいつもの細かい礫は桜吹雪………………徹底しているのか、やり過ぎなのか微妙である(苦笑)。
 照井同様、互角以上に戦ってるように見せかけながらも、Wも手の平の上でもて遊んでいると思っていたナイトメア・ドーパントはWが消えないことを訝しがったが、それに対するフィリップの答えは「僕もキミと同じでこの世界では特別な存在だからさ。」とのことだった。
 優位に立ち、その正体を赤城教授なのか?と尋ねるフィリップだったが、ナイトメア・ドーパントの答えは「アイツならもう眠らせてやったさ。」とのこと。
 実際、その頃現実世界では、赤城教授も額にHの文字を浮かせて唸らされていた。そしてグラウンドでは亜樹子が恐怖に慄いていた。
 グランドに現れたのはなんと井坂深紅郎。目的はナイトメア・ドーパントに会うことだったが、来てみればWがお昼寝状態というまさかの大ピンチ!
 井坂は前週でWとアクセルに敗れたことよりも、自分の楽しみを台無しにされたことに対する恨みの方が大きく、曰く、「私は楽しみを邪魔した人間を決して許さない主義でしてね!」という意味からも容赦なくいきなり落雷で攻撃。たまらずフィリップが跳ね起きた。

 そしてフィリップが目覚めたことで、夢の世界ではWの変身が解け、再びホームレンジでの優位を取り戻したナイトメア・ドーパントの猛攻に翔太郎はなす術がなかった。一方のフィリップも強敵ウェザー・ドーパント相手に、ファングのディフェンスで落雷を避けていたが、遂に一撃を浴びてしまった。
 Wがそれぞれの場所でWでピンチ、という洒落にならない状態で以下次週へ。


次話へ進む
前話に戻る
『仮面ライダーW全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

平成三〇(2018)年七月五日 最終更新