仮面ライダーW全話解説
第31話 風が呼ぶB / 野獣追うべし
監督:諸田敏
脚本:三条陸
冒頭、1人の男が刑務所を出所した。後で尾藤勇(小沢和義)と名乗ったその男…………おおっ!小沢和義氏だ!刑事ドラマ等では喧嘩っ早いチンピラややくざ役が多いが、『仮面ライダーBLACK RX』では子供たちの夢を守るためにRXと共闘したボクサー・沢田を好演した記憶のある俳優の登場だ!
さすがに40半ばにもなると若い頃にはなかった風格も出て来た様で、これは展開が楽しみである。
10年振りに娑婆に出た尾藤はその足で鳴海探偵事務所に鳴海荘吉を訪ねて来た。出所したら会いに来るよう云われていた、とのことだった。
だが周知の通り、鳴海荘吉は既に故人である。それを告げたのは亜樹子で、映画版で知った父の死は本編でも既に反映されていた。
「亡くなったのか…あの鳴海の旦那が……。」と、余り表情を変えずとも驚きを隠せなかった尾藤。聞けば荘吉は服役中の尾藤のために何やら調査をしていたらしいが、事務所に残っている資料にそれらしき記録は見当たらなかった。
仕方ない、とばかりに去ろうとする尾藤だったが、おやっさんの死に自責を感じる翔太郎は黙っていられないとばかりに尾藤について事務所を出た。
とある神社にて尾藤勇の後姿を見ながら、「どこかおやっさんの時代の匂いがするこの人を見てると胸の何かが騒ぐ。俺の人生の大きな何かが変わる予感が……。」と呟いていた翔太郎の独り言は尾藤の強烈なデコピンで中断させられた。手が早い役柄は変わらないのね、小沢さん………。
尾藤は翔太郎がついてくるのは構わないが、静かにしろ、と眼光も声も鋭く告げ、その佇まいに珍しく翔太郎が黙り込まされていた。
かかる男臭い人物に「旦那」と呼び慕われていた鳴海荘吉。事務所でも照井とフィリップがその人物像を称賛していた。
恐らく、自分の半分ほどしか生きていない翔太郎を快く思わずとも、その追随を拒まないのも、「鳴海荘吉の弟子」だからだろう。
そしてフィリップも尾藤のため、おやっさんが調査していたという事件について検索を開始するのだった。
尾藤が神社で周囲の者達(的屋)に尋ね歩いていたのは、かつての尾藤の弟分だったという有馬丸男(勝矢)という男だった。情報によるとその有馬は10年間にチンピラから土建業者の社長に成り上がっていたと云う。
その後、突き止めた有馬邸に現れた尾藤と翔太郎を迎えたのは、かつて尾藤と懇意だった女性・鈴子(魏涼子)。今は有馬夫人となっての再会であった。
余談だが、魏涼子さんは井坂深紅郎役の檀臣幸氏の細君である。この文章を綴っているのは平成27年9月だが、既に檀氏は故人で、この奇しき縁に複雑なものを感じる。
尾藤を「サム」と呼び、その出所を祝う鈴子を尾藤は「ベル」と呼んだ。それぞれの名前にちなんだニックネームで、ちなみに丸男は「マル」であることを少し照れながら翔太郎に説明する尾藤。しかし照れ隠しにわざわざデコピンかまさなくても……。
再会を喜ぶ尾藤と鈴子だったが、そこに慇懃ながらも昔の関係を否定するような呼びかけで有馬丸男が現れた。一応は尾藤の出所を祝う言葉を発しつつも、今の夫婦関係を邪魔するなとばかりに退去を要請する丸男。
「変な噂が立つと困る。」と邪険にする理由を持ち出し、非礼を咎める妻を振り払った丸男に、軽くキレた尾藤は「俺もおかしな噂を聞いたぞマル。”野獣”のな。もしお前が今もベルを泣かせてるようなら俺にも考えがあるからな。」と凄んだ。
その台詞にも、「またあの探偵に泣きつくんですかい?死んだって聞きましたけどねぇ。」などとおやっさんの存在を持ち出して揶揄されては黙っていられなかった翔太郎。だが意外に冷静に、かま掛けに出た。
「アレの事ならちゃ〜んとおやっさんから聞いてるぜ。さ、そろそろ行こうぜ尾藤さん。」とハッタリをかまして尾藤と共に去ると、丸男は顔色を変えてその後を追いかけるのだった。
その頃、フィリップは検索による絞り込みを終えていた。
それによると、おやっさんが調査していたのは風都ダム付近で起きた10年前の現金輸送車強奪事件。事件後、尾藤が犯人として自首して解決した事件だったのだが、輸送車と現金30億円はダムに落ちたまま未だに発見されず、現場周辺には人間離れした破壊の痕跡が見つかっていたという怪しさであった。
「人間離れした破壊の痕跡」と聞けば即座に「ドーパントの仕業」と連想されるのがこの作品の常だが、10年前の事件にドーパントの存在が匂うとあっては翔太郎も驚かずにはいられなかった。
照井も驚いていたが、10年前から既に風都ではメモリ犯罪があり、その頃から園咲家はメモリを造っていたということだろうか………?
翔太郎と尾藤が有馬邸を出て間もなく、熊の様な大柄なドーパント=ビースト・ドーパントが翔太郎に向かって襲いかかってきた。その口からは「熊」の行方を教えろ、との台詞が発せられていた。
翔太郎のハッタリによる誘き出しは成功したわけだが、Wに変身してこれを迎え撃たんとするも、身体のあちこちがバチバチと電流のようなものを散らせ、まともに動かない。
フィリップ曰く、「ジョーカーの力が弱い!」とのことだったが、正確には「僕のパワーが強過ぎる。」とのことで、「2人で1人の仮面ライダー」としてのバランスが合わないらしい。
応戦出来ずにいるところをアクセルが加勢したが、必殺のA斬りをビースト・ドーパントに叩き込むも、その傷はビースト・ドーパントが気合を入れると、瞬く間に再生してしまった!
そんな2人の危機を救ったのは尾藤だった。ビースト・ドーパントを丸男と見抜いていた尾藤は、翔太郎のかま掛けがハッタリであることを明かし、今も「野獣人間」として暴れていることを嘆いた。
ビースト・ドーパントから変身を解除した丸男は、「時代が変わった。」として、今ではこの街で自分に逆らう人間は暴力でねじ伏せていることを告げ、立ち去った。
その頃、鳴海探偵事務所では、フィリップが変身を解除してもすぐに肉体に精神が戻らず、だだっ広い精神世界で謎の影との対面していた。
気が付いてから、展開に愕然とし、亜樹子に異変を尋ねるフィリップだったが、勿論亜樹子にも分かる訳なく、彼女に云わせるとフィリップはうなされていたとのことだった。
フィリップが見たのはW最強フォーム・エクストリームの影で、前回エクストリームメモリの中に入ったことでポテンシャルが大きく引き上がったことを感じつつも、Wの左右のバランスが崩れていることに戸惑いを覚えるのだった。
その頃の、翔太郎は事件の分析を進め、かなり真相に近づいていた。
詰まる所、10年前30億強奪の真犯人は、ビースト・ドーパントに変身した有馬丸男で、丸男と鈴子のため、尾藤はその罪を被って自首した、と云う翔太郎以上のお人好しだったのであった。
だが、証拠である”熊”が分からない………。と思っていたところで亜樹子の天然ボケによる真相到達がここでも起きた。
「熊ってあの口に鮭咥えてる熊のことかな?」と北海道の熊野木彫り人形を思い浮かべ、口にした亜樹子だったが、その台詞に翔太郎が、かつておやっさんの所持していた木彫りの熊を見たのを思い出したのだった。
その熊は、風吹山にある鳴海探偵事務所所有の別荘(訳ありの依頼者達をおやっさんが匿うのに使っていた山小屋)にあり、翔太郎はそこで熊を見たのだという。
早速翔太郎は尾藤に連絡。翌日の早朝から亜樹子と3人で熊を回収するために別荘へと向かった。
場面は替わってどこぞのバー。そこで警察の嗅ぎ回りを愚痴っていた丸男は「組織の女」がいるのに気付いた。「野獣に興味でもあるのか?」と下卑た笑いを浮かべた相手は冴子と若菜。
だが園咲姉妹は丸男に丸で関心がなく、冴子は丸男に興味を持っている男としてピアノを弾いていた男=井坂深紅郎を指さした。どうやら有馬の身体に興味津々なようで、やはり彼はメモリ被験者として稀有な存在の様で、見返りに井坂は「熊狩り」の代行を申し出た。
翌日、翔太郎達が出発した事務所地下に突如シュラウドが現われた。驚くフィリップにシュラウドは以前からこの場所を知っていたと告げた。
改めて、彼女はフィリップ=来人に、新たな進化を遂げるが、そのパートナーは左翔太郎ではないと告げた。
その宣告に、「翔太郎ではもう僕のパワーについてこれない。そういうことか…。」と解釈し、呟くフィリップだった……。
山荘で木彫り熊の探索を開始した翔太郎達の横で、10年前の写真を見つけた尾藤は、生前おやっさんが云った通りになったことを悔やんでいた。
つまり、丸男が足を洗わず、ビースト・ドーパントとして今も鈴子を泣かせてる、という事態に。回想シーンでは10年前、罪を犯した丸男とともに鈴子が見逃してくれるよう泣いて懇願し、それを受けて自首する尾藤におやっさんは有馬丸男が尾藤に恩を感じて改心しないであろうことを告げていた。
「尾藤さん…アンタ惚れた女の為に有馬の罪を被ったんだな。」という翔太郎だったが、やはり尾藤からはデコピンが返ってきた(苦笑)。
曰く、「そういうことを軽々しく口にするんじゃねえよ薄っぺらい奴だな。ホントに旦那の弟子か?旦那は何にも云わなかったぜ。俺が出頭すると云った時でもな。事件の真相も、俺の青臭い気持ちも全部知ってたのによ・・・本当にブ厚い男だった。薄っぺらい男の人生はイテエ。お前そんなんじゃそのうち大切なモンを失うぜ?」と痛い台詞が返ってきた。ここまで喋るならデコピンしなくても……(苦笑)。
だが、翔太郎は既に「おやっさん」という「大切なモン」を失い、それ以上の「大切なモン」を失うということが想像出来なかった。
程なく、木彫りの熊が見つかった。ただの熊では…?と思っていたところに突如井坂が襲来し、熊を強奪してさっさと去っていった(同時に尾藤は冷気を浴びせられて負傷した)。
逃すものかとばかりに翔太郎がWに変身しようとドライバーを装着すると、そこにシュラウドの制止を振り切ってきたフィリップがリボルキャリーで現われた。フィリップが云うには、ファングを使用し、フィリップの方をメインにするしかないという。
だがフィリップをメインとしたファングジョーカーでもやはり左右の出力は安定せず、苦し紛れに放ったマキシマムドライブで決定的な反発を起こしてしまった。
ファングストライザーはあらぬ方向に吹っ飛んだかと思うと派手に空中分解。2人とも変身解除して吹き飛ばされてしまった。
狼狽した翔太郎が今度は自分がメインになろうとメモリを握るが、強いスパークに拒絶され挿入することすら出来なかった。
その頃、鳴海探偵事務所では翔太郎の椅子に向かってダーツしていたシュラウドは、そこにいない翔太郎に対し、「お前にはWは無理。」と呟いていた。
Wになれないことに愕然とする翔太郎………というところで以下次週へ。
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令和六(2024)年一一月二六日 最終更新