仮面ライダーW全話解説

第32話 風が呼ぶB / 今、輝きの中で

監督:諸田敏
脚本:三条陸
 フィリップのパワーに翔太郎がついていけず、変身を解除したW。ウェザー・ドーパントの言う「お忘れなく…貴方達1人1人では私には勝てないという事を!」というのは残念ながらその通りであることをフィリップも認めない訳にはいかなかった。
 と、そこへ照井が駆けつけた。フィリップは咄嗟の閃きでサイクロンのメモリを照井に投げて寄越した。受け取ったアクセルもサイクロンの尋常ではないパワーを感じつつも、翔太郎のように吹き飛ばされることなくこれを制御し、ウェザー・ドーパントの手を弾き飛ばし、木彫りの熊を谷底に落とすことに成功。なんとかこれを追い払うのだった。
 照井がメモリの力に耐えたのを見て、「まさかシュラウドの言っていた僕に相応しいパートナーとは…。」との思いに駆られるフィリップだった。

 一行はなんとか井坂を追っ払ったことで山を降りたが、その中で翔太郎だけは茫然自失状態に陥っていた。自分の力不足でWになれず、照井がメモリを使いこなしたとなると精神的ショックも大きかったことだろう。
 自分を不要の存在と思い込み、前回の、「薄っぺらい男の人生は痛え。今に大切なモンを失うぞ。」と言っていた尾藤の台詞を思い出し、「ハハハ…尾藤さんの言った通りだ。おやっさんの次はフィリップかよ…。」と完全自虐状態。それでもWになれなくても探偵として熊を探そうとするところが痛々しくも翔太郎らしい。
 しばらくして、ガジェット総動員でなんとか熊を発見した翔太郎。よく調べてみるとその尻尾がポロッと取れて、中には何やら小さな物体が…。


 場面は替わって、病院(もちろん井坂診療所ではない)。そこには前回井坂の冷気攻撃を受けて負傷した尾藤が担ぎ込まれていた。
 熊の木彫りを見つけた翔太郎もそこにやってきて、亜樹子達に熊はただの木彫りと告げ、1枚の写真と一緒に尾藤に渡すよう要請すると、自らは用事があると云ってその場を立ち去った。
 展開上互いに気まずさ満載で、翔太郎とフィリップは目を合わそうとせず、その2人を見る亜樹子と照井もまた重苦しさでそれ以上何も言えなかった。
 翔太郎が立ち去った後、フィリップは意を決して照井に自分と組む気があるか?と質問形式ながらニューパートナーとなることを要請した。だが照井は「くだらない質問はするな。俺は1人でヤツを追う。」と即拒否。照井の拒否が翔太郎とフィリップのパートナーシップを気遣ったものだったことは亜樹子が代弁した。
 亜樹子曰く、「フィリップくん今の酷すぎるよ!翔太郎くんは闘いの道具じゃないんだよ?」と。それに対しフィリップは「もう翔太郎ではWは維持出来ないのは事実だ。」と冷厳。だが勿論それで亜樹子が納得したり、収まったりする筈なく、「弱い弱いって!それは翔太郎くんが心の優しい奴だからでしょ!翔太郎くんはハーフボイルドだからこそ何かやる男なのよ!」と翔太郎の真骨頂を叫ぶ。本人的には不本意だろうけれど、やはり翔太郎はハーフボイルドでちょうどいいのだろう。少なくとも今少し仮面ライダーとして、探偵として、漢としての経験を重ねるまでは。
 勿論フィリップは馬鹿じゃないから亜樹子の言葉に気付くところがあった。「翔太郎がああいう顔をする時は決まって…何か甘い考えで無茶をする時だ!」と。

 案の定、翔太郎は無茶していた(苦笑)。
 行先は有馬邸で、鈴子にガイアメモリについて聞き込んでいた。但しそれは丸男の持つそれではなく、彼女自身が持つ、正確にはかつて持っていたそれだった。
 つまり翔太郎は木彫りの熊の中からガイアメモリを見つけており、それこそが丸男が探していた「証拠」だった。そしてそれは彼女が10年間の事件に使ったもの。つまり事件は丸男と鈴子の共同正犯だった。
 2人は確信犯的に現金強奪をしただけでなく、情に訴え、尾藤がその罪をかぶるように仕向けたのだった。
 突如仮面を脱いだかの如く表情を変えた鈴子は、正体を知った自分をどうする?と尋ねた。それに対する翔太郎の答えは「尾藤さんは今でもアンタを守ったと思っている。尾藤さんに謝ってくれ あの人が失った歳月はもう取り戻せない。せめてアンタの悔い改めた姿を見せて欲しい。」というもの。確かに甘い(←注:悪いと言っているのではない)。
 勿論、人の優しさに付け込んで10年も身代わり懲役を務めさせた悪女がたった一度の会話で改心することはなく、メモリを持ってきた翔太郎を「鴨がネギ背負ってくるって言うのね!」と評し、将棋の駒を顔面に投げつけて目くらましにするや翔太郎からメモリを奪い、10年振りにゾーン・ドーパントに変身した。
 その造形はピラミッド形状の物体に目玉がついた、大きさも等身大より遥かに小さいものだった。
 「さぁ始めましょう。七・七!」とゾーン・ドーパントが謎の言葉を口にするや、翔太郎の体は突然屋外にワープ。将棋盤の形に敷かれた空中プレートの上に立たされていた。
 つまりゾーンとは、名前の通り空間を操り、相手を好きな場所に瞬時に動かすことが出来るもので、ゾーン・ドーパントはこの力を取り戻したことで、ダムに沈んだ金も簡単に回収出来る、とほくそ笑み、翔太郎に悔しがれ、との罵声を浴びせた。『仮面ライダーW』に状況が分かっていない愚鈍さや、メモリに取り憑かれたがための一時的なクソ女は少なくないが、この女は根っからの悪女である。
 鈴子が将棋盤を解除すると、翔太郎はビルの高さから真っ逆さまに落下。落下地点が川だったことに意外な甘さを感じた(無事なのは見え見えなので)。

 場面は替わって園咲邸の地下空間。そこに呼び出されたことを訝しがる若菜に琉兵衛は娘と一緒に見たいものが間もなく現れる、という。
 「一緒に見たいもの」とは、「記念すべきその一瞬」で、「地球が…来人を呼んでいる。」というそれを見るのは若菜がいいと断言する琉兵衛。もはや冴子はミュージアムの後継者ではないということだろうか?

 場面は替わって10年前の犯行現場となった風都ダム。「犯人は現場に戻る。」という犯罪心理学(←照井は「名言」と表現)に則って、見張りをしていた照井の前に有馬丸男が現れた。
 「メモリを渡せ。」と要求する照井に丸男が従う筈もなかったが、メモリ引き渡しを拒否する際に丸男は「俺が親分に叱られちまうんでな!」と、自分の背後にいる者の存在を匂わせた。そして上空にはゾーン・ドーパントも現れていて、その呼びかけに応じた丸男はビースト・ドーパントに変身し、襲い掛かって来た。
 1対2の上、ゾーン・ドーパントの空間転送能力を駆使してビースト・ドーパントを次々と死角に運んで攻撃されては、スピードに自信のあるアクセルでも分が悪かった。

 その頃、川から這い上がって来た翔太郎のもとにフィリップが駆け付けていた。「また犯人に甘さを見せて殺されかけたようだね?」と尋ねるフィリップに、「相変わらずすべてお見通しか…まったく薄っぺらいな俺って奴は。」と自嘲気味の翔太郎。だが、フィリップはそんな翔太郎の言葉に首をふり、懐から1枚の紙切れを取り出して見せながら、「それでいいんだ翔太郎。」という。
 続けて曰く、「完璧な人間などいない。みんな支え合って生きている。」と。翔太郎はそれを「人生という名のゲーム……おやっさんの言葉か。」と続けた。
 フィリップの見せた紙は熊の奥に隠されていたのを翔太郎が見落としたもので、そこにはおやっさんが尾藤に書いた「Nobody’s Perfect(誰も完全じゃない)」という文言があった。
 フィリップ曰く、「罪を暴きつつ心を労る。鳴海荘吉が尾藤イサムへ残したメッセージさ。それが鳴海荘吉のやろうとしていた優しさ。キミは同じことをやろうとしたんだ。」とのことで、翔太郎が「薄っぺらい」と自虐した行動は、尊敬するおやっさんの取った行動と同じものだった。まさに翔太郎は「鳴海荘吉の一番弟子」なのだ。
 それでも無力感から逃れられずにいた翔太郎だが、フィリップは「だから『Nobody’s Perfect』だってば。僕は大切な事を忘れていたんだ。鳴海荘吉の意志を受け継いだWは戦闘マシンであってはならない。強いだけのWに価値はない。キミの優しさが必要だ翔太郎。それがもし弱さだとしても・・・僕は受け入れる!」と言い切った。
 もう2人に迷いはなかった。不完全なるがゆえに完全に迷いを振り払ったとは嬉しい皮肉である。相棒の言葉に翔太郎は涙を流しながらその手を強く握り返し、再び絆を強めた2人は一路風都ダムへと向かった。
 ここからBGMは鳴海荘吉役の吉川晃司氏が歌うおやっさんのテーマ曲が挿入歌、その名も「Nobody’s Perfect」で、サビは「さあ、お前の罪を数え 悲しみに踏みとどまれ 愛する者を守るために立ち向かえばいい 立ち向かってゆけばいい」と来た!まさにこのストーリーのための歌と言っていい。
 最後のワンコーラスに合わせ、現場に到着した2人は歩きながら変身し、戦いに挑んだ。

 迷いは消えたが、バランスの悪さは続いていた。変身したWは相変わらずバチバチ火花を出してヤバイ感じだったが、力を抑えようとするフィリップに翔太郎が待ったをかけた。「遠慮すんなお前は全開でいけフィリップ!俺がついていく!これくらいなんてこたねえ…お前が相棒だと思ってくれているうちは俺は二度と降りねえぞ!」と吼える!
 翔太郎の覚悟にメモリも呼応したのか、徐々にジョーカーの出力が上昇しパワーバランスが取れ出し、ジョーカーの力がサイクロンと同等にまで高まったその時、Wの身体の中心からまばゆい光が溢れ、あの鳥=エクストリームが現われた。
 エクストリームの出現を陰で見ていたのは3人。その内の1人で、現場物陰から見ていたシュラウドは翔太郎がフィリップ=来人のパートナーが務まったことに思わず驚愕の声を上げた。
 後の2人は園咲琉兵衛と若菜であった。彼が娘に見せ立ったものとはまさしく「エクストリーム誕生の瞬間だった。

 エクストリームメモリがドライバーに合体した瞬間、2人の意識は真っ白でどこまでも広い空間に解き放たれていた。2人の体が真ん中から分断され、新たな力を底に挟み込んだような形でWサイクロンジョーカーエクストリームフォームは誕生した。その様子を、Wの2人と琉兵衛は「地球と一体化」と表現した。
 琉兵衛が言うところの、「無限のデータベース」と直結したことを証明するように、フィリップは「このWと敵の能力をすべて閲覧した。」と告げた。
 そしてアクセルが手も足も出なかった瞬間移動攻撃に現われたそばからすべてプリズムソードで斬撃を加えて返り討ちにした。
 しかもこの斬撃に対して、ビースト・ドーパントが得意とした傷の再生が為されず、完全に周章狼狽したゾーン・ドーパントが攻撃を仕掛けるも、Wエクストリームはシールドユニット・プリズムビッカーに4本のメモリを同時に挿し込むというマキシマムドライブで、「ルナマキシマムドライブ」、「ヒートマキシマムドライブ」、「サイクロンマキシマムドライブ」、「ジョーカーマキシマムドライブ」を同時発動。
 即座にゾーン・ドーパントを、文字通り返す刀でビースト・ドーパントも斬り、忽ち両名を討ち果たした。
 両者の力が完全に一体となったことに満足する翔太郎とフィリップ。自分の計算を超える力を発揮した左翔太郎に驚愕するシュラウド。そして照井は丸男と鈴子に手錠をかけ、キリキリ歩かせるのだった。

 ラストシーンは神社で、尾藤の心中に思いを馳せていた翔太郎はそれを口にしていたらしく、そこに最後のデコピンが飛んできた。ブツクサ言っているとリンゴ飴の味が落ちるというのである。
 結局自分は尾藤を救えなかったと翔太郎は悔やんでいたが、当の本人は至って元気にリンゴ飴のテキ屋を開業していた。店にはクイーン&エリザベスも加わっており、2人はCDに続く一山を狙っていた。
 最後に尾藤は、「おい、事務所潰すんじゃねえぞ後釜。オメエがくれた旦那の形見大事にすっからよ。」と翔太郎を、鳴海荘吉を継ぐ者として認める、と取れる言を発した。
 その言葉で翔太郎は自分の行動が間違っていなかったことを悟り、照れ隠しに帽子を目深にかぶり直すのだった。
 「俺とフィリップは新しい力を手に入れた。これからも俺は必死で走り続けるしかなさそうだ。追いつかなきゃいけない人がたくさんいるからな。おやっさんに尾藤さん。いつか憧れの背中に追いつくため、ハーフボイルド探偵左翔太郎は今日も走り続ける。」


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平成三〇(2018)年七月五日 最終更新