仮面ライダーW全話解説

第33話 Yの悲劇 / きのうを探す女

監督:石田秀範
脚本:中島かずき
 ストーリーは1人の女性依頼人・不破夕子(平田薫)が鳴海探偵事務所を訪ねてきたところから始まった。「きのうを探してほしいんです。昨日から見つからないんです。」という。これだけ聞けば意味が分かりかねるが、探して欲しい「きのう」とは飼い猫の名前だった。
 引越し間もない散歩中に目を離してしまい迷子になってしまったのだと云う。放映当初、ペット探しは翔太郎が最も嫌う依頼の1つのだったが、何故か二つ返事でこれを(依頼料に関しても話さずに)承諾した。フィリップに言わせるとどうも夕子に一目惚れしてしまったみたい(たかが猫探しにお気に入りの帽子をかぶっていくのがその根拠らしい)。
 訝しがる亜樹子に、「これはただの猫じゃない。猫の形をした大切な思い出なんだ。そうだろ?」と答え、夕子には「さあ行きましょうお嬢さん。」と妙にかっこつける翔太郎。
 早速の快諾に喜ぶ夕子。聞けば「困ったことがあれば鳴海探偵事務所に行け。」と知り合いに言われたとのことだが、果たしてそれが誰なのか気になる台詞である。
 一連の流れを見て、「おのれ色気づいたかあのハーフボイルドめ。アタシ聞いてない!」と叫びながら、タダ働きを恐れて亜樹子もこれに続いた。

 場面は替わってある富豪宅。と言っても、園咲家ではない。地上げ屋の事情聴取で照井達、三刑事が西山不動産社長・西山英輔(永瀬尚希)を尋ねていた。
 それというのも、強引な地上げをやっている西山不動産の社員達が相次いでけったいな事故に遭っているという。平林剛(板垣隆弘)という社員は昨日急に車道に飛び出してトラックに跳ねられ、全治3ヶ月の重症。トラック運ちゃんの話では、「丸で何かに引っ張られるようだった。」とのことだった。
 もう1人、野田健一(西村信宏)という社員も、同じく昨日トラックを運転していて、ブレーキも踏まず猛スピードで民家にで突っ込んだという。
 そして平林と野田には、体に妙なアザ、それも自然には出来ない幾何学模様のものが有ったという共通点があった。
 刑事達に事件時刻のアリバイを尋ねられた西山は自宅のプールで泳いでいた、と答える。だが、自宅にいたというアリバイほど説得力のないものはない(笑)。
 昼間っからビルの屋上で美女をはべらしリゾート気分で、尋問にもへらへらした態度で答えているのを見ると怪しいには怪しいのだが………。
 そして事情聴取の最中、時計の針が3時丁度を指し示しすと同時に西山の身に異変が起こった。突然妙な叫び声をあげ、シャツを脱ぎ捨て上半身裸になると、奇声を発しながら走り出すや西山は屋上から飛び出した。
 突然狂ったのか?それともなにがしかの機密保持を強要されての自害なのか?謎の身投げはすんでのところで照井がその足首を掴んで阻止した。そして、見てみると西山の体にも被害者達と同じ奇妙な幾何学模様のアザがあった……。

 その頃、翔太郎達はきのうがいなくなったと思われる風都ホールの近くをくまなく捜査していた。
 「猫を探すには猫の気持ちになるのが一番だ!」と言って、両手を猫手に構え、「にゃおお〜ん、にゃおお〜ん」との声まで発して猫マネを始める翔太郎。当然亜樹子は呆れるのだが、しばらくすると夕子もそれに付き合ってにゃんにゃん言い始めた。
 途中、夕子が1枚のポスターを見つけ、それを凝視し出した。ポスターは明日風都ホールで講演会を行う冴子のものだった。果たして夕子は何故に冴子を凝視するのか?
 訝しがる翔太郎が声をかけたが、彼女は話をするかえるように風都くんに話題を振った。
 翔太郎は、「この街をとても愛していた男」のデザインであること告げ、自分の持つキーホルダーを見せた。それは「この街を…よろしく頼む。」との遺託を告げて姿を消した園咲霧彦の形見でもあり、翔太郎は彼の最後の姿を思い出さずにはいられなかった。敵ではあったが、互いに風都を愛する男同士でもあったもののことを。
 ひと時の想い出シーンが終わり、夕子と手分けしてきのうを探していた翔太郎は、突然ホールの屋上にドーパントの姿を見つけ、これを追った。
 ビルの屋上に上がり、更に飛び降りながらWに変身。逃げるドーパントを追い、ホールの中に飛び込もうとした。亜樹子は巻き添えを食う人が出ることを懸念したが、翔太郎が答えたように、タイミングよくその日は休館日で、中に人はいなかった。
 無人のホールでメタルシャフトをブンブン振り回しながら追いかけるW。相手の飛び道具を胸に一発被弾したが、特にダメージも負わず、戦闘を続行。ステージの上のドーパントにライダーキックを放ったが、これは避けられ、逃げられた。
 戦闘を終え、ホールの外に出ると夕子がきのうを抱いていた。意外にも無事見つかった訳だが、脈絡のなさが気になる。もっとも、亜樹子には依頼料の方が気になったようだが(笑)。
 そして翔太郎さんのおかげですべてが上手くいった、とのことだが、最後の最後にも「明日が楽しみです。」と含みの有りまくる台詞を吐いた。

 翌日、場所は鳴海探偵事務所。そこには西山不動産の事件に関する検索依頼で照井が来ていた。照井が求めていたのはフィリップの検索なので、夕子との一件で骨抜きになっている翔太郎はどうでもいいらしい。
 照井は被害者(西山不動産社長・西山と、その部下2名)、背景(風都南地区の地上げに関わっていた)、被害(全員一命は取り留めているが今は昏睡状態)、奇妙な点(8の字型のアザ)を基に検索を開始しようとしたところ、時計が3時丁度を示し、その瞬間、突然スイッチが入ったかのように翔太郎に異変が起きた。
 照井とフィリップの会話の中に唐突に割り込み、「これはただの猫じゃない。猫の形をした大切な思い出なんだ。そうだろ? さあ行きましょうお嬢さん。」と言い出す。
 明らかに噛み合わないことを言っているのだが、自分に言っていると思う照井は、「…これはどう見ても人の写真だが。それにお嬢さんとは俺に言ったのか?そのニヤけた顔は挑発と受け取って構わないんだな?」と怒りを募らせた。
 それに答えているのかいないのか、「フッ…なくした昨日を探すのは探偵の仕事ですよ。」と気取る翔太郎に、「お前の頭を探してこい。」とどぎついツッコミを返す照井。
 もうこの時点でフィリップにも、亜樹子にも、視聴者にも翔太郎が昨日夕子を前にして言っていた台詞を口にしていることが丸分かり(笑)。
 呆気に取られる3人を残して翔太郎はそのまま事務所を飛び出した。後を追うフィリップと亜樹子は互いに目の前の翔太郎が「昨日の翔太郎」であることを確認。フィリップは照井の持ち込んだ手掛かりと、翔太郎の症状からすぐさま検索を開始し、イエスタデイ・ドーパントの仕業であることを導き出した。  その能力は他人の記憶を操作することで、イエスタデイ・ドーパントによって身体に刻まれた刻印が発動すると本人の意識はなくなり、24時間前と全く同じ行動を取る、というもの。
 これにより、西山達の事件も謎が解けた。つまり昨日をもう一度繰り返すことで、前日犬の散歩をしていた平林は犬に引っ張られた時の動きを繰り返して車道に飛び出してトラックに跳ねられたのだった。
 同様に野田は前日に高速道路をドライブしていた。それを翌日に繰り返した場所が民家前の一般道。必然、野田は信号も速度も無視して車を走らせることになった。
 そして西山は自宅のプールで服を脱いで飛び込むという行為を繰り返した場所が屋上だったため、死のダイブ(未遂)となったのだった。

 場面は替わって園咲邸。風都ホールのポスターに会ったように、この日冴子は講演会の講師を務めることになっていたが、前日に何者かから「講演会を襲う」という脅迫状を受け取っていた。
 それゆえ若菜がその身を案じるのだが、冴子にしてみれば「仕事をすれば敵が出来る」のは当たり前らしく、「そんなものにいちいち怯えていては前に進めないわ。そんな弱気じゃ園咲の仕事は任せられないわよ若菜。」と返すのだった。
 そして冴子の公演が佳境に入ろうとしたころ、闖入者が現れた。「安心しろ今日は休館日だ!中に人はいねえ!」と叫びながら入って来たのはW。翔太郎の異変を察知したフィリップは変身したくなかったが、昨日同様翔太郎が風都ホールの屋上から変身しながら飛び降りたものだから、渋々変身せざるを得なかった。
 当然翔太郎は今も機能を繰り返してたいのだが、翔太郎の行動は昨日と同じでも、風都ホールは昨日と違って休館日ではなかった!
 かくして冴子の公演中メタルシャフトをブン回しながらWは会場に乱入することとなり、会場内の聴衆が悲鳴を上げて逃げ惑った。
 Wに変身していても素体が翔太郎の状態なのでフィリップの意識で制止することもできないらしく、もう完全に通り魔状態。つまりはこれがイエスタデイ・ドーパントの仕込みだった。
 イエスタデイ・ドーパントの狙いが園咲冴子の暗殺とみた照井。フィリップは彼にWを会場の外に追い出すよう要請した。壇上の冴子にライダーキックを見舞おうとしたところをカットしたアクセルはそのままバイクになって、Wを乗せたまま壁を破って風都ホールの外に無理矢理連行した。
 フィリップがWを連れ出したのは、この場所でエクストリームの力を翔太郎に施し、正気に戻す為だった。
 狙い過たずエクストリームの力を集中して刻印の効力を消し去り、翔太郎は正気に戻った。もっと早くその方法を取れなかったのか?というのは野暮かな?

 正気に戻ったWは近場に隠れていたイエスタデイ・ドーパントに猛攻を加えた。トリッキーな効果を持つドーパントにありがちだが、肉弾戦は苦手らしい。
 堪らず逃げ出そううとしたイエスタデイ・ドーパントだったが、その背中にフィリップが正体を告げて呼び止めた。

 果たしてその正体は不破夕子だった。呆然とする翔太郎だったが、フィリップは更に驚きのその正体を告げた。フィリップ曰く、「不破夕子は偽名だ。本名は須藤雪絵…。須藤霧彦の妹だ。僕らには園咲霧彦と言ったほうが解りやすいかな。」とのことで、さすがにイエスタデイ・ドーパントの正体を予測していた視聴者もこれには驚いたことだろう。
 となると、Wに冴子を狙わせたのは兄を殺した相手への復讐ということで得心が行きかけたが、夕子改め雪絵はこれを否定した。曰く、「復讐?ウフフ…違うわよバカバカしい。確かに兄さんはミュージアムに始末されたけど、それは彼が組織にとって必要なくなったから。私はそんなヘマしないわ。この力でミュージアムの幹部になるの。」と、驚きの意志を示したのだった。
 そうなると冴子を襲わせたことに合点がいかなくなるのだが、ともあれ雪絵は再びイエスタデイ・ドーパントに変身し、Wへ飛び道具の連打を浴びせた。
 翔太郎は激しく狼狽しながらもフィリップと照井の檄を受け、マキシマムドライブを装填し、イエスタデイ・ドーパントに斬りかかったところで以下次週へ。


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平成三〇(2018)年七月五日 最終更新