仮面ライダーW全話解説

第34話 Yの悲劇 / あにいもうと

監督:石田秀範
脚本:中島かずき
 前回のラストの続きで、イエスタデイ・ドーパントに斬り掛かったWだったが、相手が突如変身を解いたことで、生身の人間は攻撃出来ない翔太郎の弱点を突かれた形になり、斬撃を寸止めしてしまった。
 攻撃出来ずに震える翔太郎を嘲笑いながらイエスタデイ・ドーパントは逃走。相手の狡猾さと自分達の油断を悔いるフィリップと、何か釈然とせず、探偵としての自分の仕事は終わっていないとする翔太郎。

 場面は替わって風都ホールの屋上。そこで雪絵は冴子と対峙していた。元義理の姉妹の初対面である。
 雪絵が冴子に告げたのは自らの売り込みで、イエスタデイという効果にかなりクセのあるメモリを用い、Wに冴子を襲わせるように使いこなせる自分をミュージアムの幹部待遇で迎えろ、と要求。
 Wを操っての襲撃を「脅迫」ではなく「売り込み」だったことを「お兄さんに似て自信家だこと。」と認識したことを告げた冴子だったが、はっきりと不信の念を告げた。そりゃそうだろう(笑)。
 元・義姉に必ず自分の力を認めさせると告げて去る雪絵。
 それを陰で見ていた井坂は雪絵を「実に聡明」と評し、「メモリの毒素をイエスタデイの刻印として体外に排出している。」という点を指して、ドライバーに頼ることなく、メモリによる副作用を受けない攻撃と防御を一度に行う方法に気付き得た彼女こそ冴子の部下に必要なのではないか?と問いかけた。心配なら自分が雪絵を診療するとも。

 場面は替わって風都の一角にある小さな保育園。そこに現れたのは雪絵で、園長先生(児玉美智子)は満面の笑みで彼女を迎えた。充分成人した年齢で覚えられているということは度々園に顔を出していたのだろう。
 園長先生曰く、「つい最近まで地上げで無理矢理立ち退きさせられそうだったんだけど、どうやらその話も消えたみたいなの。」とのこと。なるほど、雪絵が西山不動産の連中を殺害しようとしたのはこの保育園を立ち退きから守る為だったということか。
 そしてそのことを口しながら、雪絵を「”昨日”にこだわってるんじゃないか?」と呼び掛けたのは我らが翔太郎だった(←保育園に張り込んでいたのだ)。
 翔太郎は雪絵に、最初はミュージアムの一員だった霧彦が最後は自分を顧みず若い命を守るほど心から風都を愛していた、と告げ、雪絵も同様であろう、と呼び掛けた。
 「これ…いい笑顔してるよな。アンタが守りたかったのはこの笑顔なんだろ?」と言いながら翔太郎が指したのは、園児の頃に描いたと思しき霧彦と雪絵の絵だった。
 園長先生から渡されたその絵を手渡し、説得を試みた翔太郎。兄の最期を詳しくは知らなかったらしい雪絵はそれを知って少し狼狽気味。だが、一転して険悪な表情を見せると、「本当にお人好しね。そんなに昨日が好きならもう一度戻してあげるわ。こういうのはどう?早く撃ち落とさないと街中の人間に刻印が刻まれるわよ!」と言い放って、イエスタデイ・ドーパントに変身するや、街中に向けて刻印を乱射した。
 放っておいては不特定多数への人間にイエスタデイの刻印が撃ち込まれるかも知れない……翔太郎は慌ててWに変身し、ルナトリガーで乱射された刻印をすべて撃ち落としたが、その隙に雪絵はトンズラしていた。

 場面は替わって園咲邸。井坂の言もあってか、冴子は自分への忠誠を誓うよう告げて雪絵を迎えた。井坂立会いのもと、話がまとまって冴子と握手を交わした雪絵の目がギラリと光った。その瞬間こそが彼女が待ち侘びた復讐の好機だった。
 握手したままイエスタデイ・ドーパントに変身した雪絵は握った掌から直接冴子に刻印を撃ち込んだ。
 訝しがる冴子に雪絵ははっきりと兄の仇討ちであることを告げ、これまでの行動は用心深い冴子に確実に刻印を撃ち込める距離に近付けるまでの信用を得るためのものであったことも言い切った。しかし刻印で相手を殺すのは些か確実性に欠ける気がする。冴子を何者とも衝突しない広い空間にでも連れ出せばまず死ぬことはないだろうから。
 ともあれ刻印を撃ち込むことには成功した雪絵は意気揚々と冴子に「さあ永遠に昨日の監獄に囚われなさい!園咲冴子!」との宣告を浴びせた。

 翌日、雪絵が無差別に刻印をばら撒くように見えて、その実Wが防げる分しか撒かなかっのでは?と考え、雪絵を悪人と断じられない翔太郎の前に雪絵が現れ、翔太郎の考えと、自らの目的が最初から兄の復讐にあったことを肯定した。
 だが、どうもおかしい。翔太郎達の前に仁王立ちし、懐から1枚のスカーフを取り出し、兄への想いを語るその台詞は、「解らない?兄さんのスカーフよ。婚約祝いに私が贈ったもの…。面白い偶然ね。この街についた私を出迎えたのがこのスカーフだったわ。丸で私に助けを求めるように!」というものだが、怒りの矛先は翔太郎ではない筈………?
 そう、よくよく聞けば雪絵の台詞は冴子の前で前日に言っていたものだった!(翔太郎達には知る由もなかったが)
 決定的な台詞、「私は絶対に許さない!兄さんを殺したあなたをね!」を聞いていよいよ雪絵がおかしいと断じられた時、フィリップは雪絵の首筋にイエスタデイの刻印があるのを見つけ、彼女の行動が昨日の行動であることを確信した。
 「さあ永遠に昨日の監獄に囚われなさい!園咲冴子!」と叫んだ後に何があったのか?

 そこへ井坂が現われ、翔太郎達に説明したことで、昨日起きたことの回想シーンに入った。早い話、タブー・ドーパントにはイエスタデイのメモリの力では影響は与えられない、という、「初めから効かない」的な身も蓋もない理由によるものだった。
 冴子曰く、「先生の治療のおかげですわ。」とのこと。「永遠に昨日に閉じ込められるのはあなたの方よ。そして私はやっと過去から解放される。」という意味深な冴子の台詞とともに、刻印は悔しがる雪絵に撃ち込まれたのだった。

 一連の流れをどや顔で話す井坂に怒り心頭で攻撃を仕掛けるWだが、さすがにウェザー・ドーパントは強い。「そいつを倒すのは俺だ!」と復讐心を滾らせながら駆け付けた照井もアクセルン変身して戦うが、やはり分が悪い。
 そんな状況にあって、翔太郎はエクストリームの力で雪絵からイエスタデイの刻印を消すことを提案。フィリップは「いつも上手くいくとは限らない。」としたが、翔太郎は成功させずして霧彦に合わせる顔がないとして、プリズム・ブレイクなる斬撃で見事雪絵を刻印から救出した。
 返す刀でウェザー・ドーパントに挑みかかったWはこれを散々に殴りつけ、エクストリームのマキシマムドライブを発動させ、ベルトから強烈な竜巻を発生させ、その中に飛び込むや、ウェザー・ドーパントに両足でのライダーキック=ダブル・エクストリームを炸裂させた。
 派手な爆発が起こり、自分の仇を奪われた照井は怒り心頭状態となったが、ウェザー・ドーパントは蜃気楼を身代わりに逃れた、と言い放った。
 だが、次の瞬間ウェザー・ドーパントは痛みを感じて蹲った。曰く、「完全には避けきれなかったか。」とのことだった。
 こうなるとウェザー・ドーパントはいつものトンズラで、全く歯が立たなかった照井は悔しそうにそれを見送るしかなかった。

 ラストシーンにて、雪絵に「何かあったら鳴海探偵事務所へ行け。」といった人物は霧彦その人であったことが判明した。翔太郎の手によって無事イエスタデイの呪縛か解放されたら雪絵から、感謝の意とともに、自分と同じ風都を愛した人物が最後の最後に自分を頼っていてくれたことを知って感じ入っていた翔太郎だったが、ここで異変が起きた。
 突如、自分のいる場所と、自分の目の前にいる人物が分からない様子に陥った雪絵。彼女はイエスタデイの副作用でそれまでの記憶をすっかり失っていた。
 かくして、「すべての過去を白紙に戻す」という形で雪絵の昨日に囚われた復讐劇は幕を閉じた。些か遣り切れないラストだが、翔太郎は彼女が記憶を取り戻し、その罪を償った時、この街にも、彼女にも、もっといい風が吹く、そう信じたいと思うのだった。


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平成三〇(2018)年七月六日 最終更新