仮面ライダーW全話解説

第35話 Rの彼方に / やがて怪物という名の雨

監督:田崎竜太
脚本:長谷川圭一
 冒頭は風都野鳥園から始まった。そこには照井がいた。おおよそクールな彼には似つかわしくない場所だが、妹と来て、昇進祝いのアクセサリをもらった思い出に耽っていた。
 その照井の眼前で小さな事件が起きた。小学生ぐらいの女の子が1人の少女(和川未優)に「今日も面白い鳥のお話聞かせて。」とせがまれるや、いきなり女児を突き飛ばしたのだった(さほど強くではなかったが)。
 照井が少女を捕まえ、訳を問い質そうとすると、掴んだその腕にはガイアメモリの生体コネクタが見られた。驚く照井に少女は自分に近づくと死ぬと云う。勿論だからと言って照井が話す訳ないのだが、彼女は照井を痴漢だと騒ぎ立てた。
 群衆が照井を取り押さえようとする隙を突いて少女をトンズラしたのだが、何故ここで警察手帳を出さないのか激しく疑問(苦笑)。だが、痴漢の濡れ衣は意外な形で晴れた。
 群衆の中に「女の敵!」と言いながら照井をスリッパではたく女がいた。勿論亜樹子である(笑)。その隣には翔太郎がいて、即座に痴漢容疑者が照井と知って疑いは晴れたのだった。
 何故2人がここにいるのか?それは近所に住む小学生達の依頼を受けてのことだった。

 聞けば、鳴海探偵事務所を訪れた小学生達は、風都野鳥園にて野鳥の解説をしてくれていたお姉さんが最近元気のない様子ので、彼女の元気を取り戻して欲しい、と「クラスのみんなで貯めたお金」といって、ブタの貯金箱を差し出してきたとのこと。健気さを示す黄金パターンやね(笑)。
 勿論、翔太郎は初登場時のテリーマンの様な対応はせず(笑)、ハーフボイルドらしく、「そのお金は受け取れない。」と言って、行動を開始した。
 いずれにせよ、「元気がない。」というだけで小学生達がお金を出し合ってでも何とかしようとするのだから、相当慕われているようだ。そして翔太郎が照井に見せた写真に写っていた「鳥のお姉さん」は今しがた照井を痴漢呼ばわりして逃げた少女・島本凪だった。

 場面は替わって園咲邸。相変わらず凄まじい食欲を見せた直後の井坂に、琉兵衛は昨日、自分が保管していたメモリが1つなくなっていると告げ、盗んだのか?と尋ねた。
 それに対して井坂はYesともNoとも言わない。さすがに琉兵衛も「否定しないというのか!?」と声を荒げた。
 それに対しても、井坂は「10年前に琉兵衛に対して立てた(琉兵衛は覚えていないであろう)ある誓いを果たす日が近づいている。」という不可解な台詞を残して席を立った。
 さすがに冴子も心配になってこれを追った。あれでは父を怒らすだけだと(←そりゃそうだ)。だがそれに対して井坂が彼女に問い返したのは、「覚悟は出来ていますか?共に恐怖の帝王を倒し、キミが女王となる覚悟。」というものだった。
 聞かれた冴子は本当に自分の父に勝てるのか?と問い返す。つまるところ、勝算があれば冴子に琉兵衛を裏切る気は満々である。
 ここで井坂はようやく「勝てますよ。」とYes回答をした。どうもコイツと他者の会話はYesかNoの返答がないから苛つく(苦笑)。
 そう言いながら井坂が懐から取り出したのは、風都野鳥園の入園チケット。彼の言う、琉兵衛=テラー・ドーパントに勝つ為に、自分を最強の存在へと変えてくれる「勝利の鍵」とやらが今回のストーリーのコアの様だ。

 場面は風都野鳥園に戻る。凪を発見した照井は彼女に何に怯えている?のかと問うた。
 謂わば尋問なのだが、彼女が子供達の安全を気遣い、自分に近づかないようワザと冷たい態度を取っていたと見た照井の口調は決していつもの高圧的なものではない。
 気が付けば天候は雨となっており、凪は強雨に脅えながらも理由を話した。話の中に現れたのはあのウェザー・ドーパント。ある土砂降りの夜、突然現れたウェザー・ドーパントは凪の父親(山賀教弘)を殺し、彼女の腕に生体コネクタを刻んだとのことだった。
 父親を目の前で殺されただけでも相当なトラウマなのに、ウェザー・ドーパントは去り際に「そのコネクタの様子を見にまた来るよ!」と告げていた。必然、今後も自分がこの恐ろしい存在とかかわることが明らかだったため、彼女は他人を巻き込まないよう遠ざけていたのだ。

 ようやく重い口を開き、辛い思いを吐露した凪に対し、自分の境遇と重なるところや妹と年が近いこともあってか、いつになく優しい笑顔で照井は妹から貰ったペンダントを「これはお守りだ。よく効くぞ。」と言って、手渡した。
 うーん、漫画やドラマでこういうことをすると「お守り」を渡した側に死亡フラグが立ちかねないのだが(苦笑)。

 妹を殺された照井が「せめてこの子だけは絶対に守ってみせる」と心に誓ったその時、ウェザー・ドーパントが現れた!相変わらず太々しい態度で翔太郎、照井、亜樹子に慇懃に挨拶すると凪に対して、「お嬢さん、約束通り来ましたよ。」と言いながら迫ってくる。
 仇を目の前にして、守るべき対象を背後にして、照井はアクセルに変身し、Wもこれに加勢しようとした。だがウェザー・ドーパントはWを妙な集中豪雨の中に閉じ込め、アクセルと一騎打ち状態にすると容赦なくこれをボコボコにした。やはりこれまでの戦歴からも急に互角に渡り合えるとは思えない。程なくアクセルは雷雲の檻に閉じ込められ、何度も雷撃を浴びる状態に陥った。
 Wとアクセルの動きを封じたウェザー・ドーパントは凪に近づき、怯える彼女の腕を取り、生体コネクタを観察。どんな様子なのかは視聴者的には分からないが、井坂に言わせると、「いい具合だ。」とのことで、今後彼女が恐怖の感情に呑まれれば呑まれる程生体コネクタは早く成長するとのことだった。
 早く凪にメモリを挿したい意を露わにするウェザー・ドーパントが手にしていたのは奇妙な形のメモリ。どうやらこれが琉兵衛から盗んだもののようだ。
 一先ず現時点ではメモリが挿されることはないようで、ウェザー・ドーパントは照井を「家族の仇を討つどころか1人の少女さえ守れない虫ケラです。」と嘲って引き上げた。

 瀕死の重傷の身を引きずりながら凪に駆け寄るも、照井は凪から、守ると言いながら丸で敵わなかった事実を理由に嘘つき呼ばわりされ、愕然とするしかなかった。
 まあ一見、ひどい台詞だが、ようやく得た安心と期待を一瞬で打ち砕かれた凪の気持ちを考えれば頭ごなしには批判出来ない。
 井坂にやられたダメージと土砂降りに打たれてボロ雑巾のようになった照井は、憤って地面に拳を打ちつけるのだった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。フィリップの検索により、井坂が凪に挿入しようと考えているメモリは「ケツァルコアトルス」であることが分かった。随分大層な代物が出て来たものである。「ケツァルコアトル」と言えば古代アステカ文明で崇められた有翼の蛇神……………、そして「ケツァルコアトルス」と言えばその蛇神に擬えられた最大の翼竜………盗まれた琉兵衛の怒りが分かる気がする。
 更にフィリップに言わせると、「島本凪はその過剰適合者」とのことだった。
 つまり井坂が凪を狙うのはリリィ白銀のケースと同じだった。リリィ同様にメモリの過剰適合者の体内で育てたメモリを最終的に我が力とするのが井坂の狙いである。
 ただ、リリィのケースと異なるのは、ケツァルコアトルスのメモリがまだ凪の体内に挿されていないということで、未挿入なのは「コネクタが成長するのを待っている」ためだった。
 勿論だからと言って安心は出来ない。井坂に目をつけられているだけで充分命の危機に面するし、コネクタ成長の要因は凪が恐怖に囚われることであることを井坂は明言している。そしてその「恐怖」の為に既に凪の父は犠牲になっていたのだから。「コネクタが完成するまで、彼女に恐怖を与える為何度も奴は現れる!」とあっては、井坂打倒は急務となっていた。
 黙って話を聞いていた照井は途中から辛抱ならず、壁を叩いて1人事務所を出ていき、心配した亜樹子がそれに続いた。見た目は中学生でも、どこか母性のある女である(笑)。

 場面は替わって園咲邸。そこでは井坂が冴子に10年前の話をしていた。
 かつて井坂は、自分が何者であるかを求めて悩める青年で、医者になって生命の研究に没頭していた。だが、答えは見つからず、満たされぬ毎日に自暴自棄になっていたある日、彼は偶然テラー・ドーパントが圧倒的な恐怖のパワーで3人の男を漆黒の海に飲み込むのを目撃した。
 その時井坂は声も出ず立ち尽くすしかなかった恐怖を感じるとともに、それ以上にそのパワーに魅せられ、感動し、変身を解いた紳士が手にしているモノ(テラーのメモリ)こそ、自分を虜にした力の根源だと理解したのだった。
 琉兵衛の前に進み出、膝をついて、それが欲しいと懇願した井坂に、琉兵衛は井坂にその資格があるならいずれガイアメモリと出会うであろう、と告げてその場を去った。うーん、普通こういう状況では下手に近づくと殺されかねないと考えそうなものだが……。
 いずれにせよ、殺されるでもなく、望みを叶えられるでもなかった井坂はその時の絶対的闇の力、琉兵衛の持つテラーのメモリをいつか必ず我が物にせんと誓ったとのことだった。
 かつての経緯を話した井坂は、同時に冴子に近づいたのが園咲琉兵衛に近づく為にその娘を利用するためのものであったことを告白した。
 「嫌いになりましたか?」と問う井坂に冴子はゆっくりかぶりを振り、井坂の本音が聞けたことに安堵し、彼なら父に勝てると確信したと告げた。普通ならそこから濃厚なラブシーンに移行するのだろうけれど、さすがに子供番組ではそうはならなかった(苦笑)。だが移行したのはテーブルの下で、そこにはミックがいた。まず琉兵衛のスパイと見て間違いあるまい。

 場面は替わって謎の森。そこは照井が初めてシュラウドと会った場で、照井はより強い力を求めてシュラウドの姿を求めて叫んだ。
 程なく現れたシュラウドだったが、彼女は照井への協力を拒否した。その理由は、彼女が期待した復讐目的に暴れる照井でなくなっていたことに見切りをつけてのものだった。
 勿論照井が納得する筈なく、自分にまだ復讐の炎が宿っていることを肯定する様にアクセルに変身して、シュラウドの眉間にエンジンブレードを突き付けた。
 これを見たシュラウドは「ついて来なさい。」といって、照井、亜樹子とともにいずこかに向かった。

 場面は替わって風都野鳥園。凪の鳥に対する詳しさに感心しながら、翔太郎は自然と照井の話をしていた。
 照井が、彼もままたウェザー・ドーパントに家族を奪われた身の上で、それゆえに凪を守ろうとしたことを。さすがにそう聞かされては、凪は照井を罵ったことに気まずさを覚え、渡されたペンダントを強く握り締めながら、自分のために死なれては困る意を口にした。一時的な興奮でひどいことを言いはしたが、根は子供に慕われるだけあって、凪は良い人の様だ。
 そんな彼女に翔太郎は「守るべきものがあれば男はどこまでも強くなれる。」という尊敬する人物(=おやっさん)の言葉を引用して、照井は死にはしないと告げた。
 その言葉に励まされ笑顔を見せる凪だったが、そこにまたも嫌過ぎるタイミングで井坂が現れた。勿論現れた目的は凪に更なる恐怖を与える為である。
 その手段は、凪が近い将来如何なる怪物になるかを見せることで、「複製したお試し品」と称するメモリを近くにいたオウムに投げつけて突き刺した。
 メモリを挿されたオウムはあっいう間に巨大な怪鳥に変身し、凪を攫ってどこぞに飛んで行ってしまった!
 Wに変身するも、相手は大空を舞っている。フィリップは空中戦の為にリボルキャリーを召喚し、ハードボイルダーにハードタービュラーを装填しようとしたが、やって来たリボルキャリーに搭載されていたのはアクセルのガンナーユニットだった。
 以前ガレージにやってきてそのままだった様だ、との能天気に語るフィリップも大概な気がするが、いずれにせよガンナーAとプリズム・ブレイクを利用し、プリズムビッカーを砲塔の上に置くと、その上に飛び乗り、砲撃と同時に猛スピードで空高く飛んでケツァルコアトルスの巨体を横一文字に一刀両断したのだった(落下した凪はルナで延ばした腕に救われた)。

 ラストシーンはシュラウドによって照井と亜樹子が連れてこられたオフロードレース場だった。
 そこでシュラウドはヘルメットを投げて寄越しながら、照井にバイクに搭乗するよう命じた。いった、ここで如何なることが始まるのか?というところで以下次週へ。


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平成三〇(2018)年七月六日 最終更新