仮面ライダーW全話解説

第36話 Rの彼方に / 全てを振り切れ

監督:田崎竜太
脚本:長谷川圭一
 前回、凪に新たな恐怖を与えに来た井坂は、彼女の生体コネクタがまだ完璧ではなかったことに1一人憤慨した。計算上、ここまで与えた恐怖で確実に完成する筈なのに、そうはなっていないことに何が彼女の支えになっているのかを訝しがった。
 画面では凪のポケットでペンダントが輝き、これをくれた人物が彼女を恐怖から守っていることが伺える。だが、彼女は駆けつけたエクストリームの攻撃でウェザー・ドーパントが退散したいざこざの最中、その大事なお守りを現場に落としてしまったことに気付かなかった。

 場面は替わって前回最後のシーンだったオフロードレース場。シュラウドはトライアルメモリなる新しいメモリを使えばすべてを振り切る速さを手に入れられると告げるが、まずは試せ、と照井に命じた。
 照井がそのメモリを挿すと、アクセルの体色は黄色くなり、そしてすぐに青くなった。信号の逆かい!(笑)。
 つまるところ、このメモリを使用すればアクセルは仮面ライダーアクセル・トライアルフォームとなり、他を圧倒する超高速を手に入れられるのだが、その制限時間は10秒とのことだった。仮面ライダークウガのライジングペガサス以上である。
 早速シュラウドが崖の上から落石を落とし、それを次々と粉砕していくアクセル。だが順調に見えたのも束の間、巨岩に蹴りを入れたところパワー負けして吹っ飛ばされてしまった。
 パワーが足りない、と考えたアクセルだったが、シュラウドの助言はトライアル最大の特徴であるスピードを生かし、懐に潜り込み、キックの嵐を叩き込めという。1発で効かなければ10発、それでもダメなら100発叩き込めともいう。
 更に特訓に挑むも、今度は10秒の時間切れで大岩の下敷きに…………と思われたが、大量の落石はシュラウドが用意したバーチャルリアリティーだった。
 落石が現実なら死んでいた、とアクセルに告げたシュラウドは特訓方法を変えて、トライアルを使いこなしたければレース場のコースを10秒以内に走れるようになれ、と告げ、アクセルは何度もバイクでコースを走り続けた。

 場面は替わって園咲邸。井坂の髭を剃っていた冴子はほんの少し場面が移動した隙に立っていた琉兵衛に戦慄した。その背後にはミックを抱いた若菜もいる。
 琉兵衛は10年前の夜の、井坂との邂逅を完全に思い出していた。
 最初こそ、貧相な男が立派になったと皮肉な褒め方をしていたが、さすがに「ウェザーのメモリを手にし、私の娘まで篭絡してこれ以上何を望むのかね?」と詰問するその口調は刺々しい。何のかんの言っても彼は「父」である。
 それに対し、井坂はついに琉兵衛=テラー・ドーパントを倒してメモリを奪う意を明らかにした。そして琉兵衛を超えるとも。
 「そこまで言うからには覚悟は出来ているんだろうな?」と問いかけた琉兵衛は冴子の様子がおかしいことに気付いた。長女まで自分に対峙しているのである。
 「お父様。私もずっとこの時を待っていました。もうあなたの時代は終わったのよ!」と叫ぶ冴子=タブー・ドーパントに、「ほう、お前に撃てるのか?この父を!」と構えた琉兵衛に、一瞬の躊躇こそ見せた冴子だったが、すぐにかぶりを振って破壊弾を撃ち込んだ。もはや2人は完全に園咲琉兵衛=テラー・ドーパントに反旗を翻したのだった。
 勿論この程度の攻撃でテラー・ドーパントにはカスリ傷ひとつ負わなかったが、その隙を突いて2人はその場を逃走した。さすがにケツァルコアトルスの力を未入手状態で琉兵衛と戦うのはためらわれたと見える。
 目の前で起った一連の流れが信じられず若菜は呆然としていたが、琉兵衛は「バカな娘だ。」と一言呟いた。その表情には特段の感情は見られなかった。

 場面は替わってディガル・コーポレーション社長室。そこでは若菜が必死になって冴子に父への謝罪を勧めていた。同時に姉は井坂に騙されているのだ、とも告げた。
 若菜は、ミュージアムに尽くし、父に愛されている冴子なら謝罪すれば大丈夫と力説したが、冴子は父の自分への愛情を否定した。
 冴子曰く、「ミュージアムの歯車として奴隷のように扱い、束縛して、それでいて信頼すらしていない。」とのことだった。そして父が娘として愛しているのは若菜だけだとも。
 父に対する尋常ならざる憎悪を初めて知り、愕然とする若菜に冴子は自分に味方するのか、敵に回るのかの二者択一を迫った。
 だが普通に考えて実の姉が父に反旗を翻すと聞いて、応援出来る訳ないが、同時に憎めないのも人情。「馬鹿馬鹿しい!お姉様変よ?家族に敵とか味方とか…。」と言って回答を拒もうとした若菜だったが、味方に付かないと見たのか、冴子はタブー・ドーパントに変身して若菜を攻撃した!
 クレイドール・ドーパントに変身せず、抵抗しないにも関わらず、絶体絶命の窮地に追いやられた若菜。だがそんな彼女を救ったのはミック=スミロドン・ドーパントだった。かくして、冴子は琉兵衛のみならず、若菜、ミックとも訣別し、頼るは井坂のみとなった。


 場面は替わってオフロードレース場。アクセルに変身した照井はバイクによる特訓を繰り返していたが、コース周回タイムは12〜13秒台で、シュラウド曰く、「憎しみが足りない!もっと復讐の炎を燃やすのよ!」とのこと。
 そしてその頃、鳴海探偵事務所に匿われていた凪はペンダントを冒頭の現場に落としたことに気付き、これを探す為に外出し、見つけた直後に井坂と遭遇し、拉致されてしまった。凪の心の支えが照井だったことを察知した井坂は彼女の目の前で照井を血祭りにあげることでコネクタを完成させることを決意。いよいよ両者の決着は不可避状態となった。

 井坂は特訓中の照井に、凪は預かったことと、返して欲しいなら1人で来いとの連絡を入れた。
 一刻を争う照井は次のチャレンジで10秒を切ると言い、「復讐ではなく、その子を守る為に?」と問う彼女に対してもそれを肯定した。
 かくして照井は最後のトライアルを全力で駆け抜け、シュラウドはストップウォッチに表示されたタイムを見て、「9秒9…合格よ。」と告げた。
 照井は亜樹子に、「所長…左とフィリップによろしくと伝えてくれ。」と告げ、現場に急行した。悲壮な覚悟に激しく頭をひねる亜樹子は、シュラウドが無造作に投げ捨てたストップウォッチのタイムを見て驚愕した。表示されたタイムは10秒70で、照井は10秒の壁を破っていなかったのであった!
 何故偽りの結果を伝えたのか?!と詰問する亜樹子に対するシュラウドの答えは「彼は憎しみを忘れた。もう興味はない。」という見限り宣告だった。

 その頃、井坂は冴子といちゃついていた。初め冴子を「園咲琉兵衛に近づく為の道具」としか見ていなかった自分に、彼女を想う気持ちがあることを戸惑い、その旨を本人に告げていた。
 「冴子君…戻ったらドーパントではないキミの身体を見せて下さい。」……………って、おい!エロいぞ(笑)!ともあれ、そんな井坂の言を冴子は喜び傘に隠れてチューするかというところに無粋なタイミングで(笑)照井が到着した。

 囚われの凪を助けると宣言する照井に、先の大敗が丸で嘘だったかのように凪は頷いた。「いいんですかそんな約束をして?0.1%も確率がないというのに!」と嘲る井坂は凪の手に握り締められたペンダントが照井と凪、そして今は亡き照井の妹を繋いでいることを知らない。

 すべての思いをぶつけるように「今こそ…すべてを振り切るぜッ!」の叫びとともにアクセル・トライアルフォームに変身した照井は目にも止まらぬパンチの連打をウェザー・ドーパントに浴びせた。
 だが、照井が新しいメモリを手に入れたことに気付きつつも、前回アクセルを圧倒した雷雲の檻に再びアクセルを閉じ込め、まだまだ余裕を井坂はかましていた。だが、至近距離・四方八方から放たれる雷撃をアクセル・トライアルフォームはすべてウェービングスリッピング、ダッキングで回避した!
 驚く井坂を尻目にあっさりと檻を脱出した照井はトライアル・マキシマムドライブののスイッチを押そうとしたが、そこに翔太郎とともに駆け付けた亜樹子が、先のタイムが実は10秒を切っていなかったことを告げて、アクセルを止めんとした。
 だが翔太郎は確信に満ちた目と口調で、「いいや大丈夫だ亜樹子。奴ならやるさ。」と告げた。
 それを証明するかのように、一瞬の瞬きの間にウェザー・ドーパントの懐に入ったアクセルは超高速の蹴りを連打しまくった。片足を軸に、もう片足でキック連発。ペガサス流星脚とでもいうべきか?(笑)
 空中に放り投げていたメモリをバシッとキャッチしたキックの連打を終え、トライアル・マキシマムドライブが発動。マシンガンスパイクとの電子音が出たことで、連発キックが音速を超えていたというが示されていた。そしてメモリに表示されたタイムは9秒8。些か御都合主義かも知れないが、照井は決めるべきところで決めたのだった。
 「9.8秒。それがお前の絶望までのタイムだ」の台詞に続いて爆発四散するウェザー・ドーパント。勿論今回は蜃気楼ではなく、メモリブレイクによってウェザーのメモリは粉々に砕け散り、ズタボロ状態の井坂深紅郎が力なくその場に倒れた。

 遂に本懐を遂げた照井竜。ここまで彼を強くした自分への憎しみに驚愕する井坂だったが、照井はそれを否定した。
 「俺を強くしたのは憎しみなんかじゃない。」と言いながら、照井は仇である井坂に一瞥もくれず、縛られていた凪を救い出すと安堵の表情を見せ、凪も笑顔でそれに応え、彼女を守ってくれていたお守りのペンダントを元の持ち主へと返した。
 「キミを守れてよかった。」と言いながら見せる表情は初期の照井にはあり得ない笑顔だった。ようやく本当の意味で、人々を守る仮面ライダーになれた瞬間ともいえた。
 そして次の瞬間、地面に伏せていた井坂が突然体中にコネクタを浮かび上がらせて苦しみ、悶え出した。フィリップ曰く、「メモリの過剰使用のツケが回ってきた。」とのことで、これまでのメモリ使用者には見られなかった尋常ならざる苦しみを井坂は見せた。
 「こっ…これで終わったなどと思うなよ…お前達の運命も仕組まれていたんだ。あのシュラウドという女の掌でな!さ、先に地獄で待っている!」との断末魔の果てに、遂に井坂深紅郎はこの世を去った。
 最愛にして唯一の頼りだった井坂の死に呆然と崩れ落ちる冴子。その様子を遠巻きに見つめるのは誰あろうシュラウドであった。ますますその真意は混迷を極めつつある。少なくともフィリップや照井への協力ぶりは善意とは思えない。

 ラストシーンは風都野鳥園。子供達に凪を元気にした例を言われた翔太郎は自分の功績ではなく、功労者である照井を指さした。
 お姉ちゃんを救ったヒーローということで子供達の質問攻めに合う照井はいつもの台詞を口にするのだが、「俺に質問…しないでくれるかな?」で、口調も表情もいつものそれとは段違いだった(笑)。


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平成三〇(2018)年七月七日 最終更新