仮面ライダーW全話解説

第37話 来訪者X / 約束の橋

監督:諸田敏
脚本:長谷川圭一
 話は1人の依頼人が鳴海探偵事務所を訪ねてきたところから始まった。依頼内容は「10年前に別れた私の家族を探して欲しい。」という、如何にも探偵向けの依頼であった。
 初老らしき男・山城諭(中西良太)は、帽子にコートにメガネという鳴滝ルック(笑)を除けば特に怪しそうなところも見当たらないが、フィリップを見るなり、「ハッ?き、キミが何故こんな場所に?」と口にする。
 勿論聞き捨てならず、翔太郎がフィリップのことを知っているのか?と尋ねるが、山城はすぐに「人違いだったようだ。」というが、この手のパターンが本当に人違いだった試しは古今東西存在しない(笑)。

 場面は替わって園咲邸。父と自分しかいない食堂を寂しがる若菜に琉兵衛は「感傷に浸っている暇はない。」と冷たく言い放つ。ミュージアムの計画もいよいよ最終段階として、若菜に冴子の代わりに家業を取り仕切ることと、その覚悟を命じた。
 既に初仕事も待っており、支援組織・財団Xからの使者と会う予定が入っていた。

 そしてその頃、若菜の前任者であった冴子は、ミュージアムの裏切り者として追われる身となっていた。かつての兵隊だったマスカレイド・ドーパント達に追いかけ回される冴子の心中はいかばかりであろうか?
 さすがに変身せずとも雑兵に負ける冴子ではないが、足に銃撃受けて負傷しており、その逃避行はかなり苦しそうだった。しかも冴子は冴子で別の刺客が来るの予測していた。タブー・ドーパントの冴子がこれほど警戒する「あの女」とはいったい何者か?

 場面は替わって風都ホテル。妙な男と女がぶつかり合った。
 男(コン・テユ)は嫌味なほど白一色のスーツ姿でおおよそ表情という者がない。一方の女(佃井皆美)はゴスロリファッションに紫の髪。その手にはハート型キャンディケースが握られ、ケースの中にはイナゴの佃煮が充満していた。
 妙なイントネーションで「食べるー?」と聞くも、男は丁寧に断ってホテル内に入って行った。まあ食わんわな(笑)。

 場面は替わってどこぞの高架下。翔太郎はフィリップに対する反応から依頼人・山城にキナ臭さを感じ、ウォッチャマンに素性調査を依頼していた。
 ウォッチャマンは翔太郎に調査内容を伝えようと振り返ると、そこには先ほどのゴスロリ女がいた。本能的に危機を察知し、惚けようとしたが、女は容赦ない蹴りを見舞った。
 キャストを見るまで気づかなかったが、見事な蹴り技を披露するイナゴ女を演じるは佃井皆美さん。時代は後になるが、『仮面ライダー鎧武』でユグドラシルの秘書・湊耀子を演じたジャパンアクションエンタープライズ第37期生で、ポスト志穂美悦子と言われるアクション女優。納得。
 ウォッチャマンは踵にスタンガンを仕込んだ特殊な靴でKOされたが、そこへ照井が駆け付けた。そんな照井にも佃煮を食べるかを尋ねるイナゴ女。照井の戦意を感じたか、ガイアメモリを取り出し、スカートをまくりあげて太股に挿入し、ホッパー・ドーパントに変身した。
 そのすばしっこさはかなりのもので、照井はトライアルフォームで応戦しようとしたが、それを出す前に攻撃を食らいまくってしまい、例によってホッパー・ドーパントは撤収してしまった。やはりマスカーワールドでバッタに弱い役を振る訳にはいかんか(苦笑)。
 そこへ前回興味を亡くしたといいながらまたも現れて照井を「無様」と罵るシュラウド。彼女が現れたついでという訳でもないが、井坂の今際の言葉との関連を照井は尋ねたが、返って来た答えは、「あなた達の運命は戦うこと。この街に恐怖をもたらす本当の敵…ガイアメモリ流通組織ミュージアムと。」と視聴者には分かり切っていたものだった(苦笑)。

 その頃、フィリップは若菜からの緊急の呼び出しを受け、2人はついに顔を合わせていた。若菜が呼び出した要件は、姉が行方不明になり、父から自分が仕事を継ぐよう命じられ、どうすればいいか悩んでいると相談する為だった。
 「姉」という言葉に冴子から「来人」と呼ばれたときに記憶を思い出したフィリップは、「その仕事って…ガイアメモリの流通ですか?」と質問で返す。
 若菜の呼び出しによって、ついに素顔同士での対面を果たしたフィリップ。そして核心を突かれ、狼狽える若菜。
 言葉を返さない若菜に、「それじゃあ」といってフィリップが取った手段は、目の前に本人同士がいるのに、携帯で話すというもの。通話相手である若菜を「本当の若菜さん」と呼び、フィリップは彼女に「本当の自分でいて欲しい。」と告げた。
 しばし2人は互いにこうしていると心が安らぐ、という旨の見ている方が恥ずかしくなる通話を続けていたが、話は2人して家も仕事も捨てて共に風都を出るか否かに展開した。肯定口調で会話は弾むが、双方とも本気ともジョークともつかなかった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。戻ってきたフィリップは翔太郎が「やっぱりフィリップの事を知ってるんじゃないですか?」と山城を尋問するのを見て驚いた。
 山城は、翔太郎曰く「有名な脳科学者」で、世間的には「10年前に死んだことになっている。」という。しかも、当時同じような状況で7人もの科学者が失踪していると云う。もしこれが全部風都で起きたことなら、風都ってどれだけ閉鎖された自治体なのやら(苦笑)。  追い打ちをかけるように翔太郎が、山城がある組織に拉致され、強制的に研究をさせられたのだろう、と問い詰めると遂に山城はそれを認め、組織の名が「ミュージアム」でその首魁及び幹部は園咲琉兵衛を初めとする園咲家の人間全員である答えた。
 山城はどうしても家族に会いたくなって脱走してきたとのことで、勿論見つかれば命はないとの覚悟を決めての逃避行だった。
 ミュージアムを、ガイアメモリを流通させる悪の組織として認識していた翔太郎達ではあったが、実際にそこから脱走してきたという山城の話に驚きと憤りを隠せなかった。殊にフィリップは若菜も「ミュージアムの中枢」と改めて告げられ、狼狽せずにはいられなかった。果たして山城はフィリップの何を知っているのか?というところでCMへ。おい、TV局!こういうせこい引っ張り多過ぎるぞ!!

 その頃、若菜の携帯に1本の電話が入っていた。それは公衆電話からかけてきた冴子で、冴子は追われる立場になった自分をさぞ笑いものにしているのだろう、と勘繰り、しかしながら必ず父と妹に復讐することを告げて電話を切った。だが、暗殺者派遣は若菜の預かり知らないとことだった。
 訳が分からず苦悩する若菜の向こうで公衆電話を切って電話ボックスを出ようとした冴子はスミロドン・ドーパントの姿を見て、愕然とした。
 「ミック…私の処刑人はあの女ではなくお前なの?」という問いかけにスミロドン・ドーパントが答える筈もなく、冴子はタブー・ドーパントに変身してこれに応戦した。
 まさに「飼い犬」ならぬ「飼い猫」に噛まれる形になったタブー・ドーパント。琉兵衛の命は絶対なのか、スミロドン・ドーパントの攻撃に容赦はなく、手負いだったタブー・ドーパントはミックに敗れ、メモリを排出して人間体に戻ると海中に転落し、その姿を消した。
 そしてそんな一部始終を遠くから見ていた人物………誰あろう、それはあのホテルの白スーツ青年だった。

 場面は替わって園咲邸。そこで琉兵衛はイナゴ女を迎えていた。例のイナゴの佃煮を食し、「なかなか美味いね。」と宣う琉兵衛。グルメとゲテモノ食いが紙一重なのはよくある話だ(笑)。
 そこへミックが戻ってきて、琉兵衛はミュージアムが誇る2人の処刑人が揃ったことをほくそえみ、イナゴの女に任務遂行を急ぐよう促した。
 ミックが持ち帰ったメモリを見た若菜は、父がミックを差し向けて姉を処刑したことを憤ったが、琉兵衛は自分も辛いが、ミュージアムの掟(裏切り者を絶対に許さない)を優先する旨を冷厳に言い放った。同時に若菜にも覚悟を固めるようにとも。
 その場で首を縦に振ることも出来ず、若菜は父から逃げるように部屋に閉じ籠るとフィリップに電話した。しかし………。

 場面は替わって逃走中の山城博士。翔太郎から危険ゆえに事務所にいるよう言われていたのに、家族に会いたい一心を抑えきれず、外に出てしまっていた。
 だが、案の定、イナゴ女の知るところとなった。例によって佃煮を食べるか尋ねられ、必死に一度でいいから家族に会いたいと懇願するも、相手は佃煮を食べるか否かにしか反応を示さない。つまるところ、琉兵衛の言っていた彼女の仕事はこちらの始末だった。
 ホッパー・ドーパントに変身し、山城に襲い掛かったが、これにはタイミングよく駆け付けた翔太郎が割って入り、Wに変身し、バトルとなった。そう、若菜の電話にフィリップが出られなかったのもこのためだった。
 例によって、エクストリームの力敵のすべてを閲覧したWはプリズムビッカーをもってホッパー・ドーパントを追い込んだが、力では敵わないと悟った敵は山城を人質に取った。
 脅える山城はホッパー・ドーパントに「や、やめろ化物!」と叫び、それを聞いたホッパー・ドーパントは山城がミュージアムで自分を作ったこと、散々美味しい思いをしたこと、そしてフィリップの記憶消去に携わったことまで口にして抗議した。
 さすがにこれには翔太郎も、フィリップも衝撃を受けた。タイミングよく駆け付けたアクセルにバトンタッチする形で戦闘から離脱したWは変身を解除し、激昂したフィリップは山城の胸倉を掴んで揺らしながら「僕の記憶を消した…?答えろ!一体何の記憶を!?」と詰問。それに対する山城の答えは「家族の記憶を。」だった。フィリップの過去が次々と明らかになる予感を秘め、以下次週へ。


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平成三〇(2018)年七月八日 最終更新