仮面ライダーW全話解説

第38話 来訪者X / ミュージアムの名のもとに

監督:諸田敏
脚本:長谷川圭一
 ミュージアムに協力させられていた、という山城博士はかなりの食わせ物だった。否、自己中というべきか。
 ともあれ山城は園咲琉兵衛が自分の研究に必要な資金と機材をすべて用意してくれると云う魅惑的な誘いに乗ってミュージアムに協力した訳で、昭和ライダーにも時折見られたケースでもあった。余り罪悪感を抱いているようには感じられず、「研究者なら応じて当たり前」みたいな態度が見え隠れしていたのが気に食わなかったが。

 前回の続きで、自分の家族の記憶を消した山城なら家族のことを知っているのじゃないか?と山城を締め上げるフィリップだったが、山城は記憶を消しはしたが、内容は知らないと言う。
 その言をそのまま信じられた訳でもなかったが、ともあれ山城はミュージアム内部を知る重要参考人として風都署超常犯罪課にしょっぴかれた。ちなみにホッパー・ドーパントには例によって逃げられた(苦笑)。

 場面は替わって風都ホテル。そこでは琉兵衛と前回の白スーツ男=財団Xの使者・加頭順が向かい合っていた。琉兵衛によると加頭がわざわざ出向くのは珍しいことらしく、財団Xが何を心配しているのか?と問えば、加頭は財団Xとミュージアムとの間で提携したガイアメモリ生産計画に約12%の遅れが生じていることへの修正案を求めて来た。同時に無表情で「投資先はおたくだけではないのですよ園咲さん。」ともいっており、ミュージアムに匹敵する他の組織と複数のコネクションを持っているとしたら確かに恐ろしい組織である。
 どうも財団Xの方が出資者らしく、言葉遣いは丁寧でも年長の琉兵衛相手に上から目線で、慇懃無礼というに相応しい。ともあれ琉兵衛は「前任者を更迭。新任の私の最も信頼する有能な人物に全権を与える。」と回答した。加頭はそれが若菜であることを察知していた。まあ冴子を更迭し、それ以上に信頼している人物となったら若菜しか考えられないのは誰の目にも明らかだろうけれど(笑)。
 琉兵衛と加頭の会話をすぐ傍で聞き、ミュージアムのトップに据えられることが待ったなしであることを突き付けられたいていた彼女は、すがる気持ちでフィリップに連絡した。その内容は、前回冗談交じりに話した「約束」に履行を求めた。曰く、「この街から一緒に逃げましょ?どこか知らない場所であなたと2人で生きていきたいの…午後2時に風都駅で待ってるから!」とのことであった。
 ただでさえ記憶の問題で混乱中のフィリップには重大過ぎる上に急過ぎる若菜からの懇願。ともあれ返事できないまま若菜は用件だけ伝えるとすぐ電話を切ってしまった。
 戸惑うフィリップに亜樹子は若菜が「園咲家の人間」であることから、呼び出しを罠として必死に止めた。一方の翔太郎は「男の仕事の八割は決断」というおやっさんの遺訓を持ち出して「フィリップが決めること」とした(気持ちとしては止めたがっていると思われるが)。
 2人の反応を受けてフィリップの出した答は……翔太郎と亜樹子をかけがえない仲間、大切な家族、として「君達と別れるなんて有り得ない。」としつつ、「若菜さんを放っておくことも出来ない!ああああどうしよう!?」というもので、早い話、決まっておらず亜樹子のスリッパツッコミを受けた(苦笑)。
 いずれにしても若菜が指定した2時も迫っていたため、最終結論以前に一先ず風都駅には向かうことになった。

 場面は替わって風都ホテルの一室。そのベッドで冴子は目覚めた。ミック=スミロドン・ドーパントの襲撃を受け、海中に落ちた筈の彼女は加頭によって救われ、逃亡生活の疲労もあって今まで泥のように眠っていたらしい。
 状況が俄かには呑み込めなかった冴子だったが、まずはタブーのメモリがないことに気付き、加頭からドライバーも破損したことを告げられた。だが、加頭は諦める必要はないという。ただその為には自分の指示に従え、とのことだった。感情を見せないその表情がロクでもないことを企んでいるであろうと容易に想像させるが、果たして加頭及び財団Xは冴子を利用して何をしようと考えているのやら(琉兵衛とのビズネス談議に則るなら、更迭された冴子には本来用は無い筈である)。

 場面は替わって風都署超常犯罪課。そこで山城は研究者としての欲望に負け、10年前の息子の7歳の誕生日に家族を捨てたことを悔やみ、自分に今更会う資格がないのは承知しつつも、妻子に謝りたいとの気持ちを吐露していた。
 それに同情しながら聴取していた刃野刑事だったがそこにイナゴ女が現れ…………って、おい!いくら婦警に扮しているとはいえ、こんな簡単に署内に侵入されるようでいいのか?風都署よぉ!
 しかも刃さんは例の「食べるー?」の台詞に「あぁ俺イナゴの佃煮好物なんだよ。」と無警戒に近づいて回し蹴り一発でKO………。勿論イナゴ女の目的は明白なので、山城は逃亡に掛かった。それを追うイナゴ女をアクセルが食い止めんとしたが、ホッパー・ドーパントは通行人の女性を捕らえ、歩道橋下に落とし、アクセルがこれを助けに行く間に追撃を振り切ってしまった。

 やっとの思いで自宅近くに到着し、10年振りに妻・葉子(津村純子)と息子・翼(吉田伊吹)を離れた位置から確認し、感慨に耽っていた山城だったが、喜びの時間は束の間だった。
 2人に駆け寄ろうとしたその瞬間、背後から現れたイナゴ女によって電撃攻撃を食らわされ、その存在を妻子に気付かれることもなく山城は昏倒した。
 直後、アクセルが駆け付けたが、任務完了とばかりに撤収するイナゴ女。照井は倒れた山城を抱えて病院に急行し、その報はすぐ鳴海探偵事務所に届けられた。

 その頃、待ち合わせ時間の約20分前に風都駅に着いた翔太郎とフィリップ。若菜を探していたら亜樹子から、「山城博士がフィリップに伝えたい事がある。」との連絡が入り、若菜を気に掛けつつもフィリップは翔太郎とともに風都病院に向かった。

 一方、山城搬送後にホッパー・ドーパントを追撃していたアクセルは必殺ライトニングスパイクで見事この強敵を撃破していた。メモリブレイクされたイナゴ女に手錠をかけようとしたところ、イナゴ女は往生際悪く逃亡を図った。
 だが、次の瞬間、イナゴ女は突然現れたスミロドン・ドーパントに斬殺された。照井が直後に口にしたように口封じであろう。

 今回場面はころころ変わって、今度は風都病院。息絶え絶えでいつ引き取ってもおかしくない山城はフィリップにこれまでの自分の身勝手を謝罪し、フィリップの真の名・「園咲来人」と、フィリップの真の続柄・「園咲琉兵衛の実の息子」を伝えると、力尽きた。
 自分の素性を知り、若菜との関係を知り、自分がどうして若菜と一緒にいるとあれほどの安らぎを覚えるのかを完全に理解したフィリップ。その彼から迷いは消えた。
 フィリップは「若菜さんと一緒に風都を出る。」と告げた。苦しんむ姉を傍で支えるのは「家族」である自分の責務と考えことも話し、その決断に翔太郎も亜樹子も異を唱えなかった。

 翔太郎と亜樹子に別れを告げ、1人駅へと向かったフィリップ。しかし時間は午後2時を過ぎていた。若菜は待ってくれていたのだが、残念ながらフィリップより早くテラー・ドーパントの方が現れてしまった。笑いながら「さあ戻るぞ若菜。」というや、戸惑う若菜を例の泥沼を広げる技でとらえてミュージアムに連れ帰ってしまった。

 ミュージアムにて琉兵衛は若菜に「もう我儘は許されんぞ若菜。この星の運命がお前の双肩にかかっているのだからな。」と言い放った。この星の運命という単語の意味を図りかねる若菜に、琉兵衛は「お前こそがミュージアムそのもの。」と告げた。うーんスケールが急速に大きくなり過ぎて、琉兵衛の真意がピンと来ん(苦笑)。

 場面は替わって風都駅。約束の時間をかなりオーバーして到着したフィリップは携帯で若菜に呼びかけた。「後ろよ。来人。」の台詞に二重に驚愕したフィリップ。1つは若菜がすぐ側にいたことに。もう1つはそう、自分のことを「来人」と呼んだことに……。
 黒一色の服装に身を買たため、ディガル・コーポレーション社長時の冴子並の冷たい目で「死んだとばかり思っていた私の弟。」と呼び、既にフィリップの素性を知ったことを示していた。
 異様な雰囲気に戸惑いつつも、ようやく互いが互いを家族と知り、安らぎの意味を知ったことを告げるフィリップだったが、若菜は「私達は園咲家に生まれた家族。」と口にするや、ミュージアムの為に弟の命を寄越せと言ってきた!
 駅構内という衆人環視下にもかかわらず、若菜はクレイドール・ドーパントに変身し、フィリップに破壊弾を撃ちまくった。堪らずフィリップは翔太郎に連絡し、Wファングジョーカーに変身した。既に若菜と旅立ったと思っていたフィリップから連絡が来るわ、意識が一体化すると風都駅の惨状を目の当たりにするわ、でどういうことか?とう翔太郎だったが、一番戸惑っていたのはフィリップだった。
 「教えてくれ!何があったって言うんだ!?」と問いかけるも、クレイドール・ドーパントは「自分の使命を知っただけよ。来人、あなたも自分の使命を思い出しなさい!」と完全にミュージアムの首魁と化した言葉を並べるだけの姉になっていた。
 その、家族としてはあまりにも冷たい返答に、彼女が立ち去った後フィリップは地面を叩いて絶叫するのだった。

 ラストシーンの鳴海探偵事務所で、幾分か落ち着きを取り戻しつつも、やはりどこか心中穏やかならざる風なフィリップ。亜樹子は事務所のホームページ(←翔太郎曰く、「全くハードボイルドじゃねぇ!」)にアップする3人の写真を撮影したりして、何とか日常の雰囲気を取り戻そうとしていたが、果たして今後どうなるのか?というところで以下次週へ。


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新