仮面ライダーW全話解説

第42話 Jの迷宮 / ダイヤモンドは傷ついて

監督:石田秀範
脚本:長谷川圭一
 戦闘は尚も続いていた。「もうすぐ最後の仕上げ。それですべて終わる。」と高らかに宣言したジュエル・ドーパントはWエクストリームの攻撃をも全く受け付けないばかりか、その攻撃を反射してアクセルとRナスカ・ドーパントまでまとめて吹っ飛ばすと、例によってトドメを刺すこともなく無意味に立ち去った。

 場面は替わって風都署の留置所。そこで翔太郎は泪の難儀な性格を聞かされた。
 回想シーンで、高校生だった頃の泪・上杉・智の3人組は、土手に沢山並べられた小学生達の手作り風車がすべて壊されるという酷い事件で刃野巡査と対峙していた。
 刃野巡査に「まさか俺達を疑ってるんですか?」と、刑事ドラマでは「私がやりました。」に等しい台詞を吐く上杉(笑)に、「そうは言ってねえけどよ。ここら辺で暴れ回るのはお前等くらいだろう。」と刃野巡査が言えば、泪は自分の仕業だとゲロした。
 驚いて、「おめえこの街が好きだって言ってたじゃねえか!?」と問い詰めた際に泪が口にしたのが、「好きだよ。でもアタシ…好きになれば好きになるほど壊したくなってしまう。」という例の台詞だった。
 何とも救い難く厄介な性格だが、確かにそうなると刃野刑事が危惧したように上杉が危ない。相変わらず刃野刑事を頑迷に疑い、面会時間が過ぎたから早く帰れというマッキーに促されて留置場を出る翔太郎達と入れ替わりに女医が入って来た…………って、パターン的にどう考えても泪本人だろっ!
 刃野刑事は勿論それが泪本人であることに気付いた。同時に恐怖心も込み上げてきた。自分を罠にハメた張本人、しかも人間をダイヤに変えるドーパントがやって来たとなると、身の危険を感じて当然だろう。
 「そ、そうか分かったぞ。上杉を殺る前に俺をダイヤに変えようってんだな?誰か助けてくれーっ!」と叫ぶ刃野刑事だったが、意外にも泪は「刃野……。」と悲しげに呟いただけでトボトボと立ち去ろうとした。
 そこへ刃野刑事の叫びを聞いた翔太郎達が戻って来た。「おい待てテメエ!何でここにいる?また刃さんの命を狙いに来たのか?」と問う翔太郎に、泪は「…あんなマヌケで騙され易い男…ダイヤにする価値もないわ!」と答えた。
 それに対して翔太郎は、「刃さんは騙され易いんじゃねえ。騙され上手なんだ!今まで散々刃さんに世話になってきて…そんな事も解らねえのか。好きなモノを壊す?させるかよ。俺が必ず守る!刃さんも上杉さんも!」と亜樹子に言った台詞を交えながら泪を激しく糾弾。
 だが泪は怒りを爆発させただけだった。「黙れ…黙れ黙れ!お前だって刃野と一緒だ!私にコロッと騙されてるクセに!偉そうな事言うな!」と叫ぶ泪だが、翔太郎が一体、泪に何を騙されたのか?騙していたとして、それを口する必要はあるのだろうか?
 様々な謎を孕む台詞だったが、ここから歯車は噛み合いだすのだった。

 言うだけ言った泪はジュエル・ドーパントになって攻撃するでもなくそのまま逃走し、その夜上杉が事務所を訪ねてきた。上杉が言うには、「風見埠頭で会いたい。」と泪本人から連絡を受けたとのことで、何とか泪を説得したいから翔太郎達に一緒に来て欲しいと言う。危険を承知で泪を救いたいという上杉の懇願を翔太郎が断る筈もなかった。
 亜樹子は依頼人を危険に晒す事を反対したが、暫しの沈黙の後に承諾した翔太郎には真相が見えているようだった。

 一方、フィリップは頭を悩ませていた。若菜が地球の本棚でのシンクロ率が自分を上回り、そこでクレイドール・ドーパントへの変身も可能にしている。そのため、ジュエル・ドーパントの弱点を絞り込めているのに、下手に地球の本棚に入ることも出来ずにいた。
 「うーん。こっちも変身できればなんとかなるかもしれないけど…フィリップ君は翔太郎君と半分こだから変身出来ないんだよね。」と呟く亜樹子だったが、例によってこの呟きが重大なヒントとなった(笑)。

 翌日、風都埠頭で泪と対峙した上杉は、「周囲に爆弾が張り巡らされている!」とする周囲の制止も聞かず泪に近づき、大爆発に巻き込まれた!
 ところが翔太郎の叫び声でスイッチのタイミングを誤ってしまったのか、爆発は上杉をかすめただけで、それに巻き込まれたのは泪本人だった……。事態の急展開に愕然とし、炎の燃え盛る瓦礫の中に呆然と座り込み、木っ端微塵に吹き飛んだであろう泪に謝罪しながら涙を流す上杉。
 かくして事件は真犯人の間抜けな自爆という結末で幕を閉じ…………なんてことは勿論なかった(笑)。
 事務所で事件の報告書をタイプライティングしているように見えた翔太郎だったが、「まだ報告書の最後の1ページを書いてない…さて、そろそろ行こうか。」と怪訝な顔をする亜樹子を伴って事務所を出た。
 こういう展開になると消去法的に真犯人が分かってしまうのがこの『仮面ライダーW』のワンパタなところであり、面白いところでもある。

 場面は風都から出港するフェリーの甲板。翔太郎は上杉に、彼がドーパントだろう、と直球質問をぶつけた。背後から思わぬ言葉をかけられた上杉は仰天したが、勿論認めない。
 だが翔太郎には分かっていた。泪の爆死はトリックで、翔太郎達が見たのは鏡=正確にはダイヤの微粒子で作り出されたスクリーン状のシールドに映った城島泪の姿だった、とのことだった。
 だがこれだけでは泪の行動に説明がつかず、上杉も「何故僕の命令を聞いてそんな事をするんです?」と問い返した。それに対する翔太郎の台詞は「お前に脅されていたからだろ?そこは本人が説明してくれるさ」というもの。そう、泪は生きていた。
 階段を登って城島泪が現れ、彼女の姿を見てシラを切ることを諦めた上杉はそれまでの好青年の仮面が見る見る内に剥がれ出した。
 かくして仮面を脱ぎ捨てた上杉は傲慢で高圧的な口調で真相をベラベラと喋り始めた。つまるところ、ジュエル・ドーパントの力を得た上杉はその能力で泪を脅し、彼が女性達を宝石に変える度、泪は必ず誰かに自分の姿を目撃されるようにしたし、悪女も演じてきた。泪さんが悪女を演じれば演じるほど、上杉の偽りの誠実さが際立つという計算だった。
 更に泪は、「智を返して上杉・・・・こいつが智を宝石に変えたのよ!親友だったのに!私達のこと祝福してくれると思ったのに!」と叫んだ。つまりは、上杉が刃野刑事の前で話した三角関係も嘘っぱちで、彼女が愛していたのは智の方で、その智は嫉妬に狂った上杉によってダイヤにされ、これを人質とすることで上杉は泪に犯人として疑われる行動を強要していたのが真相だった。
 度腐れ外道の上杉は、自惚れも強いようで、かつて子供達の風車を壊した自分の罪を被ってくれた泪に「キミは僕の事が好きだったんだろう?」とほざく。それに対して、彼を仲間として好きだった泪も、「でもだんだん怖くなってきた…好きなものを壊したくなる、アンタのその歪んだ性格が!」と叫ぶのだった。そう、あの厄介な性格は泪ではなく、上杉のものだった。
 そしてその厄介な性格は上杉の自称・完璧主義に依存するものだったことが明かされた。」上杉曰く、「好きになればなるほど次第にその欠点が気になってしまう。」とのことで、その歪んだ考えは泪に対しても例外ではなかった。そして最早泪が我が意に従わないと見ると、ダイヤに変えた智も用済みとして海中に投じてしまった!
 だが、ダイヤの海中投棄はトライアルフォームを駆使したアクセルがタイミングよく阻止した。前日の爆発から泪を救出したのも照井だった。スピード命のアクセルの面目躍如で、「お前の友人の命を助けるのはこれで2度目だ。上杉誠」と決める照井。
 かくして追い込まれた上杉はジュエル・ドーパントに変身し、ラストバトルとなった。2度の対戦で手も足も出なかったことから勝負になるのかが懸念されたが、実はこの時のWは地球の本棚によるジュエル・ドーパントの弱点検索を既に済ませていたのだった。

 場面は替わって回想シーンにおける地球の本棚。どこにいてもフィリップが地球の本棚にアクセスするとそれを察知出来る若菜は案の定、フィリップを拉致しにやって来た。
 フィリップは観念したように見せかけて、拉致される前に目当ての本を閲覧させて欲しいと申し出た。そんなフィリップをからかうように、当該ページを開いて意地悪く笑う若菜。だが、これこそがフィリップの狙っていたものだった。
 突如フィリップは猛ダッシュを敢行。驚いた若菜はクレイドールXになって火炎弾を発射したが、それはフィリップの体をすり抜けて被弾しなかった。
 シンクロ率でフィリップを上回るのになぜか?と狼狽え考え込む若菜に、本の前に立ったフィリップは逆転の発想を話した。「今日は僕のシンクロ率が姉さんの半分以下なの。」と語るフィリップ。つまりシンクロ率が極端に低いフィリップは若菜が初めて地球の本棚にアクセスした時のように実体なき存在となっていた。それゆえ互いに触れることが出来ない………そしてフィリップの目的は検索だけなので、自分で本を手に出来なくても、若菜がページを開いてくれていれば支障はなかったのである。
 これは面白い発想だった。かくしてジュエル・ドーパントの閲覧を終えた謎を明かし、回想シーンは終了した。

 フィリップが掴んだジュエル・ドーパントの弱点は「長所は短所」というもので、曰く、「奴は分子結合を操作することでこの地球上で最も硬い身体を手に入れた。でも鉱石には、割れ易いある一点のポイント”石目”が存在する。そこを正確に攻撃できればジュエルの身体も砕け散る!」というものだった。
 つまりは鉱物学でいう劈開性で、男塾マニアでもあるシルバータイタンに言わせると、ブルッツフォンポイントを核砕孔で突けばいいという訳だ(笑)。

 かくしてラストバトルではあっさり敗北を喫したジュエル・ドーパントこと上杉。恨めしそうな目で泪が刃野刑事を庇いさえしなければ……との負け惜しみを口にする。
 それに対する泪の答えは、「あの人だけは傷つけたくなかった。いつもどんな嘘にも簡単に騙されて…バカな人。でもそんな簡単に騙されるアイツに付き合わなきゃならない気がして、2度と喧嘩しなくなった。だからあの人は…私の恩人!」という、翔太郎の刃野刑事に対する想いと全く同じものだった。
 ここまで聞いてまだ分からないのか、自らが「マヌケで騙され易い。」と見下していた刑事の為に…完璧と思い込んでいた計画が壊れたことをまだ上杉は納得出来ずにいた。
 とどめを刺すように翔太郎は「刃さんは騙され易いんじゃねえ。騙され上手なんだ。」と告げた。
 この翔太郎の台詞にとどめを刺されてうめき声をあげた上杉はメモリブレイク。例によって、ダイヤにされた人達も元に戻り、智と泪はしっかりと抱き合うのだった。

 翔太郎の推察力、フィリップの逆転発想、照井のスピードを利した裏方での活躍、上杉の命令を無視してまで刃野刑事を庇った泪、そのすべてによって事件は解決した。勿論大いなる背景として、翔太郎と泪の脳裏には刃野幹夫という、他の誰にも出来ないお人好し過ぎる人柄で、知らず知らずの内に相手を巻き込んでしまうという独特の隠れたカリスマを持つ大人物がいた。
 行動は少なくても、間違いなくこの人物が第41話と第42話の根幹をなした主役と言えよう。

 ラストシーンは風都署。勿論刃野刑事の容疑は晴れ、マッキーは予想通り掌を返して媚び諂っていた。「うるせー!調子いいいんだよコノヤローが!」と言いながらマッキーを小突く刃野刑事。まあこの程度で済んでいるのだからマッキーはラッキーである。
「俺はもう今回で懲りた。もう騙されねえぞ。」と豪語する刃野刑事だったが、「あっ!雪男!」という小学生レベルのウソにやはり「えっ!?どこどこ!?」と走り出す刃野刑事だった。やはりこの人には疑り深い人になって欲しくないよね(笑)。


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新