仮面ライダーW全話解説

第44話 Oの連鎖 / シュラウドの告白

監督:坂本浩一
脚本:長谷川圭一
 シュラウドが間接的に家族を殺したのかも知れない、と知って苦悩する照井に追い打ちをかけるように、冴子は井坂倒して尚、照井の復讐は終わっていない、と告げた。

 憤懣やる方ない照井だったが、まずはシュラウドに直接会って問い質してみることとなった。まず照井が問い質したのは、彼女がアクセルのドライバーとメモリを渡したのが何故自分だったのか?という問いだった。
 その答えは照井の特異体質とのことだった。前回の繰り返しになるが、オールド・ドーパントの攻撃が効かなかった様に、照井は精神干渉タイプの攻撃に耐性があり、同じ種類の攻撃を行うテラーの攻撃にも耐えられるという意味で白羽の矢が立ったとのことだった。
 続く、「井坂にウェザーのメモリを渡したというのは本当か?」という質問に対しては、かなり気まずそうにしながらもこれを肯定した。そしてこの肯定を受けて照井は怒り心頭となった。勿論アクセルに変身して攻撃を仕掛けたのだが、この間、「よくも今まで騙してくれたな。よくも俺の家族の命を!」「あの母娘も左とドーパントをぶつける為の餌だったのか?俺達はお前の道具じゃない!」と怒り台詞のオンパレード。
 それに対してシュラウドは照井を煽りまくった。自分を殺せば照井は完全な憎しみの化身となる、として目的の為には自らの命を顧みない姿勢を見せた。だが、この姿勢が返って照井に疑念を抱かせ、顔面に回し蹴りは寸止めされた。
 尚もシュラウドは「私を殺して憎悪の化身となれ!」とけしかけたが、ここで第三者が介入した。その第三者とは若菜であった。狙いは自らの手によるシュラウド抹殺である。
 驚いて、その名を口にするシュラウドに、若菜は「気安く呼ばないで!ミュージアムを裏切り、私達家族を捨てたクセに!」と怒鳴りつける。さすがにこの台詞の意味するところに照井も驚愕。どういうことか、と問えば、若菜は「この女の本名は園咲文音。私と来人の実の母親よ。」と答えた。
 ある程度予測出来ていてもやはり驚きの展開を受け、シュラウドこと園咲文音は照井にまた来い、と言って去り、久々の舌打ちと見せた若菜は照井に「お前が殺るというのならそれでもいいわ。必ず仕留めなさい。」と言い放って去った。どうやら必ずしも自分手で始末したい訳でもないらしい。
 1人その場に取り残された照井はしばらく呆然としていたが、シュラウドが立っていた場所に咲いていた白い花に気付いた。そしてその花は前回、照井が家族の墓参りに行った際に、何者かが照井家の墓に手向けていたものと同じものだった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。そこに老婆のままでいたみゆがもう1人の老婆(上月左知子)を伴ってやって来た。その人物が誰中を尋ねると、返ってきた答えは「…久美ちゃん。」
 説明するまでもないと思うが、良枝が自分の娘・みゆを老婆にされた報復に、今度は自分が相馬を雇って久美を老婆にしたのであった!
 良枝が光子を恨む気持ちはよく分かるが、その報復を女児に向けたのは許せない!しかも自分の娘をひどい目に合わせた怪人物を自分も利用するとは、さすがにシルバータイタンも呆れた
 泣きながら「うちのママ。久美ちゃんのママ絶対許さないって言ってたから。」と告げるみゆと、それを聞いて同じように滂沱に暮れる久美……。やはり復讐心を肯定して尚、えげつな過ぎる……最悪、報復するにしてもそれは光子に対してするべきだろう。
 光子に「ざま見ろ」と言えても、寄り添って泣く2人の老婆の姿をした女児に辛さを感じないよう者には人の血は通っていないだろう。
 老人・翔太郎は寄り添って泣く2人の老婆の肩を優しく抱き締めると、静かな怒りの眼差しを虚空に向けるのだった。

 場面は替わって児童劇団の本部。案の定、そこでは良枝と光子が醜い取っ組み合いを繰り広げていた。比較の上では依頼人であり、先にひどい目に遭わされた後藤母娘に味方したくもなるが、泣く老婆を思い起こせばやはりここは両成敗がしかるべきであろう。
 照井は2人の母に「いい加減にしろ!自分達が何をしているか解っているのか?」と怒鳴りつけた。
 狼狽えながら「わ、私はただ娘のために…!」と弁明する良枝だったが、照井はこれを遮って否定して曰く、「違う。アンタは自分の憎しみをぶつけただけだ。見ろ!子供達が泣いている。アンタらは愚かだ!」
 母親の醜態に泣きじゃくる娘を前にして、更に照井から「愚か者」と一喝され、2人の母親はすっかり意気消沈した………。するとそこにこの2人に意外な助け舟が出された。その主は劇団長の大倉の爺さん。
 大倉団長は照井の前に立って2人の母親の「愚かな」行動を庇って、「許してやってください刑事さん。親の子への愛は理屈じゃないんですよ。どうしようもなく”愛”なんですどうか許してやって下さい。」と2人に代わって謝罪した。確かに愛が事の善悪を歪めることはある、決して正しいことではないのだが……。
 団長の含蓄ある言葉に照井はそれ以上強く出られず、我が身を振り返り、2人の母親はようやく心から反省し、老婆になった愛娘を抱きしめて4人ですすり泣くのだった。
 余談だが、この深みのある好々爺を演じた樋浦勉氏は、園咲琉兵衛役の寺田農氏とともに『ウルトラマン』でトラックに乗っていて、ガマクジラに襲われた過去を持つ(笑)。

 事態の沈静化を見届け、この言葉を深く胸に刻んだ照井はある重大な決意と共に再びシュラウドの元を訪れた。
 「私を倒し、究極のWになる覚悟は出来た?」と問うシュラウドにWにはならない、と返す照井。では何しに?というシュラウドに照井が告げたのは、「あなたを、許しに。」という台詞だった。
 意外極まりない照井の言葉に、「まだそんな戯言を!テラーの力は恐怖そのもの!勝てるのはそれを上回る憎しみだけだ!」と狼狽えるシュラウドは、テラーの「恐怖」に抗し得るのは憎しみの力のみ、と頑なになっていた。こうなると、『聖闘士星矢』に出て来たデスクィーン島の一輝の師匠やな(笑)。
 だが照井はそんなシュラウドの言葉に首を横に振り、怒りの色を全く浮かべず、優しい口調で、「あなたは自分の復讐の為に多くの人間を巻き込み、傷つけた。あなたをそこまで駆り立てたもの・・・あなたを復讐鬼に変えたもの、それはだ。」と告げた。
 その一言にシュラウドは絶句した。よもや「愛」などという言葉が自分と誰かの会話で出てくるとは予想だにしていなかったのだろう。だが、彼女は照井が指摘したように「愛」を忘れた人間ではなかった。そしてついに彼女は経緯を語り出した。
 「…そうよ…私は来人を愛していた。あの時まで私達家族は幸せだった…。」切り出したシュラウド=園咲文音が語り出した過去は、ある時から琉兵衛が来人=フィリップを道具として扱い、息子を奪われた彼女は息子とともにミュージアムに復讐すること誓ったというものだった。
 語る内に、愛に裏打ちされた怨みが込み上げたものか、「そして私は利用した!お前の家族の死を!その憎しみを!私の来人を取り戻す為に!」と叫ぶのだが、その叫びは自らを責めているようでもあった。
 そしてその時、背後にもう1人の人物がいた。真相を知り、言葉を失って立ち尽くすフィリップだった。
 シュラウド=文音=母の、ミュージアムへの復讐心も大きければ、自分への愛情も大きいと知り、何と言っていいのかわからず、ただ沈黙を続けるだけのフィリップの代わるように照井が告げた。
 「見ていろシュラウド。これからオールド・ドーパントを倒し証明してやる。闇の力に打ち勝つのが憎しみなんかじゃないということを…俺達3人で。」と。勿論その3人が誰なのかをここに書く必要はないだろう。

 その時、翔太郎と亜樹子は相馬と対峙し、どこぞのご老公の様に杖を突き付け、「ようやく見つけたぞい。さあ、お前の罪を数えるんじゃ!」と啖呵を切っていた。
 さすがに勝負にならないかと思われたが、まずはフィリップと照井がすぐに駆け付けた。
 「見ていろシュラウド!俺達に憎しみの力など必要ない!」と叫ぶ照井はすぐにアクセルに。そして戦いを見守るシュラウドに向かって、「俺はWではなく…仮面ライダーアクセルだ!」と叫んだ。

 結局、「絶望がお前のゴールだ」の台詞とともにエンジンブレードがオールド・ドーパントをメモリブレイクさせ、翔太郎を初め、犠牲者達は若さを取り戻した。うん、相馬は出所後に契約不履行で、金を返さないとな(笑)。
 一連の流れを見て、考えを改めたシュラウドに照井は1つの質問を投げかけた。家族の墓に毎年白い花を手向けていたのは彼女なのか?と。また、彼女が井坂にメモリを渡しつつも、照井の家族を殺すことまでは考えてはいなかったのではないか?とも。
 そしてシュラウドはその問いを2つとも肯定した。シュラウドは井坂のテラーを倒したいという願望を知ってメモリを与えたのだったが、井坂はシュラウドの予想を超える化け物になってしまい、結果、照井の家族や、多くの人命が失われたという一連の流れを告白し、力なく謝罪した。
 そんなシュラウドの肩をポンと叩き、照井竜は笑顔で言った。「あなたはもう誰も傷つけなくていい。園咲琉兵衛は俺達が倒す。仮面ライダーとして。」と。そういわれたシュラウドは、「わかった…私はもう…何もしない…。」と宣言した。
 シュラウドも憎しみを捨てることで救われただろうけれど、照井もまた登場時の刺々しさを失せさせ、仮面ライダーに相応しい笑顔を湛えていた。勿論、4人の母娘も和解し、劇団長は全員を温かく迎え直していた。
 フィリップは去りゆくシュラウドを追いかけるかどうか少し迷ったが、翔太郎に促されると全力ダッシュでこれを追いかけた。だが、「母さん!」と叫びながらフィリップが曲がり角を曲がった時には既に彼女の姿はなかった。

 ラストシーンは風都ホテル。前回加頭が用意していたアタッシュケースを受け取った財団Xの部下らしき男が「AtoZ、26本確かに。必ず財団本部へ届けます。」と加頭に告げて去って行った。
 それを見ていた冴子は、加頭に「父への反逆行為。」と指摘。今の冴子には関係ない、と答えた加頭はシュラウドが復讐劇から降りたことも告げた。だが、冴子に言わせるとまだ利用すべき玉は有るらしい。
 ともに一癖も二癖もある冴子と財団X。果たして彼らはどう動くのか?


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新