仮面ライダーW全話解説

第46話 Kが求めたもの / 最後の晩餐

監督:諸田敏
脚本:三条陸
 話は前回の謎解きから始まる。否、謎解きとは適切な表現ではない。真相の暴露だな(苦笑)。12年前に園咲来人が死んでいるという事実があり、それに対し、現在存在しているフィリップのことを若菜は「ただのデータの塊よ。人類の未来を変える為に必要な、ね。」と告げた。冴子が以前フィリップを「モノ」と言ったのはそういうことか……。
 生者として認められていない境遇を振り切るように翔太郎に変身を呼びかけるフィリップだったが、翔太郎の恐慌はますますひどくなり、とても能動的に動ける状態になかった。
 何とか翔太郎が僅かに残っていた勇気を振り絞ってWに変身し、テラー・ドーパントに特進するも、「キミはもう終わりだよ。一生恐怖の中で生きたまえ。」という台詞通りなのか、例のドロドロ攻撃の前に敢え無く返り討ちに遭い、変身も解除された。
 かくしてフィリップは琉兵衛と若菜に連れ去られ、照井もまたテラー・ドラゴンに食い付かれていたのを上空から投げ落とされ、ズタボロに。そして現場にはズタボロに傷ついた照井と恐怖に震える翔太郎だけが残されるのだった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。そこへ相変わらずの嫌味を垂れながら真倉刑事が入って来た。本当、この人翔太郎をどう思っているのかさっぱり分からない。
 だが、さしものマッキーも翔太郎の様子に異変を感じずにはいられなかった。翔太郎の恐慌状態は五感で感じるすべてに及んでいるかのような有様で、当然真倉刑事に対しても同様だった。
 頭からタオルを被って亜樹子との会話すらままならない。真倉刑事は夏祭りの帰りに浮かれて刃野刑事とともに立ち寄った訳だが、最初からかい半分だった2人も心配せずにはいられない………………って、その後ろにて重傷負って寝込んでいる上司・照井は無視かい!両刑事!
 ともあれ、フィリップは拉致され、翔太郎は精神をやられて戦闘不能、照井は全身ボロボロで戦闘不能と絶望的状況の鳴海探偵事務所。そんな中、事態はイーヴィルテイルを持ち出してしまった自分の責任だと感じた響子は単身イーヴィルテイルを奪還すべく園咲邸へと侵入を試みた。

 場面は替わって園咲邸。豪華なベッドで意識を取り戻したフィリップが食堂に入ると、そこには琉兵衛と若菜、琉兵衛の手料理、更には家を出た筈の冴子とシュラウド=文音までいた!
 にこやかに2人に招待状を送ったと説明する琉兵衛。しかしどんな招待か分からないが、よくこの2人が応じたものである。
 ともあれ、12年振りに園咲ファミリーは全員集合した。琉兵衛は「みんな覚えているかな?家族全員で発掘をしていたあの懐かしい日々を。」と嬉しげに切り出すが、笑っているのは琉兵衛ただ1人である。まあシュラウドの表情は分からんが(苦笑)。
 その時、フィリップの脳裏には家族全員が心から幸せで笑い合っていた日々が蘇り、その中で夕食後に華麗なダンスを舞う両親と、それを楽しげに見つめる子供たちの姿があった。ちなみにこの回想シーンでも文音は後ろ姿しか見せず(苦笑)、その素顔は最後の最後まで明かされなかった。
 居た堪れなくなったフィリップは、「みんな!今までの経緯はどうあれこうして家族がまた一緒になれたんだ。これを機会に争いはもう止めるべきだ!」と思い切った提案をしたが、まず冴子が一笑に付した。
 「ハッ!家族?笑わせないで来人。死人は黙ってなさい。こんな呪われた家族が今更仲直りなんて出来るものですか。」とこれまでの彼女の言動と比べても辛辣極まりない台詞を吐いた。
 そしてそれを茶化すように「うふふふ…そう言うお姉様だって園咲家にとっては死人も同然じゃなくて?」とえげつない一言の若菜。勿論冴子は激昂。フィリップは2人を止めようとしたが、琉兵衛は若菜を擁護して、そもそもこの会食自体が冴子と文音に若菜に対する懺悔をさせる為に設けられた席だと告げた。
 勿論そんな風に言われた冴子の怒りは頂点に達した。Rナスカ・ドーパントに変身し、若菜もクレイドール・ドーパントに変身し、いつか同じ場で行われた時よりも壮絶な姉妹喧嘩に突入した。
 だが前回とは逆に今度は姉の方がボコボコにされた。「私には勝てないわ。ここで悔い改める?お姉様」(若菜)、「死んでも御免よ」(冴子)、「そう。なら死ぬのね。」(若菜)という辛辣なやり取りの果て、遂にとどめとも言える一撃を受け、派手にぶっ飛ばされた冴子はナスカメモリを破壊され、再び戦闘手段を失った。
 為す術なく屋敷から逃走する冴子を見てとせせら笑う若菜。「なら死ぬのね。」と言っておきながら追わないのは余裕か?
 同時にシュラウドも会食を辞そうとしていた(居続けたとして、あの顔面包帯ぐるぐる巻き状態でどうやって食べれば良かったのだろうか?)。
 フィリップが「待って母さん!家族を放って行くんですか?」と問うたのに対し、彼女は息子の顔を愛おしそうに撫でながら、「来人、今のあなたの家族は園咲じゃない。左翔太郎よ。忘れないで…切り札は左翔太郎…!」と告げた。これまでさんざん否定してきた翔太郎を完全に認める台詞は、確かにフィリップを奪い返さんとして琉兵衛にまで反旗を翻した文音の心そのものと言えた。
 その会話を聞いて、翔太郎は既に再起不能と笑い飛ばす琉兵衛。だがその時、家族が様々な思いを投げあっている最中、テーブルの下から伸びる謎の腕があった。その正体は侵入していた轟響子である。彼女はいざこざに紛れ、琉兵衛達に気付かれることなく、箱の中から首尾よくイーヴィルテイルを抜き取ることに成功したのだった………。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。自分の携帯が鳴ったことにすら脅え出す翔太郎に代わって亜樹子が電話に出ると、それはフィリップからのものだった。
 辛うじて電話に出た翔太郎にフィリップが告げたのは別れの挨拶だった。曰く、「僕は今日姉さんの生贄にされて消滅するらしい。」という衝撃的な物。続けて曰く、「でも覚えておいてくれ相棒。僕は消えない! 君の心に悪魔と相乗りする勇気がある限り。」と。
 それだけ言って電話は切られた。もっともその様子はすぐ近くで若菜に見張られていたから、本当はもっと伝えたいことが有ったのかも知れない。少なくとも重要な折に出ていたと「悪魔と相乗りする勇気が」いう台詞が出た以上、ただの諦観による別れの挨拶とは思えなかった。
 そんな相棒からの重大な言葉にも身動き出来ない状態の翔太郎を亜樹子はスリッパで殴りつけながら叱咤していたところに無事イーヴィルテイルを持ち帰った響子が事務所に戻ってきた。
 感心する亜樹子だったが、響子の顔は浮かない。というのも自分の持ち帰ってきた物が重要な物とは思えなかったからであった。果たしてイーヴィルテイルの正体とは…?

 場面は替わって園咲邸地下の、ミュージアム発祥の地。そこでは遂にフィリップが若菜の生贄にされて消滅する時を迎えようとしていた。
 正確には、地球の泉のすべてを若菜に流し込む為に、データの塊であるフィリップを制御プログラムとして若菜に吸収するというものだ。かくして若菜は「生きたガイアメモリ製造機」=「地球の巫女」となるというのが琉兵衛の説明だった。
 勿論成就の暁にはフィリップは消えていることにある。自分が消えてもいいのか?と問うフィリップに琉兵衛は1度死んだ存在を救えないと答えた。霧彦を園咲家から負った時もそうだったが、歪んだ使命感に取り憑かれた悪しき存在となっていても琉兵衛には「家族」に対する想いが完全には消えていないようだ。
 そんな琉兵衛に対し、「僕はあなたを救いたい。父さん!」と告げたフィリップだったが、琉兵衛は一瞬浮上した迷いを吹っ切るように、「…2度目のさよならだ。来人!」と言って、12年前と息子が転落したのと同じ「泉」にフィリップを突き落とした。
 そしてフィリップの肉体は落下の途中で分解されデータの海に消滅してしまった……………。
 同時に若菜は来人と地球のすべてを感じながら恍惚としていた。琉兵衛も「これで念願が叶う。あと数分もすれば全てが終わる。」と御満悦だったが、そこに恐怖で震える体を亜樹子に支えられながらも、屈することなく左翔太郎が現れた。
 「ほう…大したものだ。よく私の前に立てたな左翔太郎君。」とラスボスの定番、やって来た者を褒めるシーンを展開する硫兵衛(笑)に、翔太郎が「コイツがどうしても気になってね…。」と突き付けた物を見るや、琉兵衛の表情が一変した。
 翔太郎が突き付けた物こそ、イーヴィルテイルで、琉兵衛はそれを「私の家族だ!」として大慌てで返還を迫った。
 散々引っ張るだけ引っ張ったイーヴィルテイルの正体は小さな刷毛だった。そんな何処にでも売ってそうな刷毛を「家族」とするのは柄に琉兵衛、文音、冴子、若菜、来人と、園咲家の家族5名の名が書かれていたからだった。回想シーンで琉兵衛は家族に刷毛を「父さんが外国で見つけた魔除けのお守り・悪魔の尻尾だ。これに自分の名前を書いて、家族全員で祈れば…ずっとずっと、みんな一緒だ。」と語っていた。
 狼狽える琉兵衛に翔太郎が「アンタは道を誤り家族を犠牲にしてきた…だがそうなっていく自分が恐ろしかった!だから幸せだった頃の象徴であるこの刷毛を家族とすり替え、自分の気持ちを誤魔化してきた。違うか?」と詰問すれば、亜樹子が「あなたにも…怖いものがあったのね。」と続けた。
 尚も、「フン…バカなことを。さあそれを返せ!もう来人も消え、若菜と共にある!」と支離滅裂な琉兵衛。大切な家族を犠牲する際、琉兵衛はこの刷毛に家族の思い出をすり替えることで自らの気持ちを誤魔化していた。恐怖の帝王も「家族を失う」ということは恐怖だったのである。恐れるものがあったのだ。
 狼狽する琉兵衛はフィリップの消滅を2人に伝え、翔太郎の心を更に砕こうとしたが、翔太郎は「僕は消えない!」という相棒の言葉を信じていた。「アイツが俺を相棒と呼ぶ限り、俺は折れない!約束だったよな…さあ来い相棒!」と叫んで翔太郎がジョーカーのメモリを挿すと、呼応するようにサイクロンのメモリも出現し、Wに変身した。
 驚く琉兵衛にフィリップが説明したのは、会食の際の母の一言がヒントとなった、変身システムの応用だった。早い話、フィリップの意識はメモリに移り、翔太郎に移行するというものだったが、琉兵衛にはそれ以上に恐れることがあった。つまりフィリップの意識が翔太郎に飛べば若菜のメインプログラムが喪失状態となり、儀式はバグを起こすことになる!
 実際、それは膨大なデータ転送をしていた若菜から、その制御プログラムを唐突に引きぬく行為となり、であり過負荷に耐えられなくなったクレイドールの体が火花を散らしながら昏倒した。
 「街を泣かし続けてきた諸悪の根源、園咲琉兵衛…さあ、お前の罪を数えろ!」との決め台詞とともに、ミュージアムとの最終決戦の火蓋は切って落とされた!
 加えて、「俺をシュラウドの操り人形と言ったな・・・上等だ。それで悪を砕けるなら俺はっ!人形で構わん!」と言いながらぼろぼろの体を引きずりながら照井竜が参戦。とはいえ、精神主義による無茶押しではない。テラー・ドラゴンに対抗する為、リボルキャリーを随伴し、バイクモードでハードタービュラーと合体し、アクセルタービュラーとなって高速の空中大決戦を展開した!

 アクセルとテラー・ドラゴンが凄絶な空中戦を繰り広げる一方、地上ではWエクストリームがテラー・ドーパント相手に優勢に戦いを進めていた。
 Wの気迫に気圧されているのか。テラー・ドーパントの攻撃は全く当たらず、逆にWの攻撃は次々にヒットした。そして決着………空中では炎の翼を広げるアクセルタービュラーがテラー・ドラゴンに突撃を敢行し、炎の翼を巨大な「A」の形に変化させ、大空にその字を刻んでこれを粉砕した!そして地上ではエクストリームのマキシマムドライブがジョーカーダブルエクストリームとしてテラー・ドーパントに炸裂!
 これにより、テラー・ドラゴンの巨体は園咲屋敷に墜落して大爆発。直後に吹き飛ぶ琉兵衛の体からテラーメモリがメモリブレイクされ、木っ端微塵に吹き飛んだ。
 園咲邸は炎上し、琉兵衛は満身創痍の体で燃え盛る屋敷の中に入っていった。「どうして…せっかく悪魔のメモリから家族を引き離せたのに…!」と悔やみきれないフィリップ。
 だが少なくとも琉兵衛本人に悔いはなかった。半幽体のような姿になった若菜を一瞬垣間見、娘が今こそ女王として地球の未来を託されたと確信。そしてその場にいない文音に「さあ踊ろう母さん!あの頃のように!」と呼び掛け、1人ダンスで心は12年前の家族の思い出のシーンに戻し、園咲琉兵衛は邸宅とともに燃え尽きてその人生を終えたのだった。
 そして冴子とシュラウドもまた優しかった琉兵衛と、思い出の我が家が消え去る様を呆然と眺めていた。

 ラストシーンは鳴海探偵事務所での翔太郎のタイプライティングだった。「俺達は園咲琉兵衛の最期を響子さんに伝えた。彼は怪物だったが、最後に僅かに人間の心を取り戻したと…彼女を元気付ける為の俺の勝手な憶測だが…。」と、本来報告書に勝手に加えたりしない憶測なのだが、亜樹子と照井はそれを肯定した。フィリップにとっても、琉兵衛が最後に人間に戻って死んだことが唯一の救いとなっただろう。
 これにてミュージアムは崩壊したのだが、この第46話は最終回ではなく(笑)、園咲家の焼け跡からは若菜の遺体が見つからなかった、との謎をその後の展開に引きずって物語はまだ続く。そしてその若菜は意識のない状態で加頭順に抱きかかえられた状態で話は次週へ続くのだった。


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新