仮面ライダーW全話解説

第47話 残されたU / フィリップからの依頼

監督:石田秀範
脚本:三条陸
 ついにミュージアムは壊滅した。
 鳴海探偵事務所には翔太郎お得意の「猫探しスキル」で見つけ出されたミックがいた。唯一の家族が戻ってきたことに予想以上の歓喜を示すフィリップ。もう様々な意味でスミロドン・ドーパントとなることもないことにホッとする人々は多かろう。
 だが、しばしの笑顔の後、今までにない真剣な表情でフィリップは相棒に姉・若菜を捜して、助け出して欲しいと懇願。フィリップには彼女が生きていることが分かるらしい。
 その懇願を翔太郎は快諾。だがフィリップは更に声のトーンを下げて、「どんなに辛い事が待っていたとしても、かい?」と妙に気になる念押しをした。
 それに対して、「お前のために耐えられないことなんてねーよ、相棒。」と答えた翔太郎だったが、直後のナレーションで、「これがフィリップの最初で最後の依頼だった。ずっと2人で1人のつもりだった俺達があんなことになるなんて。この時は思いもしなかったよ。なぁ、フィリップ。」と思い切り嫌な展開予測を漂わせて第47話は始まった。

 場面は替わってチャーミング・レイブンなる財団Xの隠れ工場と思しき企業。そこではネオン・ウルスランド(ガウ)という女性(地位は「局長」と後述)が加頭に、ミュージアムが財団Xの投資対象から外され、また新しい投資対象の模索が必要、と述べていた。
 だが加頭はミュージアムがまだ滅びておらず、ガイアインパクトの継続は可能。と断言。若菜の体内に融合したクレイドールメモリを蘇らせる方法が見つかればの話ではあったが。
 加頭は更に新たなトップも自分が用意するから、として投資継続を要請した。その要請に対して、次の予定があるゆえ、後刻詳細報告するよう命じて去った。どうもかなり細かいスケジュールで動いている女の様だ。

 その頃、風都サーキットを物思いに耽りながら疾走する女性ライダーがいた。その正体は園咲冴子。ここで少し私情を挟むが、やはり生井亜実さんは髪をアップにするより、ストレートに落とした方が綺麗だ(笑)。
 彼女が思考するように、妹より優れていることを自分の証明と思って様々な行動をとって来た彼女だが、そのことを認めさせるべき存在であった父はもういない。メモリも失った彼女は目的も手段も失っていた。
 そこへ翔太郎達が現れ、フィリップから若菜の居場所を問われたが、冴子は若菜も死んだと思っていたようで、その質問に自身が驚愕した。
 そして次の瞬間、若菜を連れ去った張本人・加頭が現れ、冴子に勝手にいなくなったことを軽く抗議し、迎えに来た、と告げた。見覚えある顔を訝しがる照井に、冴子は「財団Xの加頭順…ミュージアムのスポンサーよ。闇の巨大資本」とその素性を話した。
 背後にそんな輩がいたことを忌々しく思う翔太郎達に、加頭はもはや背後組織ではなく、自分が冴子さんと共にミュージアムの宿願だったガイアインパクトを継ぐと云う。
 この台詞で、若菜を連れ去ったのがこの男であることをその場の全員が認識した。そして狙いを口にしながら加頭が手にしたのは園咲の者にしか使えないゴールドメモリ。何故それを?と訝しがる冴子に加頭は「スポンサー特権」で、自分とゴールドメモリの適合率が98%であることを差して、これを「まさに運命!」とした。
 かくして加頭が変身したのはユートピア・ドーパント。その能力はその場の全員を宙に浮かせ、アクセルの反撃もすべて見えざる力によって止めてしまうものだった。
 劣勢のアクセルに加勢せんとしてWへの変身を呼びかけた翔太郎だったが、何故かフィリップは応じない。その理由は若菜救出の瞬間まで取っておかなくてはならない、とのことだったが、勿論翔太郎には解せない。ようやくフィリップが口にしたのは、「今度Wに変身したら僕の身体は消滅してしまう…この地球から…跡形もなく…。」という衝撃的なもので、それを証明するかのように、フィリップの右手は、半データ化して音を立てて空中に溶け出していた。
 結局Wに変身出来ないままアクセルはユートピアにボコボコにされ、冴子も再び加頭に拉致された。連れ去られる際に冴子はフィリップに「今頃お父様もお墓で泣いてるわ。お墓でね。」と念を押すような言い回しを残した。あの状態で琉兵衛がまともに埋葬されたとは思えないから、これは何かのヒントの様だ。

 場面は替わってチャーミング・レイブン。そこで加頭はネオンに冴子を新しいミュージアムのトップとして紹介した。勿論財団Xの目的はガイアインパクトの実行である。加頭はモリ特性のない人間を瞬時に消滅させる人類選別の儀式(←つまりこれが「ガイアインアクト」ね)を地球全体規模で行うという。
 その手段は若菜の肉体をデータ化し、財団の人工衛星にインストールするというもの。
 ネオンは上層部に投資の再開を検討してもいい、と告げ、またも忙しそうに立ち去った。
 メモリ特性のない人間を地球上から1人残らず抹殺する選民儀式を冴子は知らなかったようで、その正体に驚き、若菜が犠牲になるであろうことにも少なからず動揺していた。
 「嬉しいですか?ついにあなたがミュージアムのトップですよ。」と珍しく笑顔で1本のメモリを冴子に手渡す加頭。それは、破壊された筈のタブーメモリだった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。そこではフィリップが冴子の言葉(お墓=grave)から、製薬会社チャーミングレイブンに姉達が囚えられていると検索した。同社を英語表記した「CharmingRaven」にgrave=お墓が含まれていることが絞り込みのヒントとなった。この起点はさすがにフィリップの姉である。
 早速姉を助けに行かんとしたフィリップだが、翔太郎は事情説明が先だ!と声を荒げた。それを受けて為されたフィリップの説明は、彼の体が地球の本棚の力で奇跡的に再構成されたデータによるもので、その肉体が今、加速度的に消滅に向かっている、とのことだった。
 原因は前回の若菜と融合で地球に近づき過ぎたことにあり、次にWになればフィリップの体は完全に消え、地球の記憶の一部になってしまう、それは不可避だが、姉を助けた後なら悔いはない、というものだった。
 フィリップの覚悟は伝わったが、消えることが不可避と聞いて割り切れない翔太郎。「ふざけんな!そんなこと諦められっかよ!」と叫んだ翔太郎は、回避方法を目止めてシュラウドのいる森に駆け出した。
 だが翔太郎の、「アイツを救うことはおやっさんから託された俺の一番の仕事なんだ!」と叫ぶ悲痛な呼び出し声に応じて現れたシュラウドも、もはやフィリップを救えないと云う。
 そもそもシュラウド曰く、「鳴海荘吉に来人を救うことを依頼したのは私。」とのことで、「そしてあの子は救われた。もはや来人は復元されたデータの塊ではない。お前のおかげだ。」と翔太郎の謝意を述べるシュラウドだったが、「でも、消えちまうんだろ!?」と抗議の叫びをあげずにはいられない翔太郎だった。
 そんな翔太郎にシュラウドが告げたのは、「あの子が安心して笑って消えられるようしてあげて欲しい。それが今あの子を救うという事…頼む、左翔太郎。」という、母心溢れながらも、丸で救いのないものだった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。半ば放心状態で戻った事務所にはウォッチャマン、サンタちゃん、クイーン、エリザベス、更には刃野刑事と真倉刑事まで、風都の主要な仲間が大集合していた。聞けばフィリップの海外留学を祝うお別れパーティーとのことで、参加者たちは大いに盛り上がっていた。
 訳が分からず困惑する翔太郎に、亜樹子はこっそりと、最後の戦いを前に、消え行くフィリップに思い出をプレゼントしようと計らい、その為に偽りの理由で皆を呼んだと云うもんのだった。
 仲間達1人1人に自分が選んだプレゼントを手渡し、笑顔でお別れの言葉を告げ、「僕は…人との付き合いに興味がなかった…丸で悪魔みたいな奴だった…でも!翔太郎に連れられてこの風都に来て…今では…大好きさ。街も、みんなも!」と締め括った。
 場は更なる盛り上がりを見せるが、事情を知るものからすれば涙無しに聞けない台詞である。ただ1人憮然とした表情の翔太郎。フィリップがそんな相棒にプレゼントを手渡し、「後でいいから開けてくれ。」と告げたが、翔太郎は後ろを向いたままで、見向きもしなかった。
 送別会は夜通し続けられ、メンバーがダウンした朝方、仮面ライダー達は人知れず最後の戦いへ赴いた。

 仮面ライダーズに追随した人間は亜樹子ただ1人。照井は危険を訴えたが、「これが最後の別れかもしれないし。」と言って、あくまで同行を主張。そんな彼女に照井は「…絶対に俺の傍を離れるなよ。」と告げた。
 かくして4人はチャーミング・レイブンの工場へ突撃を敢行。湧き出るマスカレイド・ドーパントどもを蹴散らし、無事に地下室に幽閉された若菜のもとへ辿り着いた。
 その若菜は妙な計測器にかけられていた。何を計っているのか、と問うフィリップに加頭は、能力の発動数値と答えた。
 「姉さんをプログラム扱いする気か!ふざけるな!」と激昂するフィリップに加頭が返したのは「流石はデータ人間。理解が早い。」という恐ろしく的確ながらも神経逆撫で台詞。続けて「この顔がふざけているように見えますか?」と述べる加頭だが、見えるも何も表情がないから何とも言えない(苦笑)。
 加頭はユートピア・ドーパントに変身。アクセルがこれに立ち向かい、フィリップは翔太郎に今こそ最後の変身の時だと促すが、翔太郎はどうしても変身することが出来ない………。フィリップは必死に翔太郎に変身を求めるが、やはり翔太郎は動けず、この間もアクセルはボコボコにされまくり、見ている方もやきもきすることこの上なかった。
 戦闘ではユートピア・ドーパントが、「君の生きる力を奪い、私のモノとした。」という説明の能力を発動し、爆炎を放ってアクセルを吹き上げた!アクセルの変身は解除され、照井の悲鳴も、炎に包まれながら悶え苦しむ様も尋常ではなかった。
 何とか瀕死になったところで火は消えたが、戦闘続行どころか生命活動続行すら危ぶまれるような状態にある照井。それを見た翔太郎はついにフィリップの制止も聞かず、生身のままでユートピア・ドーパントに特攻した!だが当然の様に勝負にならず、いい様に痛めつけられるだけだった………。
 翔太郎に戦闘の続行をやめろと絶叫するフィリップを見て、ユートピア・ドーパントは若菜の意識がフィリップとリンクしていることに築き、若菜を目覚めさせる為、つまりはフィリップの劇場をあおるため、翔太郎を更にいたぶった。
 絶体絶命のピンチに果たしてどうなるのかを引き摺りつつ、以下次週へ。


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新