仮面ライダーX全話解説

第14話 アポロガイスト くるい虫地獄

脚本:伊上勝
監督:内田一作

※この第14話では現在では心身の障害を揶揄するものとして放送禁止用語に指定されている「気ちがい」という言葉が、作戦名に用いられていることもあって頻出します。
 放映当時は普通に使われていた言葉であり、当然当道場拙房にても精神に障害を抱える方を揶揄する意図は全くありませんが、全話解説の目的上、出て来た単語をそのまま記載させて頂くことを予め御了承頂ければ幸いです。


 冒頭はGODのアジトから始まった。青田博士(奥野匡)なる人物が連れて来られ、拘束された。青田は次いで入って来たアポロガイストに、助けを請うたがアポロガイストは何の反応も示さなかった。
 青田は、自分がGODの為に古代ギリシャの化石から絶滅したくるい虫という怪虫を復活させたことを提示して、その手柄をたてにした助命を訴えたが、アポロガイストから返ってきたのは、「GODはもう君を必要としないのだよ。」という冷淡な台詞だった。
 つまりは、悪の組織に有り勝ちな、「用済み者は処刑」を地で行くもので、アポロガイストはそのくるい虫を「発見者自らの体」で試すと宣言し、くるい虫に刺された青田は恐怖を忘れたかのような狂った笑顔を浮かべ、人間はすべて敵として、アポロガイスト達に促されるままに人間達を殺戮せんとしてアジトを飛び出した。

 直後、GOD総司令から通信が入り、アポロガイストはくるい虫蘇生の成功と、そのゴキブリ並みの繁殖力の強さを報告した。GOD総司令も、古代ギリシャの戦死が戦場での恐怖を忘れて戦い抜くためにくるい虫に自らをかませていた例を持ち出し、その復活に大いに満足し、「日本気ちがい作戦」という令和の世では確実に放送コードに引っ掛かる、地上波での放送を不可能ならしめる作戦名を付けたのだった。

 GOD総司令が唯一懸念するのはXライダーの介入だったが、それはアポロガイストも先刻承知。そう確認し合っているところに、発狂した青田がタクシー運転手を絞め殺し、奪ったタクシーで暴走しているとの報告が入った。
 くるい虫に刺された直後から「人間は敵」を口走り続けていた青田は完全に殺意の塊で、横断歩道を通行中の児童の列に突っ込もうとした。幸いこの暴挙は緑のおばさんと、偶然居合わせた神敬介の尽力で誰一人怪我することなく済んだが、当然青田を放っておく敬介ではなかった。

 この時点で青田の素性を知らない敬介は彼をただの暴走野郎と認識し、バイクで追いつくと並走して停車を命じるが、勿論青田は完全無視。それどころか車を寄せてくる有様で、敬介は車中に乗り込んで強引に停車させた。
 青田を車外に引き摺りだした段階でようやく彼が正気でないことを気付いた敬介だったが、敬介の介入を防ぐ手配は身近に迫っていた。つまり、一人の戦闘工作員がライフルで青田を狙撃してその口を封じようとしたのだったが、これはアポロガイストに止められた。青田を殺すにしても、自然死でなければGODの介在が敬介に漏れるとした訳で、青田と敬介が早々に遭遇したことは計算外にしても、さすがにアポロガイストは敬介の物の見方も、それに付随する行動も、よくよく考えていたと見えた。

 直後、「緑のおばさんの通報を受けた。」として救急車が到着し、青田は連行された。勿論この救急車はGODの手配した偽物である(『仮面ライダーV3』の第1話にも見られる黄金パターンやね(笑))。車内で正体を現した戦闘工作員は自然を装うアポロガイストの手並みに感心しつつ、青田を薬殺せんとしたが、敬介に尾行されていないかを懸念した(←戦闘工作員にしてはなかなか用心深い奴だった)。
 案の定、タイミング良過ぎる救急車の到着は敬介の疑うところで、様子を窺おうとした途端に敬介が車内に乱入してきた。こうなると青田という不審人物にGODが介在していることは隠し通せなくなった。戦闘工作員は忽ち蹴散らされ、運転していた戦闘工作員も敬介絞め上げられていた仲間を射殺すると救急車と青田を残して逃げ去った。
 だが、青田の口を封じんとの動きが止まった訳ではなく、直後にアポロガイストが現れ、「さすがだな神敬介。」と呼び掛けた。これに対して敬介は、「お前に褒められると妙な気持ちになる。なあに、これもGOD、特にお前との付き合いを始めたお陰だ。簡単に人間を信用出来なくなったんでなぁ!」と返した。
 「簡単に人間を信用出来なくなった。」……………現実に即するなら、巨大な悪の組織に対抗するのにこれぐらいの用心深さは当然と云えるのだが、個人的に、やはりヒーローに吐いて欲しくなかった台詞である。開房直後の過去作でも触れたことなんだが。

 ともあれ、両者の云い合いは続いた。
 青田を連れて行くのか?と問うアポロガイストに敬介は「当然だ!」と返す。アポロガイストは青田がGODにとって何の価値もない人間だが、それでも連れて行くのか?と問う。まあ、本気で問うた訳ではないだろうけれど、これで「じゃあ、連れて行かなくてもいいか。」という奴がいたらお目に掛かりたい(笑)。
 散々その口を封じようとした経緯から、青田がGODに何らかの手掛かりを持っていることは明らかで、何より、「みすみす殺される人間を残していけるか!」というヒーローらしい台詞に前暴言への痛みが少し軽減された(苦笑)。

 かかる平行線を経て、遂に両者は一騎打ちに挑む事となった。
 「神敬介、アポロガイストはGOD秘密警察第一室長であると同時に、GODの殺人マシーンとも云われている!死んで貰うか!」と啖呵を切ったアポロガイストはバイクに搭乗。敬介もバイクを走らせ、しばし両者は素顔でバイクに乗ったままやり合ったが、互いのバイクが衝突したのをきっかけに変身した。
 クロスさせた両腕を大きく広げ、「アポロ・チェーンジ!!」の掛け声とともに再度交差させるという変身ポーズを初披露したアポロガイストはアポロショットを放ったが、その標的はXライダーではなく、救急車だった。
 忽ち青田の体は救急車諸共炎上。謀られたことを悔しがるXライダーはライドルスティックを得物に銃と盾で応戦するアポロガイストと打ち合った。やがてXキックが放たれたが、11体もの神話怪人達を屠って来たこの必殺キックも日輪を象った盾―ガイストカッターによって弾き返されてしまった。

 弾き飛ばされたXライダーはよろめくように炎上する救急車の裏手に回ると姿を消した。直後に駆け付けた戦闘工作員達は「Xライダーの最期」とほくそ笑んだが、勿論アポロガイストはそうは取らず、一時姿を隠しただけとして、自分達は作戦遂行のために撤収した。
 云うまでもないが、Xライダーは死んでおらず、ライドルホイップをシュノーケル替わりにして土中に身を潜めていた訳だが、さすがに青田の口を封じられたこの時点ではGODが何かを企んでいるのは推測出来ても、何を企んでいるかは皆目分からず、眼前で青田を死なせてしまったことに切歯扼腕するしかなかった。

 一方、敬介に介入されそうになりながらも、青田の口を封じて作戦内容の隠蔽に成功したアポロガイストはアジト内でくるい虫の想像以上の繁殖力に満足していた(たった半日で目測20匹以上に増えていたが、現実のゴキブリでもここまで極端に早くは増えない(苦笑))。
 ともあれ、アポロガイストは一匹のくるい虫を小箱に入れると部下にそれをCOLへ持って行かせた。客を装って店内に入った部下はこっそりくるい虫を放つと勘定を置いて退店。藤兵衛がお釣りを渡そうとして店外に出ている間に、店内にいた数名の客がくるい虫に噛まれ、藤兵衛が戻った時には互いが互いを殺し合って全員が息絶えていた。恐らく藤兵衛が経営する店内で起きた史上最悪の惨事だろう。
 敬介が店に来るとそこには人だかりが出来ていた。野次馬の女性から店内で人が殺されたことを知り、藤兵衛の身を案じた敬介だったが、女性は即座に彼が重要参考人として警察に連行されたと告げた。
 だが、藤兵衛の姿は東京の何処の警察署にもなかった。

 それもその筈、藤兵衛が連れて行かれたの警察は警察でもGOD秘密警察(笑)。そのことを知る由もない藤兵衛は、いきなり投獄されたことを憤り、敬介を呼んでくれと叫んだが、やって来たのは敬介ではなくアポロガイスト。この時点でまだ自分のいる場所が普通の警察署と思っていた藤兵衛は脇にいた警官にアポロガイストを逮捕する様訴えたが、勿論その正体は戦闘工作員。
 ようやく自分が嵌められたことに気付いた藤兵衛は腹を括った様で、自分をどうするつもりか?と問うた。それに対して、アポロガイストは、要望通り神敬介を呼んでやるから、2、3の質問に答えるよう求めた。
 だが、藤兵衛はGODに僅かでも益することを厭うてか、質問内容を聞きもせずに「GOD秘密警察にも黙秘権はあるのかね?」として一切の供述を拒んだ。そんな藤兵衛の在り様に、アポロガイストは拷問を命じた。

 その頃、敬介の方では徐々にGODの狙いを掴みつつあった。知り合いの古代生物研究家からくるい虫の話を聞いており、それがCOL店内の惨劇を招いたことを察知し、GODの狙いもこれを駆使したテロにあると睨んでいた。そしてCOLに放ったくるい虫を回収せんとして店内を探っていたアポロガイストの部下を捕らえると、くるい虫を押し付けて脅し、藤兵衛の連れて行かれた先がGOD秘密警察東京分署であることを白状させた。

 重要機密をかようにあっさりゲロさせる程の恐ろしさを持つくるい虫の凶毒だったが、それは今まさに藤兵衛にも注がれんとしていた。椅子に拘束した藤兵衛にアポロガイストはくるい虫を見せ、店内の惨劇からもその恐ろしさは知っている筈だとした。
 甦ったばかりのくるい虫の解毒剤は存在せず、一噛みされれば殺人鬼として生きていくしかなくなる。そうなりたくなければ簡単な質問に答えろと促すアポロガイストだったが、立花藤兵衛という漢(おとこ)は掛かるときにはより一層頑固となる。せめて質問内容を聞いてから、供述を拒むか、否かを決める方がギリギリまで身の安全を保てそうだが、藤兵衛は、「簡単な質問なのだが…。」とする懐柔にも、「二度と正常な人間としては生活出来ない。」、「神敬介にも会えない。」とする脅しに屈しなかった。
 アポロガイストは、更には藤兵衛の生甲斐に触れる「グランプリレーサーを育てるのも夢になる。」という言葉まで織り込んで質問に答える様に迫った。
 だが、それに対してさえ藤兵衛は「夢でも良い!俺はその夢を抱いて死んでいく!殺せ!俺は何も喋りゃあせんぞ!」として、頑なさを崩さなかった。

 少し前に「俺は慌てない主義」と云っていたアポロガイストだったが、藤兵衛の意志はどうあっても崩せないと見たものか、それても前言よりは短気だったのか(苦笑)、即座に「望み通りにしてやる!狂って死ね!立花藤兵衛!」と云い放って、くるい虫に藤兵衛の身を噛まさんとしたが、すんでのところでくるい虫はライドルロープに弾かれた。
 どうしてこの場所が分かったのか?と訝しがるアポロガイストに、Xライダーはアポロガイストの部下がくるい虫への恐怖から白状したことを回答。「あの馬鹿め……。」と呟き、悔しがるアポロガイストは本当に部下(秘密警察直属を除く)に恵まれていない(苦笑)。

 ともあれ、アジトに乗り込まれた以上、Xライダーを生かして返す訳にはいかず、その旨を宣言したアポロガイストだったが、Xライダーは東京分署の破壊を宣言し返し、両者は二度目の一騎打ちとなった。
 結局、藤兵衛は解放され、くるい虫は水槽をライドルスティックで一撃されると炎上すると云う謎な全滅(苦笑)を遂げ、東京分署自体も事前にXライダーが放火していたため、アポロガイストの根城と計画は文字通り灰燼に帰し、両者は枯草の草原にて対峙し、最終決戦に挑んだ。

 「突撃仮面ライダーX」、それもフルコーラスをBGMに両者は白兵戦を展開。しばし互角に戦っていた両者だったが、やがて、アポロショットを弾かれ、武器として放ったガイストカッターが躱されたことで、武器と盾を失ったアポロガイストは徐々に劣勢に転じた。
 素手での格闘でも、一時はXライダーのライドルスティックを奪って、それで攻撃する展開も見せたが、再度奪い返されるともう劣勢は挽回出来ず、XライダーはX必殺キックを放った。
 このX必殺キック、見た目的にはいつものXキックと変わらないが、設定によると2倍の威力があるらしい(何故それほどの差が生まれるかは不明)。まして今回盾を失っていたアポロガイストにこれを防ぐ術はなく、まともに食らい、爆発した。
 だが、アポロガイストはまだ死んでおらず、人間体でよろめきながら立ち上がってくると、こんな時だと云うのに、ハンカチで気障に埃を払い(←こんな時だからというべきか?)、Xライダーに対して、「Xライダー、俺の負けだ。君は良きライバルであり、好敵手だった。最後の握手を。」と云って、右手を差し出し、近寄って来た。
 このようなサイトを見る方には先刻承知だから先に書くが、勿論これは罠である。長年特撮番組を見続けた人たなら、10人中50人が疑うだろう(笑)。まして、相手は日本壊滅を企んで暗躍してきたテロリストの幹部である。現実世界において、最期を悟ったテロリストが握手を求める姿勢なんて想像つかないし、現実の警察官や機動隊員が応じるとは思えない。
 ただ、リアルに考えるなら胡散臭さ満載の展開と立ち居振る舞いが似合っているのが、アポロガイストの魅力である。彼はそれだけそれまでの歴代悪の幹部とは一線を画し、「敵」でありながら、「ライバル」としてのカラーがそれ以上に似合っていた(それまでの悪の幹部にも「ライバル」としての側面が無かった訳ではないが、やはり「敵」としてのカラー方が遥かに強かった)。
 そんなアポロガイスト最後の求めに対し、Xライダーも、「私も敵に回すのが惜しかった。」として差し出された右手を握った。
 満足そうに頷いたアポロガイストだったが、次の瞬間その目つきは冷酷なものとなり、「アーム爆弾で一緒に死ねぇ!」と叫ぶや、アポロガイストの右腕は肘から外れ、Xライダーの右手には爆弾付きの義手が残され、狼狽えるXライダーに尚も片腕のアポロガイストは最後の力を振り絞って取り押さえに掛かり、両者もつれ合って岩陰に転落した直後にアーム爆弾が炸裂した。

 Xライダーの身を案じる藤兵衛だったが、幸い、重傷を負ったアポロガイストの取り押さえをXライダーは振り払うことに成功し、無事だった。

 かくして第2クール1話目にして早くも大幹部が落命した。前二作が第2クールや第3クールから大幹部が指揮を執り出したのとかなり対照的である。ちなみの当初の予定ではアポロガイスト『仮面ライダーV3』における結託部族同様、一ヶ月程の出番で終わり、ブラックマルスなる新幹部の登場が企画されていたが、アポロガイストの人気が予想以上に大きかったために、次週以降の「再生」にストーリーは転じたのだった。




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令和五(2023)年六月一四日 最終更新