仮面ライダーX全話解説

第16話 逆襲アポロガイスト!Xライダー危うし!!

脚本:伊上勝
監督:折田至
死神クロノス、地獄の番犬ケルベロス登場


 第9話・10話以来の前後編の、後編となるこの第16話冒頭は当然、前話のダイジェストから始まった。GODの存在を知った二人の女子大生を救ったことから神敬介はGODの日本基地であるアポロン宮殿に潜入したが、潜入はGODに見破られており、Xライダーはクロノスと対峙。一方で、アポロン宮殿地下手術室では、GODによって召喚された二人の博士が何者かの手術を執刀しようとしていた。
 まあ、先に触れてしまうと手術台に横たわっていたのはアポロガイストである。えっ?ネタバレ?まあ、前話では登場しないにもかかわらず「アポロガイスト 打田康比古」とクレジットされていたし、次回予告でもはっきりと手術台に横たわっているのはアポロガイストであることが明言されていたし、第一、拙サイトを見て下さるような方には周知で、ネタバレにはなり様がないと思われる(苦笑)。

 ともあれ、Xライダーとクロノスの一騎打ちは続いていて、なかなか良い殺陣が展開されていた。前話のラストで狙撃しようとしていた戦闘工作員が消え失せていたことを除けばだが(苦笑)
 そしてライドルスティックと死神の鎌を得物とした撃剣の果てに、XライダーはXキックを敢行。技へのムーブとしていつもの様に空中で大車輪をしていたXライダーを追って、クロノスも大鎌を大上段から打ち下ろした。
 両者の攻撃はXキック炸裂直前にクロノスがXライダーの左肩に強烈な斬撃を食らわせ、「俺が勝った!」と叫ぶクロノスだったが、斬撃直後にもろにXキックを食らっており、台詞とは真逆に断頭・爆発の果てに戦死を遂げた。
 結局クロノスは惜敗した訳だが、最後に与えた一撃は相当強烈だった様で、Xライダーは追撃してきた戦闘工作員に対して応戦しようともせず、出て来たばかりのアポロン宮殿内に逃げ込む有様だった。
 戦闘工作員の一人は第一警備システムを要請。恐らくはアジト内に逆戻りしたXライダーの逃げ道を絶つ手配の様で、アジト内では数々の隔壁が下りて、Xライダーの逃走経路を次々と塞いだのだった。

 場面は替わって地下手術室。宮殿内の雰囲気に戸惑い懸けた宮本・川上の両博士だったが、GOD総司令は気にせず、手術台にいる人物の手術を行うよう命じた。覆いの下から出て来たのはアポロガイストで、二人の博士も名前は聞いていた。
 そんな人物が手術台に横たわっていることを訝しがる両博士に対し、GOD総司令アポロガイストがXライダーと戦って敗れたものの、GODとして死なすに忍びなく、組織にまだ必要な人物として蘇生・再生手術を命じた。
 これはかなり稀有なことである。通常、ショッカーに始まる悪の組織は敗北者に対して非情である。改造人間の敗北と共に作戦そのものを全面中止してしまう程なのだから(苦笑)。辛うじて生きていれば強化手術を施して再戦させた例もあったにはあったが、敗れて命を落とした段階で「敗北=用済み」と見る傾向が極めて強く、戦死者を蘇生させてまで「必要」と云い切ったのはアポロガイストが初めてである。
 一応、『仮面ライダーV3』第27話・第28話でもショッカー、ゲルショッカーの大幹部達を蘇生させた例はあったが、これは作戦自体が日本全国を極に分けて同時襲撃すると云う大規模作戦あってのことで、戦死直後に蘇生を命じられたアポロガイストGOD総司令に信頼され、寵愛されていた度合いは歴代悪の大幹部の中でも群を抜いていた。

 そんなアポロガイストの再生手術を命じられた両博士は即座に快諾。川上はアポロガイストの肉体組織を強力な細胞に変える、と主張し、同様に宮本はアポロガイストのメカニックをチェンジすると宣言した。
 その宣言に、GOD総司令も「両博士の腕を信頼している。」と返した。如何なる結び付きによるものか、悪の組織と通じていることは感心出来ないにせよ、悪の組織とその協力者が、悪の組織において稀有なほど強い信頼関係で結ばれているのは興味深いワンシーンだった。

 その頃、敬介は通風ダクトから天井裏に忍び込み、身を隠していた。クロノスによって負わされた傷口からは出血が続いていたが、敬介の見立てでは一時間ほどで回復するとのことで、せっかくだから、その間身を潜めつつもアポロン宮殿を探索せんとしていた。
 天井内を行き来する敬介は、GODが敬介のアポロン宮殿内閉じ込め状態を利して、地獄の番犬ケルベロスにファイヤー作戦なる作戦を展開しようとしていることや、何者かの手術を行う為に二人の博士を召喚したところまでは探り得たが、その人物を特定出来ない内に、出血が原因で、潜入箇所がGP達の知るところとなってしまった。

 敬介がGP達に見つかった直後、医務局ではアポロガイストの再生手術が完了していた。若干容姿を変え、2週間ぶりに体を動かしたアポロガイストは、GOD総司令から、「どうかね、甦った気分は?」と尋ねられると、「爽やかな気分です!」と普段の彼からは考えられない程歓喜の声を上げ、GOD総司令に感謝の弁を述べた。
 だが、GOD総司令が、「礼を云うなら、二人の博士に。」という極めて正論を述べて博士達への御礼言上を促したのに対して、アポロガイストが口にしたのは、「GODは莫大な研究費をこの博士達に使っている。やって当然でしょう!」と、新装備・アポロマグナムの先端を突き付けながら述べると云う非礼対応で暗に御礼言上を拒否した。つまり性格は全くそのままだった(まあ、変わっても面白くないが)。
 さすがに恩知らずとも取れる台詞に川上も憮然としていたが、GOD総司令は笑って、「秘密警察第一室長らしいな。」と云って、特に咎めず、新装備を自由に振るうことを認め、甦ったアポロガイストに対して「プレゼント」があると述べた。
 いずれにせよ、このシーンもまた、悪の組織に自分の意志で協力する者がどういう立ち位置にあるかが顕著にされた興味深いシーンだった。通常、悪の組織に協力している科学者や博士には、「無理矢理拉致されてきて、家族の命をたてに協力を強要されている可哀想な人達」というイメージがあり、実際その通りの人の方が圧倒的に多いのだが、宮本・川上の様に資金援助を得て協力している、ある種の契約関係にある者もいることがライダー史上初めて明確に描かれたと云える(勿論、組織に心酔して忠誠を誓っている科学者も少なくはない)。
 そして冷静に考えると、現実の科学者や博士や大学教授にも、資金提供を受けていることで密かにテロリストや反社会集団や邪教組織に協力している者がいるかも知れないと云うのは、全く考えられない話という訳ではない。才能も武器も、優れているほどその悪用は恐ろしいこともまたこのシーンには教えられるのである。

 そしてその頃、通風孔内では遂に敬介がGP達に見つかり、傷の癒え切っていない敬介はやむなく応戦しながら、程なく宮殿外に出た。そしてGP達に追われる敬介を待ち受けていたのは、甦ったアポロガイストだった。
 死んだ筈のアポロガイストを崖の上に見て、さしもの敬介も驚かずにはいられなかった。一方のアポロガイストは、GOD総司令からの「プレゼント」が神敬介その人であったことを察して、喜び、狼狽える敬介に対し、「俺は貴様を殺すまでは何度でも生き返る。貴様にとっては迷惑な相手なのだ!」と云い放った。ちなみにこの「迷惑な相手」という台詞、名台詞の一つとしてカウントされたのか、この『仮面ライダーX』の放映から年月を経ること35年後に『仮面ライダーディケイド』に客演したアポロガイスト(演:川原和久)も口にしている。

 ここで少し、アポロガイストの容姿の変化について言及するが、変化は然程大きいのものでは無い。顔面には中央に金属っぽい縦ラインが1本入り、右腕は3連発のマグナム砲にエストック(細剣)を装備した者となり、左手に装備したガイストカッターは金色のデザインを交えた、ガイストダブルカッターとなり、マントの裾部分がやや派手になっていた。
 その新装備を誇るように、アポロガイストはその試運転として敬介を殺すことを宣言し、22口径のアポロマグナム(←道場主の記憶に間違いが無ければ、22口径はかつて零戦にも装備された強烈な銃砲である。アポロガイスト自身は巨大な岩を壊し、戦車をも撃ち抜くとしていた)を連発して敬介を威嚇すると、生身の敬介と戦っても面白くないので、仮面ライダーXに変身する様促した。

 この挑戦に応じんとした敬介だったが、クロノスによって負わされた左肩の傷はまだ治っておらず、セタップしようにも左肩が上がらなかった。このシーンから、仮面ライダーの変身には特定のポージングが必須であることが見て取れた(そのことに触れた他の例では『仮面ライダー(スカイライダー)』の第1話が有名だろうか?)。
 セタップ出来ずとも戦うと息巻く敬介だったが、さすがにこれでは勝負にならず、アポロガイストはガイストダブルカッターを放った。丸盾による一撃目は辛うじて躱した敬介だったが、肩当てによる二撃目を胸板に受けて囚われの身となったのだった。セタップ出来なかったとはいえ、人質を利しての服従強要を除けば、正面切っての戦いでXライダーが捕らえられたのはこれが初めてであった。

 Bパートに入ると、COLでは出発してから丸一日連絡もない敬介の身を案じる藤兵衛が心ここにあらずの状態で、ポットの煮立ち過ぎにも気づかない状態だった。そんな中、なし崩し的にウェイトレスと化していたチコとマコはすっかり馴染んでおり、藤兵衛宛に送られてきた贈り物をマコは鼻歌を歌いながら持ってきて、それをチコは「ガールフレンドからよぉ?」と茶化していたのだから、先週以来の危機感はどこへやら。
 というのも、贈り物は前話でクロノスがGODの通信人形を入れていたのものとサイズも梱包も全く同じもので、通常ならマコは箱を見た途端に警戒してもおかしくない。また藤兵衛もチコのからかいに「年寄りをからかうものじゃない。」と云って、憮然としながら開梱していたが、差出人名も確かめていなかった(余談だが、小林昭二氏が一人娘を儲けたのは第一期仮面ライダーシリーズ終了後)。
 とはいえ、中から通信人形が現れたのを見るとさすがに能天気なチコとマコも悲鳴を上げずにはいられなかった。人形のデザインの不気味さと、二人の娘の反応に藤兵衛も人形を放り出さずにはいられなかったが、地面に落ちるや人形のスイッチが入った。
 通信人形が地獄の番犬ケルベロスへの命令を語り出すと、狼狽えつつも店内の客(河原崎洋夫)に避難を促す藤兵衛だったが、その客がケルベロス本人だった。その正体を知った藤兵衛はチコとマコに逃げるよう促したが、お約束の様に戦闘工作員達が乱入してきて、三人は取り押さえられた。
 改めて通信人形からはファイヤー作戦の実行と、その本部を立花コーヒーショップに置くことが命じられ、障害となるXライダーもアポロン宮殿内にてその命運がアポロガイストの手中にあることが語られた。そしてそのファイヤー作戦とは、東京中の家庭に高圧電流を放って家電品を一斉に発火させ、東京を一瞬にして火の海にすると云う恐るべきものだった。
 勿論、我が店をそんな恐ろしいテロの作戦本部にすると云われて「はい、そうですか。」と従う藤兵衛ではない。必死に戦闘工作員を振りほどいて果敢にもケルベロスに突っかかったが、5万ボルトの電流を武器とするケルベロスによってあっさりと感電・気絶にお追いやられた。まあ、仕方ないか。
 余談だが、シルバータイタンはGOD神話怪人の中ではデザイン的にはこのケルベロスが最も秀逸だと思っている。神話通りに持つ3つの首を頭・左肩・背面、と見事に配置させ、アンバランスさを感じさせていなかったのだから、デザイナーには脱帽ものである。

 場面は替わってアポロン宮殿。
 そこでは牢獄内で気絶状態の敬介をアポロガイストが見下ろしていた。曰く、「神敬介、傷が治るまで俺は待つ。だがその時がお前の最期の時だ!」とのこと。このシーンを見て、「ここで殺っておけばよかったのに………。」と突っ込む視聴者は多かったと思われるが(苦笑)、プライドの高いアポロガイストにしてみれば、一度敗れた上は正々堂々の一騎打ちでリベンジを果たさないと気が済まないのだろう。組織としては感心出来ない態度だが、それがアポロガイストの魅力でもあるから、判断の難しいところだ。結論を先に書くとこのこだわりで敬介の脱出を許してしまうのだが、それをGOD総司令が咎めはしなかったから、許容されている裁量も絶大なのだろう。

 案の定、敬介は既に意識を取り戻していた。だがその場でその様子を見せては正直の上に「馬鹿」が着く。自分の身の上よりも、自分が拘束状態にある間に行われるであろうファイヤー作戦の方を案じていた敬介はアポロガイストと入れ替わりに傷の治療に川上博士が入って来たのを利用して、川上を殴り倒すと出獄に成功した。
 それを見ていた戦闘工作員が即座に非常警報を鳴らしたのは立派だったが、敬介の脱獄を許してしまった川上と戦闘工作員に生きる道は無かった。死刑宣告に際して、川上は「待て!お前を再生させたんだぞ!」と云って、暗に再生による恩義と引き換えの助命嘆願を仄めかしたが、アポロガイストは答えることなく、アポロマグナム先端で川上と戦闘工作員を刺殺した。
 刺殺された二人の体はその後爆発。ある意味、キックで爆発する改造人間より不可解な死に様である(苦笑)。そしてアポロガイストはその様子に「凄い!」と云って驚愕するGPを殴りつけて(笑)、アポロン宮殿全出入り口の封鎖を命じたのだった。だが、敬介は逸早く戦闘工作員に化け、「ケルベロスGOD総司令の命令を伝えに行く。」と偽って脱出に成功していた。

 程なく、通信連絡員が外に出たと云う報告から敬介の脱出を察知したアポロガイストは即座にこれを追い、しばしのカーチェイス後、アポロガイストはアポロ・チェンジして改造体となり、敬介もそれに応じてXライダーにセタップした。
 Xはクルーザーに駆使してアポロガイストと対峙し、「俺は云った筈だ!Xライダーになった時が貴様の最期の時だと!」とアポロガイストが云い放ったのに対して、「アポロガイスト!Xライダーに敗れたのを忘れたのか!?」と揶揄。
そう云われて、「黙れ!今の俺は昔のアポロガイストではない!」と激昂するアポロガイストだったが、Xライダーは「何回生まれ変わっても、アポロガイストはXライダーの敵ではない!」と切り返した。勿論、そう云われて怒り心頭・戦意満々となるアポロガイストだったが、挑発的な台詞とは裏腹に、Xはマグナムショットとガイストカッターの爆煙を利して戦線を離脱した。ファイヤー作戦の始まり、何よりも、その為にケルベロスの占領下にあるCOLと店内の三人を案じてのことだろう(←正義の味方としては正しい判断である)。

 そのCOLではファイヤー作戦開始が秒読み段階に入り、さしもの藤兵衛も今度こそ終わりかと項垂れていたが、新たな通信人形が投げ込まれ、ファイヤー作戦の中止が命じられた。
 ただ、その声は敬介のもので(笑)、最初こそ作戦中止に戸惑う面の方が強かったケルベロスだったが、すぐに声がGOD総司令のそれではないことに気付いた。バレちゃあ仕方ない的にXライダーが乱入し、それでも作戦阻止は不可能としてナイフスイッチを入れたケルベロスだったが、回線は既に切断済みだった。この辺り、神敬介は歴代ライダーの中でも用意周到な方である。

 かくしてファイヤー作戦は阻止され、藤兵衛・チコ・マコも命の危機を脱した。後はケルベロスを倒すのみである。ところが、5万ボルトの電流を武器とするケルベロスは強敵だった。ライドルスティックで頭を打っても、それを両手で掴まれるとXライダーの方が感電。5万ボルトといえば、仮面ライダーストロンガーと同等で、ゲルショッカーのクラゲウルフの10万ボルトや、仮面ライダースーパー1のエレキハンド・3億ボルトには及ばないものの、ライドルロープを駆使して敵に電気を流す攻撃の出来るXライダーを苦しめたのだから、武器としては充分に役に立っていた。
 また電流は全身を覆う鎧でもあり、これが為にXキックが通じなかったのだからケルベロスはかなり優秀な改造人間だったと云える。

 だが、長所は短所とは良く云ったもので、接近戦及び格闘戦が無理と悟ったXライダーは、ライドルロングポールを駆使してケルベロスを川中に投擲。たちまちケルベロスの体はショートして発火し、爆散すると水面に黄色い粉だけを残してくたばったのだった。
 最大の武器が最大の弱点となったことはXライダーの口からも述べられていたが、かくして東京の危機は回避されたが、再生したアポロガイストによる更なる攻勢を予期して第16話終結したのだった。


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令和五(2023)年六月一四日 最終更新