仮面ライダーX全話解説

第2話 走れクルーザー!Xライダー!!

脚本:長坂秀佳
監督:折田至
パニック登場

 冒頭、神敬介は前話で負った心の傷を振り払うかのように海岸をバイクで疾走していた。ナレーションは第1話で起きたこと―父を殺され、それを手引きしたのが恋人で、その最中自身も一度殺され、瀕死の父の手で改造人間として蘇生されたこと―をダイジェストで語っていた。

 そんな敬介の眼前に突然、群衆に追われる涼子が現れた。群衆は一般ピープルで、女性も数名混じっていたのだが、鶴嘴や鎌や包丁を手に目を血走らせてうら若き一人の女性を追っていたのだから、傍目にも何とも物騒なワンシーンだった。
 思わず涼子の名を「さん」付けで呼び、バイクで階段を駆け上がって群衆を退かせつつその後を追う敬介だったが、涼子は敬介の静止に応じることは無く、前話で負った足の傷から追うのが困難な敬介が「君にはどうしても聞きたいことがある!」と投げ掛けても嘲笑するだけだった。
 そんな彼女の立ち居振る舞いに呆然とする敬介だったが、尚も追おうとすれば涼子は拳銃を発射する始末だった。

 結局、涼子に逃げられ、先週来の一連の動きが信じられず、頭を抱える敬介だったが、そこに今度は霧子が現れた(髪型変えたり、衣装変えたり、美山さんも大変だなあ………)。
 涼子の行動も謎だが、この時点では霧子の存在自体も謎である。霧子は敬介が「みんなのXライダー」であり、彼に父の死や恋人の裏切りを嘆く余裕が無いことや、涼子に気を取られて暴徒と化した人々に無関心であったことを良くないこととして諭した。つまり霧子は敬介の身の上を先刻承知していることもはっきりした。
 ただまあ、云わんとすることは分からないでもないが、何者かと問われてすぐ姿を消すんだから、普通絶対信用してもらえんぞ(苦笑)

 ともあれ、暴れ続ける人々の元に戻った敬介はバイクで割って入った。
 驚いた人々は地面にひっくり返るとその衝撃でか、正気を取り戻した。人々は暴れていた間の記憶がなく、自分達が物騒な物を持って路上に倒れていることを怪訝に思い、そんな人々に敬介は催眠術に様なものに掛けられていたと推測して、何か心当たりが無いかを尋ねた。
 人々は団地の住人で、団地の交流会を終えて屋外に出たところまでは記憶にあったが、そこから記憶が途絶えており、何が有ったかを思い出そうとする中、何人かの人々が笛の音を聞いたことを思い出した。

 そこへその笛の音=フルートの音色が聞こえて来たのだが、音は滑り台に座す少年・ススム(小松陽太郎)が奏でていたもので、何人かの人々が、狂乱状態に陥る前に自分達が聞いたのはあの笛の音に違いないとして、激昂してススムに掴みかからんとした。催眠術に掛けられていなくても危ない奴等だ(苦笑)
 だが、それは八百屋の主人・八百吉(佐藤京一)が止めた。八百吉が云うにはススムは父親を交通事故で亡くしたばかりの不幸な身の上で、そんな彼を、ただ笛を吹いているだけで疑うのは良くないとして一同を宥めた。
 実際、ススムは涙を浮かべながら笛を吹いており、ススムを見ていた敬介は集会所との距離からも笛の音が群衆を狂わしたことに疑問を抱き、独自に調査を開始した。

 団地のある一棟の屋上に上がった敬介は潜んでいる者にその存在を察知していることを告げ、姿を見せるよう促すと、そこに戦闘工作員達が現れた。まだネプチューンから受けた槍傷の癒え切っていない敬介は数名の戦闘工作員にも苦戦を強いられたが、吹き矢を利用することで何とか撃退に成功。直後にフルートを吹くススムに気づいた。
 最前同様涙を流しながら吹奏するススムに、「お父さんを亡くしたんだって?」と度直球に投げ掛けるKY敬介(苦笑)
 案の定、無視するススムだったが、敬介が自分も父親を亡くしたばかりであることを告げると、ススムは大好きな筈の父に逆らって喧嘩ばかりしていたことを口にし、それを悔い、堰を切ったように泣き出した。正に自分と同じような父親との関係で、生前の啓太郎を思い出す敬介は、「みっともなくても良い、泣きたいから泣くんだ。」と悲しくも本音を吐露するススムに、「みっともなくなんかない。」として、互いに元気を出そうと促し、自分と同じ境遇の敬介の存在に力を得たかのようにススムも頷くのだった。

 そんな敬介の様子を遠目から霧子とGOD怪人パニックが伺っていた。
 目の部分だけ映されていた霧子は泣いているようでもあった。
 そしてパニックの元には鶏を介してGOD総司令の命令が伝えられた。それは作戦の障害となるXライダーを倒した上で、日本全国の群衆を暴徒に駆り立てる「一億総殺人鬼計画」を遂行せよと云うもので、成程、日本社会の壊滅を目論むGODらしい作戦だった。
 パニックはギリシャ神話の半獣神パーン宜しく、パンフルートを吹き出し、団地の人々を暴徒化させた。そう、狂乱の元はこのパニックだったのである。

 笛の音は敬介も聞きつけ、五感を駆使して音源を探り、程なく屋上にいるパニックに気付くと敬介はXライダーにセタップしてパニックに挑み掛った。
 Xライダーが戦闘工作員を蹴散らすとパニックは角から弾丸を発して少し抵抗したものの、すぐに姿を消し、途端に人々は正気を取り戻した。どうも人々を暴走させ続けるには笛を吹き続ける必要があるようで、戦いながら笛を吹くのは不可能だったと見える。
 ただ、暴徒化は遮断されたものの、人々は改めてススムへの疑いを深めており、笛が無くても人々は別の意味での狂乱に陥っていた。最前ススムを庇った八百吉も今度はススムを庇わず、人々はススムを捕らえんとして走り出した。
 その八百吉だが、笛の音色なしに暴徒化する人々を見てこっそりほくそ笑んでおり、ここまで来ると多くの視聴者にとって彼がパニックであることは読めていただろう。八百吉を演じた佐藤京一氏は『仮面ライダー』でアブゴメスの、『仮面ライダーV3』で火炎コンドルの人間体を演じており、身長180?、体重92?の巨漢が率先して口を開いていれば、「如何にも」だったし、制作陣も狙っていたとは思う(笑)。
 直後、八百吉は指令装置である鶏とパンフルートを手に、GOD総司令に作戦が自分の思い通りに進んでいることを報告しており、通信終了直後に同じ団地のおばさん三人にパンフルートを持っているところを目撃されるとパニックになって三人を殺害。殺された三人は青い液体となってこの世から消えてしまったのだった………。

 Bパートに入り、ススムを怪しいと思い込んだ団地民達は逃げる彼を、武器を持って追いかけていた。最前パニックGOD総司令に報告していたように、もはや彼等は催眠術すら不要状態だった。
 そんなススムの危機に駆け付けた敬介だったが、狂乱状態に陥った群衆相手に偏見の目に苦しむこととなった。つまり、ススムを庇った際に改造人間としての力が発揮され、自分を突き刺さんとした包丁をへし曲げたことで群衆の暴力は阻止出来たのだが、群衆は敬介を「人間じゃない!」と見て、怯えて逃げ出した。
 酷いことに、そのことで敬介は庇った筈のススムにまで「騙した!」として痛罵された。包丁を素手で曲げると云う人間離れした能力を発揮した敬介を、ススムは「人間じゃない」=「ロボットに違いない」と見て、ロボットである(と見做した)敬介に父親がいる筈ない、として最前の父親を亡くした敬介の話を嘘と見做し、「自分を騙した。」と取り沙汰した。
 ロボットだったら父親がいないって……………………キカイダーやキカイダー01はどうなるんだろう???

 ともあれ、昭和中期のクソガキキャラによく見られた分からず屋ぶりだが、まあススムの立場に立てば年端も行かぬ身で父親を亡くした直後の尋常じゃない傷心状態で、団地の人々から怪しい奴と看做されて私刑に掛けられるところだった状態で平常心を保てと云うのも無理な相談だったと云えるから、今話における分からず屋振りはある意味、致し方ない。
 そしてそんなススム違う意味で尋常じゃない傷心状態に陥ったのが、他ならぬ敬介自身だった。暴徒化を止めようとして、狂乱状態にあった団地民のみならず、庇った筈のススムにまで「お前なんか人間じゃない。」と痛罵されたことで、敬介は本郷猛、一文字隼人、風見史郎同様に自分が人間の体じゃなくなってしまったことへの悲しみに改めて襲われたのだった。

 傷心状態の敬介はXライダーになってクルーザーの乗るとJINステーションにやって来た。そしてススムに嫌われたことを吐露。人間じゃないことで子供に嫌われるようでは子供達の見方になれそうにない、とこぼし、その不安と悲しみの払しょくを求めるように敬介は父に神敬介でいるときの自分を「まだ人間だろ?」と問い掛けた。
 恐らく敬介は、父に「体はサイボーグでも心は人間。」と云って欲しかったのだろう。だが、啓太郎から帰ってきたのは「もう人間じゃない。」と云う冷厳な回答だった。啓太郎は敬介がパニックの笛の音で暴徒化しなかったこと自体が普通の人間ではない証左として、彼が普通の人間であることを否定。だが、それに続けて呼び掛けたのは、「人間でないことに誇りを持て!」との言葉だった。

 勿論ここで誤解してはいけないのは、人間を凌駕する能力を持った体や能力を誇れと云う事ではない。啓太郎はGODと戦えるのは敬介しかいないとして、「人間でないことの苦しさに耐え抜いて、それを誇れる男になれ!」と云う意味で、敢えて敬介が人間であることを否定したのである。つまりはそれに負けない男になれとの願いを込めて。

 啓太郎自身、蘇生の為とはいえ我が子の体を切り刻み、改造手術を施すことで二度と普通の人間の体に戻れないようにしてしまったことには深い罪悪感を抱いてた。敬介が人間でなくなったことに悲しみや戸惑いを覚えることは百も承知していたことだろう。
 だが、息子が本当に立派な人物、立派な戦士、GODの魔手から世界を救い得る存在となる為、啓太郎は「普通の人間でありたい。」とする敬介の願望を弱気として敢えて斬り捨て、最後の決断を下した。

 早い話、JINステーションの自爆、そして神啓太郎という存在の自害である。

 啓太郎は巨大なGOD機関と戦う息子の力となる為、自分の全知識と全人格が敬介の助けになると考えてJINステーションを残した。だが、事ここに至って啓太郎はJINステーションが敬介を「弱い男にする。」と断じ、「何かある度にJINステーションに泣きに来る男になって欲しくないのだ。」として、敬介が一人前の男として独り立ちする為にも、「あってはならないもの」として、その破棄を決断した。

 謂わば敬介は二度目の父の死を宣告されたに等しく、別れを告げる父に戸惑いを見せたが、それでもすぐに父の真意を察するとXライダーとなってクルーザーでJINステーションを脱し、父の最期の決断に感謝し、「きっと云われた通りのXライダーになって見せる。」と誓い、崩壊するJINステーションに背中を向けて海上に向かったのだった……………。

 場面は替わって団地。そこでは暴徒達がススムを投網で捕らえ、私刑に掛けようとしていた。八百吉の姿を装っていたパニックは公正公平に振舞っていると装う為か、ススムから取り上げたフルートを調べ、「特に変わったところはない。」と宣した。
 だが、完全にススムを疑ってかかっている暴徒達は、「フルートじゃなくて、その子自身に変な力があるのよ!」と決め付け、(パニックに消された)団地の奥さん3人が行方不明なことまでススムの仕業と決め付ける始末だった(果たしてこの群集心理の暴走を現実世界の私たちは一笑に付すことが出来るだろうか?「一笑に付せる!」と仰る方は令和4(2022)年1月のアメリカ合衆国における国会襲撃を調べて頂きたい)。

 遂に群衆は「リンチだ!」と叫び出し、パニックは追い打ちをかける様にパンフルートを吹き出し、暴徒化に拍車の掛かった群衆はススムを追いながら彼が父親の形見として大事にしていたフルートを踏み潰し、先頭に立つ若い女性は手にした包丁でススムを刺そうとした………。
 だがそこに敬介が駆け付け、吹き矢でススムが刺されるのを阻止。女性が包丁を取り落としたショックで一時正気になった間隙を突くようにススムを庇って立ちはだかった敬介は、「誰が笛を吹いていたかよく見ろ!」と指摘した。
 そこにはパンフルートを持つ八百吉がいて、群衆は幸いにもさすがにそれを見てまで敬介の言に耳を貸さないような分からず屋達ではなかった。

 一連の騒動が八百吉によるものだと認識した団地民達は、子供に濡れ衣を着せた八百吉を罵り、弾劾したが、八百吉は「バレちゃあ仕方ない」的に高笑いしつつパニックの正体を現し、敬介は怯える人々に避難を促した。
 そして戦闘工作員達としばしの立ち回りを展開後、Xライダーにセタップしてライドルスティックを駆使して戦闘工作員達を蹴散らした。この間、パニックはススムを捕らえており、ススムを人質にXライダーに抵抗中止を強要したが、Xライダーは僅かに躊躇いを見せただけでほとんど委細構わず攻撃し続けパニックも小脇に抱えたススムに何をするでもなかった。
 やがてXライダーはクルーザーを召喚するとそれをパニックとススムの間に割って入らせてススムを救うと騎乗したクルーザーで空中高く飛び上がると二回転させて、クルーザーアタックパニックを倒したのだった。

 そしてラストシーン。
 ようやく暴徒から解放され、身の安全を得たススムが拾い上げた父の形見であるフルートは大勢に踏み躙られて、折れ曲がり、吹いても音が出なかった。するとそこへ横合いから敬介が現れ、フルートをまっすぐに伸ばした。
 驚くススムに「人間じゃないって云うのも良いものさ。」と笑顔で語る敬介が息を吹き込むとフルートは音を取り戻していた。加えて敬介は、ススムに笛を大事にすること、ススムがパニックの笛に影響を受けなかったのも、笛の波長に耳が慣れていたからだと告げた。
 散々敬介を罵ったことで気まずかったのか、ススムは礼を述べるとフルートを抱いて走り去り、自信と誇りを取り戻した敬介を遠巻きに見つめていた霧子が満足そうに微笑んでいたのだった。


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令和五(2023)年六月一四日 最終更新