仮面ライダーX全話解説

第28話 見よ!Xライダーの大変身!!

脚本:村山庄三
監督:内田一作
クモナポレオン登場

 冒頭ダイジェスト………GODに強要された南原博士によるRS装置の設計図完成、その設計図が脱走した南原によって9つに裂かれ分散されたこと、そしてそれらの内1枚がGOD、3枚が神敬介の手に渡り、残る5枚を巡って、XライダーとGODの争奪戦が始まろうとしていた。

 冒頭は深夜の洋館から始まった。洋館の中では学者然とした初老の男が何らかの図を設計しており、その横では部屋に飾れたナポレオン・ボナパルトの絵がその目を明滅させていた。
 直後、男の首筋に一匹の蜘蛛が飛びついたかと思うと、男は凄まじい断末魔の声を上げて昏倒。激しく痙攣すると程なく絶命し、その顔面は無数の蜘蛛で覆われた………。そこに現れたのは絵から抜け出たナポレオン。しかしその顔は蜘蛛で、この怪人こそがGOD悪人軍団の一人、クモナポレオンだった。

 クモナポレオンによる凶行は続き、沖生物学研究所でほぼ同様の手口で若い男性が殺害され、事件を報じた新聞を立花藤兵衛が忌々しそうに叩きつけた時には被害者は13人に及んでいた。はっきり数が分かる中ではGOD悪人軍団によるものとして最大の被害状況だった。
 直後、COL店内に敬介が入って来たのだが、その時敬介はナポレオンの絵を携行していた。絵の存在は藤兵衛も知っていたようで、2人の会話から、犠牲者達の元に、被害に遭う数日前に必ずナポレオンの絵が届けられていたことが伺われた。

 次は何処の誰にこの絵が贈られるのだろうか、と疑問を抱く藤兵衛だったが、その絵は「野中健一郎」という表札の掲げられた家に贈られていた。例によって絵の中のナポレオンがその目を明滅させたのだが、その気配を察して、偶然その家に泊まっていたチコとマコが起き出した。

 チコとマコがナポレオンの絵がある部屋に来るも特に異常はなかった。だが、同様に気配を察してその家の主人・野中の妻、娘、息子・至(岩渕英二)も部屋に来ており、5人が5人ともただならぬ気配に不安を抱いていた。
 直後、マコは水の滴るような音と共に、絵の中のナポレオンが水に濡れた姿をしていることに気付いた。程なく、絵の中のナポレオンは段階的にその顔をクモナポレオンのそれに変じ、不気味な笑い声と共に絵の中から出て来たのだった。

 クモナポレオンは洋館の主人である野中博士が何処にいるのかを野中一家に詰問。怯える野中夫人が、亭主がアメリカに行って留守であることを告げると、相手が女性と知ってか、突然クモナポレオンは紳士的な態度に出た。
 どうも、多くの人々の血を流したことで「悪人」(←フランスと戦った諸外国から見れば分からない見方ではない)とされる一方で、一時的にでもフランスを一大強国にのし上げたナポレオン・ボナパルトの英雄性を意識した演出の様だが、はっきり云って、めちゃくちゃ怪しかった
 勿論、GOD怪人である段階で充分怪しいのだが、戦闘工作員達に一同を取り押さえさせながら、妙な外国語交じりで慇懃に接する立ち居振る舞いは(仮に人間体で展開していたとしても)本当に怪しかった(苦笑)。
 故南原博士を「ドクトル・ナンバラ」と呼び、彼から野中博士に託された設計図を頂きたいと申し出、シラを切ろうとする夫人に、「私はジェントルマンです。レディーに手荒な真似はしたくないのですがね。」と丁寧に述べつつ、武器となる毒蜘蛛を傍らにいた戦闘工作員の首筋に張り付けることでこれを殺害して一同を脅した。
 同じ蜘蛛を野中夫人の頭上に載せ、「私のベビーは美しいマダムが大好きです!」と遠回しに脅迫……………とここまで、散々外国語混じりに話していたクモナポレオンだったが、フランス語が一つもなかった!
 まあ、内の道場主はフランス語に関しては完全に無知だが、「ジェントルマン(gentleman)」も、「レディー(lady)」も、「ベビー(baby)」も英語で、「ドクトル(Doktor)」に云ってはドイツ語である(それゆえ、ドイツ軍人であるデストロンのドクトルG(げー)の名はドイツ語で読みまで統一されていた)ことぐらいは分かる。
 かろうじて、「マダム」だけが正しかったが(「マダム」は英語でいる「Mrs」で既婚女性に用いる。同様に未婚女性に用いる「Miss」に相当する接頭語は「マドモアゼル」)、とにかく無茶苦茶だったな(苦笑)

 まあ、視聴者にはツッコミどころ満載だったが、実際に脅迫されている野中一家は堪ったものでは無かった。居た堪れなくなった至が設計図は自分が持っていると仄めかすと、クモナポレオンはそれまでの紳士的な態度を一変させて至を絞め上げんとしたが、今度はそれを見ていられなくなった夫人が設計図を差し出した。
 早速それを掌中にせんとしたクモナポレオンだったが、そこに敬介が乱入してきた。敬介の言によると藤兵衛からチコ・マコが亭主が留守にしている野中家の護衛を兼ねて泊まりに来ていると聞かされてのことだった。

 突如乱入してきた敬介に対して、「俺の辞書に「不可能」の文字はないのだ!」として敬介への戦意と殺意を露わにするクモナポレオン…………ナポレオンカラーを押し出そうとしていると思われるが、もう良いって(苦笑)

 だが、物云いが怪しくても任務を優先させるだけの分別がクモナポレオンにはあるようで(笑)、クモナポレオンはRS装置の設計図を手にすると即座に野中邸を撤収。敬介がこれを追ってとある海岸に出た時には夜はすっかり明けていた。
 クモナポレオン一味を見失い、その行方を思案する敬介だったが、その時、敬介の足元から蜘蛛の糸が襲い掛かって来た。勿論糸を発したのはクモナポレオンで、敬介の弱点を分かっていると豪語するクモナポレオンは吸血蜘蛛を敬介の顔面に投げ付け、それまでクモナポレオンの手に掛かった犠牲者同様に顔面から上半身にかけてを無数の蜘蛛に覆われた敬介は力なく海中に転落した。
 当然の様に海中からはXライダーが飛び出したのだが、開戦一番放ったXキックは全く効き目を発揮しなかった。しばしの殺陣展開後、Xライダーは二発目のXキックを放ち、これはクモナポレオンをよろめかせ、多少のダメージを与えたかに見えたが、Xライダーはそれ以上に力を失っていた。
 その絡繰りは、不意打ち時からXライダーの右足に絡んでいた蜘蛛の糸で、その糸はXライダーの体からエネルギーを放出し続ける作用を持ち、Xライダーから技の威力と体力を低下させていた。

 追い打ちをかける様にクモナポレオンは蜘蛛の巣ジャングルなる、蜘蛛の巣を覆いかぶせる拘束技で、Xライダーの動きを完全に封じた。単に拘束されているだけでなく、足に絡みついた糸同様エネルギーを奪う効果があるので、もがくXライダーは益々力を失い、やがて眼をかすませ、意識を失った。
 気絶したXライダーに止めを刺さんとして、レイピア(洋細剣)を抜いたクモナポレオンだったが、そこに「待て!」という制止の声が響いた。声の主は崖の上に立つ仮面ライダーV3で、唐突な登場だったが、一応前話で姿を見せているので、よし、としよう(笑)。
 そのV3をクモナポレオンが何者か?と問えば、V3は自分を知らないことを指して、クモナポレオンを「大した珠ではない。」と揶揄。普段気障が似合う風見志郎故、こういう揶揄は他のライダー以上に効く(笑)。
 この挑発に乗ったクモナポレオンは「相手に不足はない!」として即座に崖の上に飛び上がったので、恐らく存在は知っていたのだろう。だが、野中邸にてクモナポレオンが敬介殺害より設計図奪取を優先した様に、V3もまたクモナポレオン打倒よりXライダー救出を優先し、クモナポレオンが崖上に降り立った時にはV3の姿も、蜘蛛の巣ジャングルの中にあったXライダーの姿も消えていた。
 姿を消したV3に督戦の声を上げるクモナポレオンだったが、V3は姿を現さず、クモナポレオンの相手をしている場合じゃないと告げてそのまま消え、後にはクモナポレオンの怒号だけが空しく周囲に響くのだった。

 Bパートに入ると場面はCOLに移っており、店内ではクモナポレオンに全エネルギーを奪われ、いまだ人事不省の敬介を藤兵衛が介抱に努めていた。敬介を見下ろす風見はすぐに敬介の手術を行わなければならないと藤兵衛に告げた。
 顔面を真っ青にしてピクリとも動かない敬介を見れば、緊急に治療を擁する手術か?と考えそうになるが、さにあらず。手術は治療の為ではなく、クモナポレオン打倒の為で、それにはマーキュリー・パワーしかないとのことだった。
 突如現れた「マーキュリー・パワー」という言葉、それは新必殺技・真空地獄車を生み出す為のもので、クモナポレオンを倒す為にはそれしかないとは、随分ピンポイントな話である(笑)
 ともあれ、敬介にマーキュリー・パワーを与える為にはマーキュリー回路を埋め込み、敬介の全血液を交換する必要があり、風見は自分の全血液を敬介に移すと宣言した。

 その間、GODアジトではクモナポレオンキングダークに叱責を受けていた。持ち帰った設計図は真っ赤な偽物だったからなのだが、少しネタ晴らしをすると、GOD悪人軍団の怪人達はこのクモナポレオン以降も呆れる程偽物を掴まされていた(苦笑)。
 ただ、クモナポレオンも全く馬鹿だった訳ではなく、野中夫人から設計図を奪った時の状況を思い出し、夫人が設計図を差し出す直前に至が設計図を所持している風なことを口走りかけたのを思い出した。
 このことで至はクモナポレオンに捕らえられ、そのことを藤兵衛が風見に伝えに来た時、風見は敬介への血液交換中でその場を離れられなかった。設計図は奪われた筈と驚く風見に、藤兵衛が「あれは偽物。」と云っていたから、「敵を欺くにはまず味方から」に則るなら、クモナポレオンが誤魔化されたのも無理なかったかもしれない(苦笑)。
 ともあれ、風見が動けないのを承知していた藤兵衛は、自分が至を助けに行くとして、驚きつつも動けない風見を残して車中の人となったが、程なく藤兵衛もまたクモナポレオンに捕らえられたのであった。

 この間、風見による敬介再改造の進捗は捗々しくなかった。
 マーキュリー回路セット前に血液交換をしていたので、当然この処置は風見の体にも大きな負担を掛けていた。大汗をかき、体をよろめかせながら執刀した風見は施術完了後、電気ショックで敬介を目覚ませる処置を施すと、藤兵衛と至を救わんとして店外に出ようとしたが、何故か電気装置が次々と火を噴き、なかなかその場を後に出来なかった。

 その頃、GODのアジト内では至が拷問に掛けられていた。黒ぶち眼鏡を掛け、がり勉君を絵に描いたような容姿の至だったが、なかなかに根性があり、焼き鏝を押し付けられても、回転鋸を股間に突き付けられても、頑として設計図の在り処(←腕時計の中に隠してあった)を白状しなかった。
 しかし、股間に回転鋸が迫る様は見ている者にとっても怖い者が在り、居た堪れなくなった藤兵衛が口を割りかけたが、そこへハリケーンに乗ったV3が乱入してきた。
 藤兵衛を介抱したV3は藤兵衛に至救出を託して、クモナポレオンを迎撃すべくアジト外に出たが、クモナポレオンと対峙するV3には更にサラマンドラアキレスが加勢してきた。劇場版を別にしても、アキレスは二度甦ったことになるのだが、アポロガイストに白眼視・冷遇されていた割には生き返りに恵まれている奴である(笑)。

 勿論、1対3に怯むV3ではなかったが、どうも手術で血液を大量に失っていることが響いていたようで、クモナポレオンが蜘蛛の巣ジャングルを放つや、あっさり囚われの身となった。悦に入ったクモナポレオンアキレスサラマンドラにV3への止めを刺すよう命じたが、そこへ先とは逆に神敬介がV3救出に現れた。
 どうもクモナポレオンは敬介が死んだと思っていたらしく、無事な姿を現したことに歯噛みしていた。そんなクモナポレオンに「そう易々と死んで堪るか!俺は昔の俺じゃない!行くぞクモナポレオン!」と啖呵切る敬介の腰にはライドルが巻かれていたのだが、その両脇からはレッドアイザーとパーフェクターが姿を消していた。

 再改造は新必殺技だけではなく、新たな変身ももたらしており、掛け声もポージングも変化した。「大変身!」と叫んだ敬介は両腕を垂直に上げ、左右に大きく弧を描くと左腕を引き、右腕を左前方にかざしてジャンプした!
 変身後の容姿は変わらなかったが、大変身を遂げたXライダーが崖上に降り立つと、その背後から一条の爆煙が垂直に上がった(←後々このシーンはXライダーが敵に止めを刺すときのお約束となる)。
 再改造の効果によるものか、直後の格闘戦でXライダーはクモナポレオンを終始圧倒。クモナポレオンの放つ吸血蜘蛛も、蜘蛛の巣ジャングルもXライダーの動きを全く封じることなく、あっさり振りほどかれた。
 そして、技を悉く破られ、戦意喪失状態のクモナポレオンにXライダーの新必殺技・真空地獄車が発動し、クモナポレオンは為す術なく戦死したのだった。

 決着後、改めて一連のムーブメント再生と共にナレーションにて真空地獄車が如何なる技であるかが解説された。それによるとこの技は相手に組み付き、その状態ででんぐり返しを敢行することで相手の頭頂部を何度も地面に叩きつけ、急降下で更なるダメージを頭頂部に与え、敵が戦意喪失したところにとどめのXキックを背後に放つと云うものだった。
 少し回りくどく、今までのライダーには見られなかった技だが、推測するに、これは仮面ライダーシリーズ放映開始直前に東映番組で人気を博した『柔道一直線』と、速水亮氏の柔道選手としての力量が反映されたものと思われる。
 速水氏は高校時代、柔道選手として無敗の成績を誇り、柔道の腕で大学進学も可能なほどその世界に名前が通っていた(何せ、最初の芸名が「姿三四郎」から取って、「炎三四郎」とされた程だった)。そして『柔道一直線』では地獄車と云う技が人気を博し、多くの若者が柔道を目指すきっかけとなる程の影響力を持っていた。
 仮面ライダーシリーズは『仮面ライダーX』が三作品目で、前二作と異なったカラーを出そうと、その設定に様々なアイディアを盛り込まれた形跡が随所にみられる。謂わば、シリーズ的な梃入れが相次いだ訳で、結果的に全35話と云う中途半端且つ短い期間で放映が終わったことを鑑みれば、制作陣の方々には失礼ながら多くのアイディアは功を奏さなかったかもしれない。
 ただ、それでも速水氏が得意とした柔道を活かそうとした姿勢をシルバータイタンは評価したい。仮面ライダー作品にて殺陣を担う主演俳優は、所有格闘技段位が二十段を超える藤岡弘、氏やその藤岡氏以上の殺陣を演じる千葉治郎氏と自然と比較されてしまうのだから、個々の俳優が持つ特技は盛り込まれてしかるべきであろう。

 ともあれ、再改造を経て新たな技とパワーを手に入れたXライダーはクモナポレオンに勝利した。この間、詳細な経緯は不明だが、V3もまた蜘蛛の巣ジャングルから脱出し、アキレスサラマンドラと戦っていた。そしてXライダーが勝利した時、風見がXライダーの勝利を祝うように素顔でその姿を見せ………………再生改造人間が弱過ぎるのは当時のお役立ったとはいえ、ちゃんと決着ぐらいは描かれて欲しかったと思うのはシルバータイタンだけではあるまい(苦笑)。

 マーキュリー・パワーの成果を「大成功」と告げる敬介に風見は四枚目の設計図も手に入ったので、後のことは敬介に任せられるとして、「頑張れよ!」とってその背中をはたく先輩風満載の風見。それに対して、「先輩も頑張れよ!」と云って、お返しとばかりに背中をはたく敬介。驚きつつも、満足そうに顔を見合わせて大笑する風見と一緒に大笑いする敬介………………似た者同士だな(笑)。ともあれ、これにて一つのターニングポイントとなった第28話は終結したのだった。


第28話終了時点の設計図所在
仮面ライダーX陣営:4枚
悪人軍団陣営:1枚
所在不明:4枚



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令和五(2023)年六月一四日 最終更新