仮面ライダーX全話解説

第32話 対決!キングダーク対Xライダー

脚本:伊上勝
監督:折田至
アリカポネ登場

 冒頭ダイジェスト………は今話からなくなっていた。場面はCOL前から、始まり、そこに店を訪ねてきたと思しき一人の女性(森秋子)が立っていた。だが、生憎と店は休みで、扉には緊急連絡先が書かれていた。
 前話の舞台が栃木県の那須で、地方ロケが2週に渡るのはお決まりのようなものだが、張り紙に書かれていた市外局番「0499」は東京と離島のものである(苦笑)。まあ、それはともかく張り紙を見てその場を去る彼女を車に乗った戦闘工作員が監視していたから、彼女が南原博士から設計図を託されたものか、その関係者であることが窺えた。
 直後、アジト内で戦闘工作員がそのことを報告し、彼女が野田幸子という南原博士の教え子であることが明かされた。彼女が設計図の一枚を持っているであろうというキングダークの台詞は現時点では推測の域を出ないが、マークするに値する人物ではあったと云えよう。実際、第25話では恩師である堂本博士に、第26話では教え子である江川博士に託されていた事実もあったことだし。

 ともあれ、その役目は自分に任せろと云わんばかりに一人の男(堀勝之祐)が現れた。そのいで立ちはカンカン帽をかぶり、咥え煙草でステッキをくるくる回すと云う立ち居振る舞いで、洋画に出て来るギャングのボスを意識したものだった。
 大幹部の前で帽子は取りつつも、咥え煙草のままという不遜さを特段咎めることもなく、キングダークは出動を命じたのだが、口にされたその名前はアリカポネ……………………………駄洒落的酷さでは、ヒトデヒットラーに匹敵するな…………まあ、それが面白いと云えば面白いのだが(笑)。

 アリカポネの名が1920年代のアメリカ社会を震撼させ、「夜の大統領」と呼ばれたギャングの大ボス、アル・カポネのもじりであることは火を見るよりも明らかな訳だが、キングダークの出撃命令に「スィー」と答えていた辺り、イタリアン・マフィアの頭目だった実在のカポネの姿が意識されていた(「スィー」はイタリア語の「Yes」)。

 早速行動に出たアリカポネが向かったのは、幸子不在の野田邸だった。そこには幸子の夫・博(山本廉)と一人娘・七恵(山村志津子)がいたのだが、部屋を暗転させ、高笑いとともに現れたアリカポネは「ミセス・サチコにお会いしたいのだが。」と博に迫った…………………無理に怪人のモチーフとなった人物の母国語を交えなくてもいいよ、と思うのはシルバータイタンだけではあるまい(苦笑)。
 ともあれ、突如現れた怪しいを絵に描いたような男に妻に会いたいと云われて会わせる夫などいるまい。まして幸子は本当に留守にしていた。
 ではどこに?ととうアリカポネに対して、知らん、と白を切る博だったが、夫が妻の行き先を知らないなど、アリカポネでなくても信用しないだろう。そして妻に何の用だ?と問う博にアリカポネは南原博士から託された設計図が目的であることを告げた。
 それに対しても「知らん!」を連呼する博だったが、「設計図」という単語を聞いた瞬間博は確かに顔色を変えており、シラを切ろうとしているのは明らかだった。業を煮やしたアリカポネは怪人態となり、引き続き加えていた葉巻から吹き矢を発し、博に命中させたのだった。
 吹き矢を受けた博は気絶(生死不明)。狼狽える七恵に母の居場所を尋ねるアリカポネだったが、七恵も知らないと答えた。だが、実際には知っており、巨大な蟻を張り付けられるや、恐怖によるものか、蟻自体に自白作用があったのか、七恵は幸子が那須にいることゲロし、アリカポネは七恵を人質要因として連行した。うーん、前回のトカゲバイキングによるロリコン描写は市川治氏よりも、不気味さから云って、今回の山下啓介氏があてた方がしっくり来たかも……………(←道場主「山下啓介様!ファンの皆々様!悪気は一切ありません!(土下座)」)。

 場面は移って、那須ビューホテル。そこでは敬介がチコ・マコと共にホテルのプールで水泳に興じていた。恐らく前回の対トカゲバイキング戦後、そのまま束の間のバカンスに入ったと思われるが、楽しそうに泳ぐ敬介を見ていると、改造前に「船乗りになるのが夢」と云っていたが重んじられている様で、個人的には良いシーンと思ってみていた。それにしてもチコとマコが水着になるのはこれが三度目か(嬉々)…………結構、体張ってたのね、この二人。
 そんな束の間の休息だったが、それを破るように敬介宛の連絡が来たことを藤兵衛から告げられた。電話を寄越して来たのはもちろん野田幸子。幸子の言によると、故南原博士の教え子や関係者が組織した南原グループなる組織が存在し、グループとして話し合った結果、グループに託されていた設計図を敬介に託したいとのことだった。
 勿論、敬介は二つ返事で承諾し、顔を知らない幸子が赤い花を胸につけるのを目印とすることを確認して落ち合うことにした。

 待ち合わせ場所に向かう敬介だったが、そこに戦闘工作員達が襲ってきた。勿論敬介の敵ではないのだが、ここから先にはいかせないと云う強い意志の下、数を頼りに執拗に縋って来たので、敬介もなかなか蹴散らせられなかった。
 ただ、その間、藤兵衛が幸子を迎えに行っていた。幸子は南原グループにて敬介の存在を知ってはいたが、初老の男が現れたことで藤兵衛を訝しがったが、名前を聞き、眼前の男がCOLの店長であることを察し、警戒を解いた。名前だけで、警戒を解いていいのか?

 そしてここから腹比べが続いた。
 戦闘工作員達と大立ち回りを演じていた敬介は、藤兵衛が幸子を迎えに行っている間の時間稼ぎは充分として、その場を離れた。だが、立ち上がってきた戦闘工作員達は上手く行ったとばかりにほくそ笑み合っていた。
 というのも、上手く出し抜いたはずの藤兵衛カーには既にアリカポネが迫っており、巨大蟻を張り付けられた藤兵衛は忽ちアリカポネの召使いと化し、幸子とアリカポネを乗せたまま何処かへ走り去った。
 その際、幸子はこっそりと敬介との待ち合わせの目印としていた花を地面に落とし、後から底を調べに来るであろう敬介への手掛かりとした。赤い花一つが然程目立つ手掛かりになるとは考え難いが、田舎の山道ならそれも可能と見ておこう(笑)。

 狙い過たず、花は敬介の見つけるところなったが、これだけでは何のことか分からない。ただ、異変が生じたことを知らしめるには充分だったようで、ホテルに連絡した敬介はチコから藤兵衛がまだ戻らないことを知らされると、藤兵衛のカバンの中にある追跡用レーダーを動かすようチコに命じた。

 藤兵衛と幸子を人気の無い山中に連れ込んだアリカポネは幸子を大木に縛り付け、巨大蟻でもって設計図の在り処を白状するよう迫った。幸子の周囲には数匹の巨大蟻がまとわりついていて、アリカポネ曰く、一匹では催眠アリに過ぎないが、全員で噛み付くと数秒で体中の血を吸い尽くしてしまうとのことで、幸子はこの脅しに屈しかけた。
 だが、間一髪のところでレーダーを追跡してきた敬介が駆け付け、幸子を助け出し、吸って気に仕込んでいたレイピアを駆使するアリカポネとXライダーの一騎打ちとなった。どちらが優勢とも云えない立ち回りだったが、アリカポネは「埒が明かん!」として、洗脳状態の藤兵衛にXライダーを攻撃させ、その場を離脱した。
 幸い、藤兵衛の洗脳は体に張り付いている催眠アリを撥ね退ければ解けるものだったが、その間に幸子は行方をくらましてしまった。

 ホテルに避難したと推測した敬介と藤兵衛だったが、その後五時間経っても幸子の行方は杳として知れなかった。チコとマコはGODに襲われた恐怖から東京に逃げ帰ったのでは?と推測したが、設計図を所持している限り狙われ続けることに変わりはないとして、敬介は逃げた説を否定した。
 考えて見れば、いくら恩師や恩人・親友から託されたものが大事でも、それを持つことで悪の組織に狙われ、命の機危機に曝されるとなると信頼出来る第三者に委ねたくなるのは誰だって考えそうなことである。まして南原グループは敬介の存在を知っているのだから、幸子が再接触を試みてくる可能性は濃厚だった。

 そんな思考を巡らしている敬介達だったが、そこへホテルのボーイが敬介への手紙をもってやって来た。レストランシアターへの招待状で、そこではジャンボアフリカンショーが開催されていた。
 そこでは黒人達が如何にもアフリカの原住民を思わせる様な衣装・槍・大盾でもってダンスを繰り広げ、リンボーダンスなども披露していた。リンボーダンスと云っても、バーには下に向けた短剣が備えられており、なかなかに危険を伴うものでもあった。
 ショーを本気で楽しむチコとマコに半ば呆れる藤兵衛。まあ差出人不明の正体では警戒を解けない敬介と藤兵衛の方が普通である。ましてやいつアリカポネ率いるGODの襲撃があってもおかしくない状況なのである。
 そんな中、程なく正体の主が分かった。幸子である。彼女はショーを見ている観客の多い中ならGODの目を避けられると考えていたのだが、やはりGODの目は光っており、幸子がハンドバッグから設計図を執り出そうとしたところで、ホテルのボーイがハンドバッグを引っ手繰ってしまった。

 これを追わんとする敬介の前に何人もの戦闘工作員達が現れ、ショー会場は騒然となった………………秘密結社が目立ってどうする(苦笑)
 混乱の中、敬介はいつの間にかXライダーに変身していて戦闘工作員達を蹴散らしていたが、別の戦闘工作員達が幸子を捕らえんとしていた。そんな幸子をアフリカンショーに出ていたダンサーの一人があっさりと蹴散らして、「早く逃げなさい。」と云いながら助けてくれた。
 体を張った芸に長けた長身の黒人ダンサーが戦闘工作員を蹴散らせるほど身体能力に優れていても全くおかしくないのだが、多くの人々にとっては戦闘工作員のしょぼさに映るんだろうな(苦笑)。
 まあ、一連のショーや、ショー関係者の活躍は撮影舞台を提供してくれたホテルへのタイアップとしての宣伝を兼ねたものでもあるのだろう。

 ともあれ、ホテルの一室に逃げ込んだ幸子だったが、何とか早い内に敬介に設計図を渡したいとぼやいていたところに七恵を伴って人間態のアリカポネが現れ、設計図を出せと迫って来た。
 自宅にいる筈の娘が悪人に連れられていることに驚きと不安を隠せない幸子にアリカポネは設計図の在り処を云わねば娘の命はないとばかりに詰め寄って来た。これに対し、ハンドバッグの中にあると幸子が答えるとアリカポネは満足気にニンマリ笑うと明日朝茶臼岳まで持ってくるよう告げて、七恵を連れて姿を消した。その際に、アリカポネは七恵と引き換えであることと、幸子一人で来る旨、念を押すように告げた。

 直後、ハンドバッグを取り戻した敬介と藤兵衛が部屋に入って来たのだが、改めて設計図を受け取ろうと云う藤兵衛に幸子は「失くした。」と偽った。
 ついさっき、ハンドバッグの中から取り出そうとしたのに?と訝しがる藤兵衛に幸子は、GODに狙われる身の危険から逃れる為に設計図を渡す振りをして、GODから目をつけられない様に図った、と嘘を重ねた。
 事前に娘の身柄をたてにアリカポネから脅迫されていたことを知る視聴者にしてみれば幸子が掛かる偽りを展開するのも無理はないことが分かるのだが、事情を知らない藤兵衛にしてみれば我が身可愛さから茶番に付き合わされかけた挙句、肝心の設計図も手に入らないと云う理不尽極まりない話を突き付けられたに等しかった。
 そんな藤兵衛を制して、敬介は「失くしたものは仕方ない。」として、自分が幸子から設計図を受け取ったと映ればGODが幸子を襲うこともないので安心して帰るよう促した。
 あっさり敬介が許してくれたことに却って居た堪れなくなったものか、幸子は改めて非礼と紛失を詫びると、駅まで送ると云う敬介の申し出もそそくさと断って、敬介達の前から去った。

 翌朝、茶臼岳にやって来た幸子の前に「尾行られはしなかっただろうな?」と念を押しながら二人の戦闘工作員が現れ、七恵は頂上にいるとして幸子を連行した。
 ロープウェイに乗せられ、更にかなり歩いたところでようやく七恵に会えた幸子はアリカポネの命じるままにハンドバッグの中からコンパクトを出し、その中に隠していた設計図を渡したが、果せるかなアリカポネは「一度GODに逆らった人間は死んで貰う。」として、助命の約束をものの見事に反故にし、幸子も七恵も殺さんとした。
 だが、そこへXライダーが駆け付けた。「どうしてここが?」と訝しがるアリカポネだったが、まあ、幸子の豹変や作り話を敬介ならずともそのまま受け入れる者等まずいないだろう(笑)。かといって、娘を人質に取られている者を詰問したところでまともに回答する訳はなく、結局敬介は「敵を騙すにはまず味方から。」的に、幸子の作り話を受け入れた振りをしつつ、彼女を(彼女にもGODにも気付かれないように)見張っていたのだろう。

 そんなXライダーに対し、設計図さえ手に入れば用は無いと撤収せんとしたアリカポネだったが、Xライダーはアリカポネの手にある設計図を自分がすり替えた偽物だと告げた。「またこのパターンか…………。」と云いたくなるが、考えて見れば様々なことが想定される駆け引きである。
 実際、ショーの最中に奪われた幸子のハンドバッグを敬介と藤兵衛が取り戻してから幸子の部屋に行く前に中身を敬介が確認していたとしても全く不思議はない。一方で、設計図は偽物かも知れないと云われれば、アリカポネならずとも「まさか」と思いつつ、真贋を確かめんとして意識は物に移ってしまうだろう。
 実際、そんなアリカポネの隙を突いて幸子・七恵を助け出したXライダーは即座に設計図も奪い返している。設計図が本物であれ、偽物であれ、Xライダーが幸子と七恵を救うべく、アリカポネの隙を作る為に、設計図は偽物とのブラフをかましたものだったとしても全くおかしい話ではない。

 そんなXライダーの意図はどうあれ、設計図の奪い合いが為され、それに伴う戦いとなったことに変わりはなく、レイピアを得物に抵抗してくるアリカポネは強いとも弱いとも云えなかった。だが、葉巻型吹き矢が命中しつつも効果を上げない(サイズの割には結構出血させていたが、薬物的効果は無かった)となった段階で、すっかり精彩を欠くようになった。
 これを好機と見たXライダーの赤目が点灯すると背後に爆煙が上がり、真空地獄車を発動。アリカポネもこれに抗し得ず最期を遂げた。ところがアジトでは作戦失敗の筈なのにキングダークが高笑いしながら、設計図は必ずすべて手に入れると宣言しながら遂にその巨体を立ち上がらせ、その姿をXライダーの眼前に曝した。
 かくして両者は遂に初の対峙を遂げた。ただ、戦闘には至らず対峙したまま第31話は終結。サブタイトルにあった「対決」は為されず、前話サブタイトルにあった「立て!」は今話で為され…………話数とサブタイトルがずれてないか?


第32話終了時点の設計図所在
仮面ライダーX陣営:7枚
悪人軍団陣営:1枚
所在不明:1枚



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令和五(2023)年六月一四日 最終更新