仮面ライダーX全話解説

第33話 恐怖!キングダークの復しゅう!!

脚本: 村山庄三
監督: 内田一作
ムカデヨウキヒ登場

 冒頭、薄暗い林の中を一人の中国人少女(田中澄江)が駆けていて、それを敬介が追っていた。追うと云っても、敬介も少女も笑顔で走っており、さながら両者で戯れているようだった。
 そして敬介が少女の髪に花を指すと、微笑んだ少女が次の瞬間悲鳴を上げたところで敬介は白昼夢から目覚めた。夢の内容に驚いていた敬介だったが、そこに悲鳴が聞こえ、驚いたことに夢に出て来たのと同じ中国人少女が、GOD戦闘工作員達に追われていた。

 逃げる少女が中国人風なら、追いかける戦闘工作員達も中国人が良く被るような帽子を被り、服装も中国風なら、得物までヌンチャクだった。
 こうなると追う方も逃げる方も怪しいが、勿論見過ごしに出来る敬介ではない。間に割って入り、「女の子に何しやがる!」と凄むが、武器を振り回して襲うなんて、誰が誰にしてもアカンやろうが(苦笑)
 まあ、それはさて置き、使用するのにそれなりの技量を要するヌンチャクを振り回す戦闘工作員と、それに対してサマージャケットを巧みに利用して防戦する敬介との殺陣はなかなかに新鮮だった。

 程なく、戦闘工作員達を蹴散らした敬介は少女を保護せんとして、そこで初めて少女の容姿が夢の中に出て来た少女と同じであることに気付いた。
 直後、場面はCOLに移り、沈痛な少女をチコとマコが挟んで面倒を見ているのをカウンターで遠巻きに見ていた敬介と藤兵衛の会話によると、少女はヤン博士なる人物の娘で、ヤン博士は南原博士の設計図を託された一人で、それが為にGODに狙われ、妻と共に殺されたとのことだった。
 敬介の推測では、GODはヤン博士夫妻を殺害したものの、設計図自体は入手出来ず、娘がそれを持っていると推測して、娘を追っていたのでは?となっていた。
 「ヤン」というのは、中国人に比較的多くみられる「楊」姓の発音と見られるが、そうなると少女が中国風の服を着ていることも、彼女を追っていた戦闘工作員が中国風なのも納得がいくし、突如二親を殺されたとあっては、沈痛な表情になるのも当然である。ただ、年端も行かぬ少女がたった一人で異国の地である日本で逃げ惑っていたのは不可解だった。

 ともあれ、敬介一同は少女に同情し、COLで少女を預かり、匿うこととなった。そして傷心の少女を慰める為、遊園地に連れて行ったのだが、最初歓迎していたチコとマコも少女が敬介べったりに面白くなさそうだった。
 べったり、と云っても乗り物を一緒に乗るのにずっと敬介と一緒だっただけで、20代半ばの青年と小学校中学年ぐらいの少女に何らへんな接触がある訳ではないのだが、それでも女子大生二人には敬介独占が面白くないらしい。
 まあ、第8話での水城涼子殉職以来、『仮面ライダーX』には恋愛的な演出は一切なく、チコとマコが敬介に特別な感情を抱いた様子も設定も無かった。ただ敬介が女心を介さないとからかわれ、「若い女性との接点がないから」と呟いた際に「私たちがいるのに!」とややむくれていたこともあったから、やはり年頃の男性が自分達に目もくれず、他の女性とばかり一緒にいるのは不快なものだろうか?
 まあ、内の道場主もその辺りの機微を弁えないから、五十路を迎えてもまだ独り者で………ぐえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ(←道場主の骨破筋交い絡みを食らっている)。

 そんな二人を藤兵衛が宥めつつ、時間は流れてランチタイムとなったのだが、突如敬介が姿を消していた。訝しがる藤兵衛・チコ・マコだったが、程なく敬介が姿を見せた。
 だが、様子はおかしく、敬介は長い時間ともにいた筈の少女を訝しがるようににらみ、少女はその視線から目を反らし、眩暈がすると云って倒れ込んだ。
 藤兵衛が病院に連れて行こうとするのを、「少し横になれば」と少女が拒むので、藤兵衛は敬介に彼の部屋に連れて行って休ませることを命じた…………少女がもう少し年齢を経ていれば、かなりの問題行動だな(苦笑)。

 ベッドに横たわった少女は少し休めば楽になるからとして、一人にして欲しいと懇願。まあ、年端がいかないとはいえ、10歳前後の少女ともなれば側に男がいて見張られている状態で熟睡出来ないと云われれば、疑う訳にもいかない。
 敬介が部屋を出ると入れ替わるようにチコとマコがやって来て鍵穴から部屋の中を覗いた。しかし、鍵穴から部屋の中が見れるなんて、昭和中期までだろうな(笑)。
 すると部屋の中ではむっくり起き上がった少女が部屋の中を家宅捜索していた。驚いて部屋の中に這ったチコとマコが見たのは顔色を真っ白にして、上部に湾曲した2本の犬歯を持つ変貌を遂げていた少女だった。
 驚いて逃げんとするも、当然背後のドアは開かない(苦笑)。驚き、怯えるチコとマコに少女は自分の美しい素顔が見れる二人は運が良いとして、扇子で顔を覆うとGOD悪人軍団の一人であるムカデヨウキヒの素顔を露わにした。しかし、いくら白面・黒眼で女性らしく振舞っても、それで美貌を自慢されてもなあ(苦笑)。

 ともあれ、チコとマコの悲鳴を聞きつけた敬介が部屋に飛び込んだ時には、部屋の中にはムカデヨウキヒしかいなかった。敬介がベッドで寝ていた筈のヤン博士の娘の行方を尋ねるも、ムカデヨウキヒが答える筈もなく、「命が惜しければ設計図をお寄こし!」とストレートな要求を突き付けて来た。女性怪人故にこういう口調になるのは分かるが、それでも「お寄こし!」というやや丁寧な命令形が笑えるのはシルバータイタンだけだろうか?(ちなみに道場主の妹もムカデヨウキヒの云い回しを笑っていた)
 まあ、何の条件もなしにいきなり寄越せと云われて敬介が「はい、どうぞ。」と云う筈もなく、欲しければ腕づくで奪えと返したのだが、その直前の「ざけんな!」の台詞が気になった………この時代より少し後の時代のヤンキーじゃないんだからさぁ………。

 それはともかく、腕づくで奪えと云われたムカデヨウキヒムカデヨウキヒで戦闘工作員達に敬介襲撃を命じた。その命令に呼応して部屋の中に入って来たのは冒頭で少女を追っていたのと同じスタイルの戦闘工作員で、再度ヌンチャクを得物にした殺陣が展開された。
 ヌンチャクによる攻撃は通常の戦闘工作員よりは敬介を苦戦させたようで、敬介は早々にXライダーに大変身。変身後、Xは戦闘工作員から奪ったヌンチャクで見事な殺陣を展開した。恐らく、ヌンチャクは殺陣用に打たれても危険の無い素材を用いて作られたものを使用したと思われるがなかなかに痛そうだった。
 それにしても、ヌンチャクを違和感なく駆使し殺陣を展開する大野剣友会の方々の技量には改めて畏れ入る。ヌンチャクと云う武器が一般的な刀剣・棍棒・槍・杖に比べれば一定以上の技量なり訓練なりを必要とするのは刑場からも一目瞭然である。
 恐らくは中国人楊貴妃をモチーフとした改造人間であるムカデヨウキヒの特色を出す為にヌンチャクを用い、それに合わせてそれなりの修練を積んだと思われるがそれでも少なくとも付け焼刃には見えなかった。単に中国カラーを出すだけなら、青龍刀でも良かったが、技量を要するヌンチャク殺陣を演じきったのは見事である。
 贅沢を云えば、普段から敬介やXライダーにはもっとヌンチャクを使って欲しかった気もする。カンフー映画の影響からヌンチャクを中国拳法の武器と思っている人は多いが、元々は琉球武術の武器である(勿論中国武術にもヌンチャクから派生した類似の武器は多いのだが)。神敬介が沖縄の水産大学の学生だった当初の設定を思えば、ヌンチャクを得物としたアクションを多目に盛り込んでいて欲しかったと思うのは贅沢かな?

 さて、戦闘工作員に続いてムカデヨウキヒもまたヌンチャクを得物としていた。このムカデヨウキヒ、弱い訳ではないが、さりとて格別膂力に優れている訳でもなかった。恐らくは様々な得物を駆使する器用さでカバーすることで有利な勝負運びをするタイプなのだろう。  程なく、ムカデヨウキヒはそれ程の不利に陥った訳でもなかったが、必ず復讐する旨を残して撤収した。
 そんなムカデヨウキヒを戦闘と云う意味ではキングダークも期待していなかった様で、アジトに戻った彼女を一喝し、「誰が力づくで設計図を奪えと云った!?お前のその美貌に物を云わせ、神敬介から騙し取れと云ったのだ!」と叱責していた…………「美貌に物を云わせ」って、云われてもなあ(苦笑)………過去作でも書いたことがあるが、怪人態で無理があるのは勿論、人間体でも年端も行かぬ少女ではなあ(苦笑)。

 そんなキングダークを前に、敬介の前での高飛車振りもどこへやら状態のムカデヨウキヒだったが、叱責しながら立ち上がったキングダークはもはやそんなムカデヨウキヒ達に任せておけないとばかりに、自分が設計図を奪い取るとして、敬介を悪魔の墓穴へ誘い出す様命じた。ついに大巨人キングダークがその巨体を駆使して始動するのか、と期待が高まるシーンだったが、前話ラストでのXライダーとの対峙は何だったんだろう?

 場面は替わってCOL。店内に入って来た敬介はそれまで少女やチコ・マコの行方を捜していた様だったが、手掛かりすら掴めず戻って来たところだった。するとそこへ少女の助けを求める悲鳴が聞こえ、店外に飛び出すと今まさに少女が車に乗せられて戦闘工作員達に拉致されようとしているところだった。
 少女の正体がムカデヨウキヒであることを知る視聴者には白々しいまでの茶番でしかないが(笑)、いくらこの時点で正体を見ていなかった敬介とはいえ、行方不明だった少女がいきなり店の前で攫われるタイミングにわざとらしいものは感じて欲しかった(苦笑)。

 当然、敬介はバイクを駆って少女を乗せた車を追った訳だが、車内にいた少女=ムカデヨウキヒには予定通りの行動である。山間の車道で突如車はかき消すように姿を消し、眼前で消えた車の行方を訝しがる敬介だったが、そこにまたも少女の悲鳴が聞こえて来た。
 悲鳴の方向を見れば、吊り橋の上にて少女が戦闘工作員達に連れ去られようとしていた。バイクを乗り捨ててこれを追った敬介はやがて洞窟内に誘われ、落とし穴に落とされた。
 穴は然程深いものでもなく、敬介はあっさり底に降り立った。するとそこにはチコとマコ、そして一体のしゃれこうべが待ち受けていた。

 二人の無事を安堵する敬介の耳に飛び込んできたのはしゃれこうべを媒体としたキングダークの声。敬介が罠に落ちたことを嘲笑うキングダークだったが、それに対して敬介はアジトを突き止める為にわざと乗ったもので、それが負け惜しみでないことを証明する様に、ヤン博士は一週間前に家族と共にスイスのジュネーブに行っているのを先刻承知していたとして、本物のヤン博士の娘の写真を見せた。
 その情報収集能力を褒めるキングダークだったが、命が惜しければ設計図の在り処を云え、とムカデヨウキヒ同様にストレートに要求してきた。それに対する敬介の回答は、「冗談云うな。設計図の在り処は死んでも云わん!」だった。
 それに対して、単純に暴力を仕掛けたムカデヨウキヒと違って、キングダークには手段が有り、「云わせてやる!」として洞穴内に毒ガスを流し込んだ。カイゾーグである敬介はXライダーに大変身することで毒ガスの難から逃れることが可能だったが、生身のチコとマコには難から逃れる術が無かった!
 気を失い、顔色を変えた二人を助けたければ答えろとばかりにキングダークは再度設計図の在り処を尋ね、Xライダーは渋々クルーザーに隠してあることを告げ、キングダークはクルーザーを呼び寄せることを強要してきた。
 やむなくそれに応じ、Xライダーはクルーザーを呼び寄せたのだが、岩壁を破って現れたのはクルーザーと、それに搭乗していた仮面ライダーV3!驚きつつも、XライダーはV3と共にチコとマコを破れて出来た壁穴からチコとマコを連れ出して危地を脱し、さしものキングダークも(媒体の髑髏が文字通り)歯噛みするしかなかった。

 とある渓流の川原で、チコとマコを介抱しつつ、敬介は風見志郎に対してチコとマコと、そして設計図が無事であることに礼を述べた。恐らく本物のヤン博士の情報を得た際に本人から託されたものと思われる。
 風見は何らかの形で敬介の危機を知ってかけつけたとのことで、程なく、チコとマコも無事目を覚ました。助かったことを安堵する二人に敬介は風見先輩のお陰と説いたのだが、二人が風見に礼を述べる間もなく、「喜ぶのはまだ早い!」というムカデヨウキヒの声が響いてきた。
 四人が声のした方を見ると、そこには吊り橋の上で藤兵衛を人質に取り押さえていたムカデヨウキヒがいた。

 状況から明らかだが、ムカデヨウキヒの要求は藤兵衛と設計図の交換だった。勿論かかる状況で藤兵衛が何と云ったか、長年のライダーファンに説明の必要はあるまい。
 ともあれ、ムカデヨウキヒの要求にどうしたものかとの躊躇いを見せた敬介だったが、「藤兵衛の教え子」として敬介よりも一日の長がある風見は設計図を渡すことを即断した。
 それでも躊躇いを見せる敬介だったが、そんな中、ムカデヨウキヒが交渉に気を奪われた隙を突く様に、藤兵衛は吊り橋から身を乗り出し、飛び降りてしまった!
 立花藤兵衛という漢(おとこ)、過去にも「教え子である仮面ライダー達の足手まといになるぐらいなら………。」と考えて、何度も人質状態から自害を図ったことがあった(←その主なものは今回同様高所からの飛び降りで、詳細は過去作「奮闘!立花藤兵衛」を参照されたし)。作中にてはっきり明言された訳ではなかったが、風見が設計図譲渡を即断したのも、そんな藤兵衛の性格を敬介より熟知していて、「早く渡さないとおやっさんは飛び降りかねない。」との懸念を持っていたからと思われる。

 勿論、そんな藤兵衛の行動に敬介も(ある程度の懸念を持っていた)風見も、チコとマコも、そしてムカデヨウキヒも驚き、チコとマコは藤兵衛が迎えるであろう無残な最期から顔を逸らさずにいられなかった。ちなみに描写的にはムカデヨウキヒが一番驚いていたと思う(苦笑)
 だが、そんな藤兵衛の男らしくも危なっかしい性格を風見よりも先に教え子になった男が予見し、控えていた。その者の名は仮面ライダー2号!
 吊り橋から落下中の藤兵衛の体を2号ライダーは素早く抱き止めて着地。藤兵衛の無事を確かめるべく駆け寄る敬介・風見・チコ・マコに、「敬介!志郎!」と教え子の名を呼びながら一文字隼人(佐々木剛)を伴って駆け寄って来た。

 藤兵衛の無事を喜びつつも、その無茶振りを個々に咎めずにはいられない敬介・風見・一文字。バツが悪そうに自分が飛び降りたことを弁明する藤兵衛。それでもそんな会話が交わせるのも藤兵衛が無事助けられたからこそで、ひと段落したところで敬介は眼前の人物について藤兵衛に尋ねた。
 これに対し、藤兵衛に代わって風見が、目の前の人物こそが仮面ライダーの先輩である2号・一文字隼人であることを紹介した。紹介を受けて一文字も名乗り、「君がXライダーか?」と問い返した。恐らくは風見から神敬介・Xライダーのことを聞いてはいたのだろう。
 敬介が名乗り返すと二人は握手を交わし、それを祝すように風見が両者の手を握り、三人ライダーが揃えば怖いものなし、と断言して嬉しそうに三人の握手に自分の両手を重ねた……………ファン待望の実に感動的なワンシーンだが、これが敬介と一文字の初対面なら、劇場版や第27話での講釈シーンと整合性が付かんな(苦笑)

 だが、再会や邂逅を喜ぶのを妨害する様にキングダークは即座に次の手を打ってきた。キングダークは「小さく前に倣え」的なポージングで念動力のようなものを発動。すると火山が噴火し、敬介達のいた場に岩石が雨霰の如く降り注ぎ、敬介・一文字・風見は岩の雨に呑まれた。
 キングダークは即座にムカデヨウキヒにXライダーの死体を探し、設計図を奪うよう命じたが、掛かる攻撃で仮面ライダーが死ぬ筈もなく(笑)、捜索に現れたムカデヨウキヒと戦闘工作員達の前に滝の上に立つ三人ライダーが出迎えた。
 V3は「こっちはキングダークだ。」というと2号と共にその場を立ち去り、Xライダーは単身ムカデヨウキヒと戦闘工作員達を迎撃した。

 今回何故かヌンチャクを用いなかった戦闘工作員達はあっさり蹴散らされ、格闘は不利と見たか、ムカデヨウキヒもろくに戦わず戦線離脱せんとした。だがすぐに追いつかれやむなく応戦せんとしたムカデヨウキヒはカラス爆弾(文字通りカラスを象った飛来型爆弾)、ヌンチャク、鉄扇に仕込んだダーツと云った多彩な武器を駆使してそこそこ善戦した。
 だが、悲しいかな、それらの攻撃はそこそこXライダーの体を捉えるも、有効打にはほど遠かった。僅かにヌンチャクを首に巻き付けることで一時的に別のヌンチャクでXライダーを滅多打ちにする展開を見せたが、それとて致命傷を負わせられるでもなく、振り解かれると優勢は失せた。
 結局、飛び蹴りを食らってダウンしたところでXライダーを一時見失い、気が付いた時にはXライダーは崖の上にいて、複眼を赤く点滅させ、背後に爆煙を上げると真空地獄車を発動した。
 それまでの戦闘でも押され気味だったムカデヨウキヒにこれに抗する術はなく、彼女もまた敢え無く戦死したのだった。

 この間、2号とV3はキングダークのアジトに乗り込み、キングダークと対峙したのだが、キングダークは毒ガスを撒いて二人ライダーを(文字通り)煙に巻いただけだった。毒ガスは多少2号・V3を苦しめるも、これまた決定的なダメージはもたらさず、結局煙の向こうにキングダークの巨躰を捉えた2号とV3が飛び掛からんとするも、岩壁のシャッターが下りて来て、直後にムカデヨウキヒを倒したXライダーが駆け付けるもそれ以上の追撃はならず、キングダークは、今はライダー達と争っている時ではなく、改めて決着を付けるとの捨て台詞を残し、第33話は終結した。

 ここでちょっと個人的な所感を。
 第22話よりキングダーク率いる怪人軍団として登場したGOD悪人軍団の構成怪人達は、歴史(伝説を含む)上、「多くの人々の血を流した」とされる「悪人」の血筋を引く者、またはその化身として、そこに動物の能力を移植した改造人間とされている。
 コンセプトは面白いのだが、その「人選」には「?」と云いたくなる者も混じっている。

 私欲の為に罪の無い者を手に掛け続けた石川五右衛門やアル・カポネを「悪人」とするのは分かる。また独裁者アドルフ・ヒトラーや、侵略戦争を多発したジンギスカン、ナポレオンが敵味方関係なく戦争当事国の民から「悪人」と見做されたことも理解出来ないでもない。
 自衛の為に多くの敵兵の血を流したジェロニモが白人から「悪人」と見做されたこともギリギリ理解出来る。そんな中、楊貴妃を「悪人」とすることにはシルバータイタンは異を唱えたい。

 確かに唐代の中国において、楊貴妃と云う存在が遠因となって、安史の乱が起こり、多くの血が流れた。だが、これは彼女の責任ではなく、彼女の身内であることを傘に着て横暴な権勢を振るった楊国忠、それと対立した軍人・安禄山の勢力争いで、責任で云えば彼女への寵愛で政治を疎かにして権力争いを抑えられなかった玄宗皇帝のそれの方が余程大きい。
 ただ、世の中、真の責任者に矛先が向けられるとは限らず、男尊女卑が強かった時代のせいもあってか、楊貴妃は「玄宗皇帝を篭絡して世を乱した悪女」として乱の責任を取る形で暴走した兵士によって処刑され、玄宗皇帝もこれを止められなかった。
 謂わば、彼女は巻き込まれただけの被害者にも等しい存在だった訳だが、今も昔も男は美女絡みの話が好きで、その後も長く楊貴妃は「傾国の美女」として、その美貌を讃えられつつも、世を狂わせた悪女の如く云われてきた。
 昨今は歴史に対しても様々な物の見方が加わり、一般に「悪人」とされてきた人物も単純な善悪論で語られなくなったが、『仮面ライダーX』が放映された頃にはまだまだ楊貴妃に対するそんな見方が強かったのだろう。
 「所感」と云いつつ、長くなったが、かかる考察を経て、やはりシルバータイタンは「楊貴妃」を「悪人」とすることに異を唱えたい次第である。


第33話終了時点の設計図所在
仮面ライダーX陣営:7枚
悪人軍団陣営:1枚
所在不明:1枚


次話へ進む
前頁へ戻る
『仮面ライダーX全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

令和五(2023)年六月一四日 最終更新二二/p>