仮面ライダーX全話解説

第9話 Xライダー必殺大特訓

脚本:伊上勝
監督:内田一作
マッハアキレス登場

 前話にて水城姉妹が殉職したことで、OPラストのナレーションは敬介が父と共にGODに殺され、瀕死の父の手で改造されてGODを戦う旨を語った内容となり、涼子・霧子の名前は消え、この第9話以降、ナレーションはこの内容で固定された。悪い訳じゃないが、なんか寂しいのう………。

 ともあれ、冒頭だが、危機を告げる半鐘が打ち鳴らされる山村から始まった。村人達は怯える様に逃げ惑っていたが、ナパーム弾を駆使するような物騒な足止めを食らった。
 やがて現れたGOD怪人アキレスによって村人達はドリームヴィールスなる薬物を吹き矢で首筋に打ち込まれるや、自我を失った人間宜しく、無表情となってアキレスの操り人形となった。
 アキレスは村人達が人体実験の材料であることを宣し、次の指示があるまで普段通りの生活を送るよう命じた。この時点ではまだ明白ではなかったが、GODには一村丸ごと支配することで集団を動かす大きな目的があったようだった。
 となると、村から一人の人間も逃がさず、外部からの接触を遮断する必要が出て来る。直後に草陰に潜む何者かに気付いたアキレスはその場を調べさせた。そこにはミキ(下野輝美)という少女と、その母(安藤純子)が潜んでいたのだが、逃げ切れないと見た母は敢えてミキを崖下に滑らせ、自らは捕らえられて尚黙秘していたが、アキレスによってドリームヴィールスを射たれるとあっさり崖下に逃がしたことを白状してしまったのだった。

 勿論、ミキを逃がすまいとしてアキレスに命じられた戦闘工作員達が追跡に掛かったのだが、そこに低音ながらもよく通る高笑いが響いてきた。
 声の主は崖の上に立つ白いスーツに黒ネクタイの男(打田康比古)で、その態度に怒りを覚えて飛び掛かって来たアキレスを軽く躱すと、次々襲い来る戦闘工作員達を打ち倒したのだが、そのアクションには実に無駄がなかった。
 戦闘工作員が男に殴りかかる、或いは掴みかかろうとして触れるか触れないかの距離に迫った時にはその鳩尾や首筋に当身が飛んでいた。

 戦闘工作員達を打ち倒した男はハンカチでスーツを払う潔癖・気障振りを披露。
 何者か?とのアキレスの誰何も無視し、Xライダーの仲間か?と問われても含み笑いしか返さない男に業を煮やしたアキレスは背中のグラディウスを抜いて斬り掛かるが、男は軽く躱し続け、アキレスの短気振りを「瞬間湯沸かし器」と揶揄してバイク似て立ち去った。
 アキレスはこれを追わんとしたのだが、そこにケンタウロスの彫像を介してGOD総司令の命令が伝えられた。それによるとドリームヴィールスの大量生産が三日後に完成するので、それまで村の機密を守り通せとのことで、アキレスは正体不明の気障男を置いておいて、ミキを探してその口を封じんとした。

 場面は変わって、とある荒野。そこではバイクを駆る神敬介を立花藤兵衛が見守り、タイムを測っていた。
 藤兵衛の見果てぬ夢は自分の手でグランプリレースの優勝者を育てることで、最初の教え子である本郷猛との関係は正にそこから始まっていた。一方の敬介は第2話冒頭にて父と人間としての肉体を失った悲しみを、バイクを疾走させることで紛らわそうとしていた。
 恐らくは敬介がバイク好きであることを知った藤兵衛が自分の夢を話し、敬介の同調したのだろう。「もう一周してきます!」と云ってリスタートした敬介を頼もしそうに見つめながら、藤兵衛はかつての教え子達がグランプリレース優勝者になれる力を持ちながら、悪との戦いの為に世界に散っていった過去を思い出し、本郷以上の資質があると目する敬介に期待しつつ、それが悪の組織との戦いに阻害されやしないかを懸念していた(一文字隼人がレースの訓練するシーンって、有ったか?そもそも当時無免許だったし(苦笑))。

 そうしてバイクを駆る敬介だったが、突然その眼前にミキが現れた。辛うじてこれを躱した敬介は、倒れ込んだミキを介抱せんとしたが、ミキは無表情で言葉一つ発しない。
 駆け付けて来た藤兵衛共々、ミキが強いショックを受けていると見た敬介は彼女を病院に運ばんとしたが、直後にそれを戦闘工作員に見られていた。
 戦闘工作員達は、ライフルの狙撃で敬介と藤兵衛を引き離すと、ローラースケートを履いた戦闘工作員達が敬介の周囲を旋回し始めた。単純にローラースケートで敬介を包囲するように回っているだけのアクションだったが、ローラースケートは踵部分から火を噴くような特殊仕様で、単調でも素早い動きは一種の催眠効果をもたらす様だった。
 辛うじてその影響を脱した敬介だったが、陽動作戦としては成功しており、敬介に促されてジープでミキを病院に運ばんとしていた藤兵衛にはアキレスの魔手が迫っていた。立派に活躍しているじゃないか!戦闘工作員の諸君(笑)

 時速60qで走る藤兵衛のジープに並走しながらミキを渡せと脅すアキレスに対し、驚きつつも加速して逃れんとする藤兵衛だったが、戦闘工作員同様ローラースケートを駆使するアキレスは加速したジープにもあっさり追いついた。
 その頃、業を煮やした敬介はXライダーにセタップ。戦闘工作員相手にライドルロープまで駆使して戦っていたから、この時の戦闘工作員はなかなか善戦したと云える。が、如何せん時間稼ぎが精一杯で(苦笑)、Xライダーは藤兵衛がドリームヴィールスを撃ち込まれるのも何とか阻止出来た。

 かくしてここに仮面ライダーXVSアキレスの第1ラウンドが展開された。ライドルスティックとグラディウスによる撃剣での殺陣が続き、どちら優勢とも云えなかったが、勝負は突如起きた爆発で水入りとなった。
 爆発が収まるとそこにアキレスの姿はなく、Xと藤兵衛はGODの企みを暴く為にもミキの記憶を戻す必要がある、として引き上げた。だが、アキレスは隠れていただけでその場を去っていなかった。
 アキレスは爆発を起こして勝負を邪魔した者に出て来いと怒鳴りつけ、それに呼応して前話で度々姿を見せていた怪人物が現れ、アポロガイストと名乗った。何者なのか?というアキレスの詰問を無視して、アポロガイストアキレスに己が任務の優先順位を間違えないよう説いた。
 作戦遂行前にXライダーに敗れたらどうする?と問われて激昂するアキレスだったが、その様にすぐに頭に血が上るところが欠点だと云われ、「どこかで聞いたような………。」と呟いた。声のことを云っているのか、云われた内容のことを云っているのかは不鮮明だが、この時点でアポロガイストが最前の白スーツと同一人物であることに気付かないのだから、アキレスは耳が良くなさそうだ(苦笑)。
 ともあれ、アポロガイストアキレスに冷静になって、ミキの口を封じるよう促すのだった。

 Bパートに入ると既に敬介と藤兵衛は次の手を打っていた。報道機関を通じてテレビにてミキを記憶喪失の少女として紹介し、心当たりのある身内に名乗り出ることを求めた。悪の組織の存在を警察にすら隠す藤兵衛達にしては珍しい行動パターンだ(笑)。
 また、その間、敬介はいずこか(多分城北大学(笑))で吹き矢の鑑識を行っていたようで、薬物が塗られていることは確認できたが、詳細は分からなかった。すると相も変わらず無表情・無言のミキが吹き矢に心当たりがあるかのような、仕草を見せたので、敬介が吹き矢を近づけるとミキは泣き出してしまった。
 吹き矢とミキの状態に何らかの関係がありそうなのと、現時点で他に手掛かりが無いは分かるが、「もっと近づけて見ろ。」と促す藤兵衛酷過ぎ(苦笑)。さすがに敬介は落ち着かせてからにしましょう、として吹き矢を胸ポケットにしまったのだが、直後、COLに一人の男性(三上剛)が現れ、ミキの父親と名乗った。

 ドライブ中にチョット目を離した間にミキがいなくなったとのことだったが、敬介の表情からも掛かるタイミングで現れた男が疑われているのは明白だった(笑)。とはいえ、この男がほんとの父親であろうとなかろうと、手掛かりにはなる。敬介は車に乗せられたミキを見送ったのだが、当然の様に尾行していた。
 車内でミキを他の村人達同様に洗脳しようか、と思案していた男は案の定、偽物だった訳だが、ここでミキの記憶が戻り、直後に車の天井にへばりついていたXライダーが乱入した。

 クルーザーを呼び寄せてミキを助け出したXだったが、当然アキレス達が追ってきた。Xはミキにその場を動かない様に告げてアキレスを迎撃したが、白スーツの男が遠巻きに見ているのに不安を感じた。案の定、男はアポロガイストとなってミキを取り押さえており、これを救わんとするXライダーだったが、それを指咥えて見ているアキレスではなかった。
 アポロガイストはミキの身柄を盾に何かを求めてくるでもなかったから、何処まで勝負に影響していたかは不明だが、掛かる状況では眼前の敵だけに集中出来ないのは想像に難くない。
 どちらが優勢とも取れない勝負展開だったが、これまで放たれれば100%敵を討ち取って来たXキックが躱されたことで勝負は急展開した。脚力に優れるアキレスはその素早い動きでXキックを躱すとXライダーをフルネルソンに捕らえ、高速回転で抵抗力を奪うと河川に投擲し、それを見届けたアポロガイストも、ドリームヴィールス大量生産が終わる三日後までには回復出来まいとほくそ笑んで、ミキを連れてアキレス共々引き上げた。

 場面は変わってCOL。皿を磨いていた藤兵衛の前に現れたのは、顔面に傷を負って、這う這うの体で引き揚げてきた敬介。店内に入るや倒れ込んだ敬介は駆け寄る藤兵衛に、眼前でミキを攫われながら手も足も出なかった無念を吐露した。  「負けたのか?」と問う藤兵衛に「何がXライダーだ!俺は自分自身が恥ずかしい!」と叫ぶ敬介。その落ち込み様に生まれて初めて完膚なきまでの敗北を味わったのだと見た藤兵衛は、「こんな時に先輩ライダーならどうした?」と問う敬介を「甘ったれるな。」と云いたい気に振り払うと、彼等が敗れても敗れてもそれを踏み台に何度でも立ち上がったことを告げた。
 それを聞いた敬介は「俺だって仮面ライダーXだ。」と云って、恥ずべきところを、敗れたことから弱音を吐いたことにシフトした。

 その決意を聞き届けた藤兵衛は、そんなときに1号も2号もV3も特訓と積んだこと助言し、ライダー名物の猛特訓に移った。実のところ、仮面ライダーの特訓シーンはそんなに多い訳ではない。トカゲロン・イカデビルに敗れた1号が2回、アリガバリに敗れた2号が1回、ショッカーライダーズへの対抗策を求めたWライダーが1回、ナイフアルマジロ・死人コウモリに敗れたV3が2回、と僅か6回しかないのだが、それでも特訓の存在感が大きいのは、敗れても敗れても立ち上がることへのメッセージ性の強さゆえだろう。

 ともあれ、Xライダーと藤兵衛による猛特訓が始まった。
 例によって、弱音を吐くライダーと、特訓そのものにおける立花藤兵衛は鬼である。特訓は空中での動きをマスターしようとするもので、青いペイント弾を発する速射砲を高所から飛び降りるXライダーに放ち、着陸時に青マークだらけになったXを「何だ、その様は!?」と詰った。
 だが、周知の通り、藤兵衛の言葉は鬼でも心は仏である。悪との戦いを宿命とした仮面ライダー達を想いつつ、心の中で藤兵衛はXライダーを励ますのだった。

 そしてその様子を遠巻きに視察するアポロガイスト。かくして様々な含みを持って初の前後編となった第9話は終結したのだった。


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令和五(2023)年六月一四日 最終更新