対ゲドリアン……君恩と裏切り

ゲドリアンDataBase
肩書き怪魔異生獣大隊隊長にしてクライシス帝国地球攻略兵団牙隊長
スーツアクター渡辺実(ジャパンアクションクラブ所属)
キャラクターボイス新井一典
主君クライシス皇帝
上司ジャーク将軍
配下怪魔異生獣
武器牙・爪・体術
 怪魔異生獣大隊隊長にして牙隊長ゲドリアンについては当特撮房の「悪の組織の大幹部に学ぶリーダーシップ」だけではなく、「徹底検証、どっちが悲惨?」でも大きく取り上げているので、ゲドリアンジャーク将軍との上下関係の背景・比較対象の為に、
 ■他の三大隊長とのゲドリアン
 ■余所者・シャドームーンとのゲドリアン
 ■査察官ダスマダーとのゲドリアン
の3つの視点から見る対人関係を通して見てみたい。


 まずは他の三大隊長とのゲドリアンだが、旧作や他の三大隊長の項目で書いてきたように、怪魔界で最も暗く寒いゲドラー域出身の他の三大隊長とのゲドリアンは純粋なクライシス人であるボスガン・マリバロンには些か見下され、正体不明の怪魔ロボット・ガテゾーンとは純粋なクライシス人でない者同士でコンビを組むことも多かった。
 とは云うものの、他の三大隊長とのゲドリアンを含む四人はジャーク将軍の指揮下での命令を最優先し、(多少の抜け駆けはあったものの)基本的に内輪揉めを起こす事はなかった。
 ゲドリアンを含む四大隊長はジャーク将軍に忠実で、その中でもゲドリアンはゲドラー域出身者でありながら隊長に抜擢された恩を深く感じている事からも、自身に課せられた命令に不服がある際も、感情は隠さずとも逆らう事はなかった。

 さて、ゲドリアンが隊長職にあることを「抜擢」と著したのは、地球攻略兵団に属する4種の軍属の中で、ゲドリアン率いる怪魔異生獣大隊がかなり弱い連中ばかりだった中で、ゲドリアン自身がかなり優秀な身体能力を持っていたことに依るものである。
 妙なトーンの高い声も、屈伸・四つん這いで動き回る仕草もカッコ良さとは無縁に見えるが、その実、ガテゾーンの駆るバイクアクションに体一つで共闘した素早さ、第42話では徒手空拳でありながら長剣を振りかざすダスマダー相手に有利に戦った格闘能力、クライス要塞のエネルギーを自らの体を媒体として怪魔異生獣ゲドルリドルに送り続けるという自殺技(実際に命を落とした)にも長時間耐え続けた頑丈さを持つ。
 そう、怪魔異生獣は弱くとも、ゲドリアンは弱くないのだ。それゆえにゲドリアンの能力に注目すれば、改めてジャーク将軍が能力主義の前に人(?)を色眼鏡で見ない人物(?)であることが覗え、他の三大隊長にしても、命令と能力にあっては同じ態度で任務に従事している事は複数の幹部が一度に登場するジンドグマ・ゴルゴムと比べても興味深い。


 続いてシャドームーンとのゲドリアンだが、事は第22話でジャーク将軍が仮面ライダーBlackRX打倒の為にゴルゴムの闇の王子・シャドームーンを招聘したことに始まる。そしてこの招聘を露骨に嫌悪したのが他ならぬゲドリアンだった。

 この時、ジャーク将軍は招聘に応じたシャドームーンに隊長職を与えるかのような態度で接したが、クライシス帝国の要人であるジャーク将軍のこと、帝国臣民ならいざ知らず、余所者のシャドームーンを将軍に据える気は更々無く、蘇生時に記憶を無くして尚も失せなかったシャドームーンの打倒仮面ライダーBlackRXへの執念だけを利用せんとしたものだった(この辺り、流石にジャーク将軍も立派な悪の組織の人間である)。
 だが、事前にそれを知らされてなかった四大隊長は激しく動揺。殊にゲドリアン/はシャドームーンが何者か知らない内から掴みかかって、念動力による返り討ちに遭っている。
 恐らくジャーク将軍は意図的に伏せていたのだろう。つまりシャドームーンに対する意図を部下に話すことでシャドームーンに漏れる事を警戒したか、四大隊長なら自分の命令に服してシャドームーンとRXの戦いを邪魔しない、と踏んでいた、と類推される。
 が、ゲドリアンを筆頭に上司命令よりシャドームーンへの敵意と不信を募らせた四大隊長は強化改造を施した怪魔異生獣アントロントにRX対シャドームーンの戦いに割り込ませて二人を抹殺せんとしたが、二人を少し傷つけただけでアントロントは返り討ちに遭い、シャドームーンも敵に回し、四大隊長は怒りのジャーク将軍によって仲良く24時間の痺れ刑に服することとなった。

 ジャーク将軍の意を解さなかったことから痛手を被ったゲドリアン達だったが、それでもゲドリアンのシャドームーンに対する敵意は些かも揺らがなかった。
 第27話で配下の怪魔異生獣・マッドボットが命じた命令とは全然違う作業を行っていたので詰問に向かった所、突然の反撃を受けたゲドリアンは、マッドボットがあろうことか憎きシャドームーンに降伏して将軍職を条件に臣従していたことを知るや、烈火の如く怒り、マッドボットに苛烈な棒刑を加えていた。もっとも、この場合、マッドボットは即刻処刑されていてもおかしくなかったから棒刑の苛烈さは一概にゲドリアンの怒りの程を語れるわけではないのだが。
 くどいが、ゲドリアンは自分の出自に対する劣等感から隊長職に凄まじい執着を見せている。それはジャーク将軍に対する恩義や、恩寵を失う可能性に対するみっともないまでの狼狽振りからも、ジャーク将軍が隊長職任命を持って如何にゲドリアンの心を掴んでいるかが窺い知れる。


 最後に査察官ダスマダーとのゲドリアンだが、何回も触れているようにダスマダーは四大隊長に等しく嫌われていた(ボスガンが偽って指揮下に属したり、ガテゾーンが一時的に組んだこともあったが、好意があった訳ではない)。
 シャドームーンにも激しい敵意を見せていたゲドリアンはダスマダーにも初登場時にぶっ飛ばされていたこともあって、「君側の奸」・「虎の威を借る狐」に対する怒りがついつい目立ち勝ちである。
 だがゲドリアンジャーク将軍の為に怒りを露わにしていたことを見落としてはならない。
 ダスマダーが初登場した第28話で、怪魔異生獣キメラゴメラの敗退の咎でいきなりゲドリアンはダスマダーの念動力で空中に浮かされてから床に叩きつけられる、という辱めを受けた。
 四大隊長は何度もダスマダーに「査察官の分際で!」という罵声を浴びせ続けたことからも査察官という身分がクライシス帝国の公式には隊長よりも低い身分であることが類推されるので、ダスマダーがゲドリアンに罰を加えた事は命令違反である。
 ダスマダーは何度も地球攻略の失敗が続けばジャーク将軍であっても処刑することを仄めかしていたが、「皇帝陛下の命により」という原則を無視できる筈は無い。
 だが、ゲドリアンは自らがダスマダーに危害を加えられたことではなく、ダスマダーがジャーク将軍を差し置いて非公式な処罰や作戦立案を行ったことに対して「命令者はジャーク将軍お一人の筈だ!」と叫び続けた。
 次のコーナーで語るが、ダスマダーの横暴振りは仮面ライダーサイドから見ていても胸糞悪くなるものがあり、ダスマダーの正体がクライシス皇帝その人である事を見ても彼の部下を怒らせるだけでしかなく、どうにも納得し難い。
 本来の意味から些か逸脱するが、「敵の敵は味方」という理屈がある。ジャーク将軍にとって、皇帝の威を傘に最高責任者の彼を差し置いた命令系統外の行動をするダスマダー、ゲドリアン達四大隊長に皇帝・将軍とは異なる処罰・命令をちらつかせるダスマダー。恐らく地球攻略兵団重鎮でダスマダーを快く思うものはいないだろう。だからこそダスマダーに惑わされず自らの任務に取り組まんとするジャーク将軍ゲドリアンの上下関係はかなり明確に見えてくる。
 成る程、ダスマダーは地球攻略ではなく、組織内人間関係の明白化という意味において番組に貢献した訳だ(笑)。

 獣然とした怪魔異生獣を率いているせいかゲドリアンは他の三大隊長に比して人間性より獣性が目立ち、ともすればジャーク将軍との対人関係に単純な上司と部下としてのみで見てしまいがちだが、出自と恩義に見る関係を見るなら間違い無くこの二人の関係は参考になるだろう。


次頁へ
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る

令和三(2021)年五月一九日 最終更新