仮面ライダーX全話解説

第7話 恐怖の天才人間計画!

脚本:長坂秀佳
監督:折田至
鳥人イカルス登場

 冒頭は陰惨且つ物騒だった。何せ年端も行かない少女少女達の投身自殺から始まったのだから………。
 白いマント上の布を纏って高所に立った彼等は次々とジャンプしたが、そのまま空を舞う筈もなく、次々と大地に体を打ち付け命を落としていった。しかもその犠牲者は23人!
 新聞紙上でこれを見て憤る藤兵衛は、GODが絡むと推測する敬介についつい「目的は何だ!?どんな手使って飛び降りさせたんだ!?ええ?!しかもGODが絡んでいるとなるとこれからも事件は起きるぞ!」 と苛立ちを全開させる有様だった。
 出会ってからまだ3週間だが、それまでで最大の怒りを見せる藤兵衛に、「死んだ親父に怒られているみたい。」とどこか懐かし気な敬介が印象的だったが、状況はそんな感傷に浸っていられないほど深刻だった。

 私事だが、この第7話の解説を綴っている時点(令和5(2023)年1月4日)でシルバータイタンは父親に死なれて8年が経過している。
 神敬介が大学生で父を殺されたことに比較すると、40代の時に病気で父に死なれたシルバータイタンは敬介より遥かに長く深く父親の教えと云うものに触れることが出来た。勿論事故・病気に関わらず人間の享年は千差万別だから、敬介よりももっと若く、或いは幼くして親を失う事もあれば、老人になるまで親が生きていてくれるケースもあるから、云い出せばキリがないが、初めてこの第7話は見た時、敬介の台詞に在る様に、親に叱られたことを懐かしく思う心境は全くぴんと来なかったものである(しみじみ)。


 閑話休題。この直後、藤兵衛が懸念した様に24人目の犠牲者が出たのだが、この時点でGODの絡みが描かれた。鉄橋の上に白マントを纏って立っていたのはあや子(蓮見里美)という少女で、少女の頭上では鳥型のGOD怪人・鳥人イカルスが彼女に白服を纏っていれば飛べるから(←勿論大嘘)と飛び降りを唆し、催眠状態と思しきあや子はすっかり飛べると思い込み、鉄橋から身を投げ出さんとした。
 そんな危機的状況を目撃した中年男性が「危ない!」と叫んであや子を止めんとしたのだが、その男性の前には白いスーツ姿の男(手塚しげお)が立ちはだかった。男の正体はイカルスで、この後に発した「俺の邪魔をするものは死あるのみ。」の台詞を実践するかのように、あや子の身投げを止めんとした男性にイカルス・デススモークなる緑色の毒ガスを吹き掛け、哀れにも男性はしばし悶絶した挙句、跡形もなく消滅するという、飛び降りさせられた少年少女に劣らぬ悲惨な最期を遂げた。
 そしてあや子もイカルスの唆すままにその身を投げ出し、23人の少年少女と同様の最期を遂げたのだった………はっきりいって前話に匹敵する犠牲を出しているが、全員が自殺に仕向けられての死だから、陰惨さでは前話以上に酷い話だった。

 24人もの少年少女の命を奪った「少年少女自殺計画」と云うそのまんまなネーミングながら恐ろしい第一段階計画は「見事な成功を収めた。」としてGOD総司令イカルスを褒め、第二段階に移ることを(お地蔵さんを通じて)命じた。
 それは大門博寺士なる人物をノイローゼと絶望のどん底に陥れ、その天才人間研究をめちゃくちゃにすることで博士をGODに引き摺り込むというものだった。
 一人の人間を自分達の意のままに操る為に精神に破壊的な攻撃を仕掛け、自我を破壊するのはよく見られる手法だが、博士と云う能力柄、精神を破壊した相手が役に立つのか疑問を感じるのはシルバータイタンだけだろうか?(苦笑)

 場面は変わって大門寺邸。
 そこでは最前飛び降りて命を落としたあや子の遺体を前にブラックサタンの正木洋一郎博士…………じゃなかった、大門寺博士(小笠原弘)その人が滂沱に暮れていた。そう、あや子は博士の娘で、フィクションと分かっていても年端も行かぬ我が子に死なれた親の嘆き振りは見ていられなかった。
 そしてそこに訃報を聞いて駆け付けたと思しきもう一人の娘・冬子(遠藤薫)が白衣の青年に伴われて飛び込んできて、父親同様その遺体に縋り付いて号泣したのだった。本当に本作にあって屈指の悲惨なシーンだった。
 ちなみに博士の助手らしき白衣の男は最前あや子が飛び降りるのを止めんとした男性を殺害したイカルスの人間体なのだが、視聴者には分かっても、大門寺父子はそれを知る由もなく、ひたすら悲しみに暮れるのだった。

 その頃、あや子の飛び降りた現場を検証していた敬介と藤兵衛は大門寺博士について話していた。丸で誰かに説明するかのように(笑)。
 その説明っぽい会話(笑)によると、大門寺博士は敬介が亡き父からその名を聞いていた程高名で、天才人間の研究もまた世に名高かった。
 その内容は「並の人間の十倍の頭脳と体力、そして正義の心を持つ少年少女を作り出す研究」とのことで、その様な研究が現実離れしていた昭和中期ならともかく、マインドコントロールされた若者による毒ガステロ事件を知る令和の世では些か危ない研究に見えてしまうよなあ…………。
 いずれにせよ、心まで思うように作れる研究となると悪用されると大変なことになると懸念する藤兵衛(実際に悪用した宗教組織はとんでもない事件を起こした)。殊に犠牲者が研究者の娘とあってはその関連を懸念せずにはいられなかった。

 このことを調べんとした敬介は大門寺博士の手元に犠牲となった少年少女の名簿があることを訝しがった。大門寺博士が云うには、少年少女達はある程度成功にこぎ着けた博士の研究成果を試すべく、博士の作った薬を(一応は本人達の同意を得て)服用していたとのことだった。
 研究の協力者だから、その目的から彼等の名簿があるのは納得がいったのだが、そうなると状況的に、普通に考えていの一番に連続自殺の要因として怪しまれるのは薬の副作用で、少年少女達が薬の服用者と聞いた敬介は驚きを隠せず、博士も薬の副作用で少年少女達が命を落としたのではないかと懸念していたのだが………その推測を淡々と話す様はチョット怖いものがあった。
 そして自殺者にして、薬の服用者にはあや子も含まれており、その薬を飲んだ者は一人を除いて全員が命を落としており、残る一人は冬子だった………。しかし、本作を制作する八年近く前に『X-Worldは博士がいっぱい』という作品を作り、敬介の父・神啓太郎を含むマッドサイエンティストを検証したことがあったが、大門寺博士って、かなり危ないのをこの全話解説の為に見返して改めて痛感せずには居られなかった。本人に一切の悪意が無いのは分かるが、それだけに厄介とも云える………。

 かなり重い出だしだったが、ネタ晴らしをするとここからは少年少女の死者は出ない。ただ、この時点で博士は被験者唯一の生存者で、たった一人の愛娘となってしまった冬子を案じて気が気じゃなかった。
 そんな冬子を励ましていたのは博士の助手・瀬山一郎だったのだが、視聴者には彼がイカルスであることが分かっているから、別の意味で気が気じゃない。しかも続く博士の言によると冬子は瀬山に惚れているとのこと………勿論博士の気掛かりは服用者最後の生き残りの冬子が生き続けられるかにあったが、すべてを真顔で淡々と語るこの博士、考えてみればかなり不気味だった(苦笑)。
 とにかくこの時点では敬介にも、大門寺博士にも少年少女の連続自殺が薬の副作用か、GODの仕業かを断定する要素はまだなかった。ただ24人もの若き犠牲が出ている大惨事を前に敬介は何としても冬子を死なせないことを大門寺博士に誓うのだった。
 そんな作中かつてない多くの悲しみの中、あや子の葬式がクリスチャン式で行われ、十字架型の墓標には「マリアエリザベート」と云う洗礼名が記載され、敬介・大門寺博士・冬子・瀬山・神父が参列していたのだが、墓前に花を手向けた直後に冬子が姿を消していることに瀬山が気付いた。
 ただでさえ、博士の薬を飲んだ者達が次々と自殺している状況下で、実の姉の死に相当なショックを受けている冬子の心情を考えればその姿が見えないことはその場にいた一同に大きな不安をもたらした。

 一同が動揺する中、冬子の救いを求める声が聞こえ、その方向に敬介が駆け付けるとそこにいたのは冬子を拉致せんとするGOD戦闘工作員………馬鹿だ………馬鹿過ぎるぞ、こいつら………怪事件故に敬介はGODの関与を疑っていたが、この時点ではまだGODが関与した証拠は何も現場に残していなかったのに冬子拉致に掛れば、「GODが関与しています」と宣言しているも同然だ。一体何がしたかったのやら…………。

 ともあれ追跡した敬介が次々に戦闘工作員を蹴散らすも、一人の戦闘工作員がそれを無視するかのように冬子を連れ去らんとし、イカルスまで迎撃に来ては敬介もそれ以上の追跡は叶わず、Xライダーにセタップして戦わざるを得なかった。
 イカルスは飛行能力に加えて、立ち木をも断ち切る巨大ブーメランになる翼を飛ばしたり、鉄板で出来た標識をも溶かすデススモークを駆使したりしてきたが、Xライダーはライドルスティックを風車の如く回転させる事で完全にデススモークを拡散させ、イカルスは撤収した。
 幸い、戦闘工作員に連れ去られていた冬子は霧子が助け出していたのだが、敬介は礼もそこそこに改めて霧子の事、涼子のことを尋問した。その詰問に表情を曇らせる霧子だったが、遂に自分が涼子の妹であることを告白した。それを聞いて驚く敬介、わざとらし過ぎ(苦笑)。
 まあ、涼子の妹なら本来霧子は自分の義妹となる存在だった訳だから、その存在を知らなかったのは驚きかも知れんが、瓜二つの人間がいれば普通は双子を想像すると思う。
 ともあれ、霧子は自分達が双子で、離れ離れに育ったことを告げると、同時に涼子が今も敬介の婚約者であることを断言した。勿論これまでの流れを振り返れば丸で説得力の無い話であるが、霧子は改めて自分が敬介の味方であることを宣して、冬子を敬介に託すとその場を立ち去った。

 傍らで話を聞いていた年頃の娘である冬子は「婚約者」と云うキーワードに幾ばくかの興味を示す風もあったが、次の瞬間彼女が気にしたのは瀬山だった。
 その瀬山は負傷して倒れており、自分を守らんとして戦闘工作員と戦って負傷した(と思い込んでいる)瀬山の身を案じて付きっきりの看病をし、一方で普段瀬山と「人間が空を飛ぶ」と云う事への夢を語っていることを話すのに生き生きとした表情を見せる冬子だったが、その素性を知る視聴者としては何とも遣り切れない。
 そして寝室から人がいなくなるとGOD総司令は瀬山=イカルスにXライダーと大門寺博士の抹殺を命じた。博士抹殺の理由はGODの仲間になることを拒否したからで、となるとGODは天才人間計画の被験者を死に追いやりつつ、博士を勧誘していたことになる。
 何か、神啓太郎が仲間にならないと見て殺害に掛かったのと同じ匂いを感じるが、どうもGOD総司令は短気なようだ(苦笑)。

 命令を受けたイカルスは即座に行動に移り、バイクで走行中の敬介に空中から爆弾を投げ付けた。画面は爆煙に覆われ、そこでAパートが終わり、Bパートに入って冬子と親しげに話した後にGOD総司令に敬介を殺害したことを報告するイカルスだったが、この展開で敬介が死んだと思った視聴者は皆無だったことだろう。
 この報告にGOD総司令は疑いもせず、大門寺博士と冬子も殺すよう命じたのだが、このやり取りは敬介に目撃されていた。爆弾を投げただけで遺体の確認もしていなかったなれば、このイカルスも期待は出来んな(苦笑)。

 ともあれ、博士の元に駆け付けた敬介だったが、その博士は瀬山と白衣の男と学生服を着た三人の男に襲われようとしてた。しかし、学生服を着せるには三人の男性(←大野剣友会の方々と思われる)、老け過ぎ(苦笑)。
 勿論瀬山以外の四人は戦闘工作員で、敬介が博士に瀬山の正体がイカルスであることを告げると意外にあっさりとそれを認め、正体を現した。驚く大門寺博士を庇いながら応戦する敬介だったが、イカルスは戦闘工作員達に後事を託すと姿を消すと云う謎な行為に出た。
 殺害するにせよ、拉致するにせよ、戦闘工作員が敬介に敵うとは思えない。案の定、少し応戦するや戦闘工作員達までもが一斉に姿を消し、さすがに敬介も陽動であることに気付くのだった。

 となると危ないのは冬子である。
 イカルスは瀬山の姿になって冬子を催眠術に掛けていた。恋する瀬山の正体を微塵も疑っていなかった冬子はあっさり術にかかり、白い衣を纏って陸橋の上から羽ばたかんとしたのだが、これは霧子が止めた。そしてその霧子に遅れて駆け付けて来たのは涼子。
 第4話でメドゥサに逆らってでも子供の命を助けんとしたいたことが思い出される(第6話では笑っていたが)涼子の謎行動だが、驚く霧子、そして駆けつけて来た敬介に気付いた涼子はそのままその場を走り去るのだった。

 霧子が冬子を保護していることに一応の安心を得た敬介は霧子に冬子を託すと、自分はイカルスを倒しに行くと宣した。だが、いまだイカルス=瀬山の事実を知らない冬子は再度瀬山の身を案じて彼の元に駆け付けんとした。
 その瀬山の姿を見つけた敬介は戦いを挑まんとして、冬子がその場に走り寄ろうとしていることに気付いた。冬子の前で瀬山(の姿をした者)を攻撃すれば彼女が傷つくことは想像に難くない。敬介は焦るように瀬山にイカルスの正体を現して自分と戦うよう促したが、「どんな姿で戦おうと俺の勝手だ!」と云って瀬山はそれを拒否した。
 恐らく、瀬山の姿でいることで冬子を前にして敬介の矛先が鈍ることを狙っていたと思われるが、少し敬介にボコられるや瀬山は舌打ちしてイカルスに変身した………根性の無い奴である(苦笑)

 ともあれ、ここに決戦が行われた。
 イカルスが正体を現すと敬介もXライダーにセタップし、ライドルスティックを地面に立てて、それを軸に全身を横回転させる回転キックで戦闘工作員達を蹴散らした…………間合いを取れば蹴りは当たらんし、軸足を飛び道具で払えばすぐに敗れる技だと思われたが、まあ良いか(苦笑)。
 戦闘工作員達を失ったイカルスは翼や嘴を駆使してそこそこ善戦したが、だからと云ってXライダーを取り立てて追い込んだ訳でもなく、Xキックを食らって空中高く放擲されると夕焼け空に爆死したのだった。

 その体から自分がプレゼントしたペンダントが落ち来てたのを見つけた冬子は瀬山がでイカルスあったことを知り、呆然とした。直後の、「瀬山君が君によろしくと云っていた。」と云う敬介の台詞は何のフォローにもなっていなかった気がしたが(苦笑)、それでも冬子は涙しつつも現実を受け入れていた様だった。

 そしてラストシーン。
 大門寺博士は敬介に一連の事件解決に尽力してくれた礼を云い、姉と瀬山が好きだと云っていた白いカトレアの花に水をあげている冬子を見て、娘が気っと立ち直ってくれることへの確信と天才人間計画の中止を宣言した。
 結局、少年少女達の死はGODによるもので、博士は娘を殺され、研究に悪しき者のイメージを着せられた被害者だった訳だが、「人間は自然のままがいい。」としてきっぱりそれまでの研究を捨てたのだから、根は良い人だったことがわかる。
 それに対して敬介も、「そうして下さい。改造人間は俺を最後にしたいものだ。」として、例え蘇生や善意や正義の為であれ、人間の体や心を改造することが問題ある行為であることを視聴者に再認識させて第7話は終わったのだった。

 まあ、身も蓋も無いことを云えば、正義・悪は別にしても改造人間はこの後も生まれ続けてしまっていた訳だが。



次話へ進む
前頁へ戻る
『仮面ライダーX全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

令和五(2023)年六月一四日 最終更新