生存伝説……判官贔屓が生むアナザー・ストーリー

 「人間僅か五十年、下天の内に比ぶれば 夢幻の如くなり 一度生を得て滅せぬ者のあるべしや」とは織田信長が好んだ幸若舞『敦盛』の一節で、桶狭間の戦いの出陣前に信長が舞ったことを知る人は多い。
 弱冠一六歳で一ノ谷の海岸に散った平敦盛への同情に彩られている訳だが、この世に生れて死なない人間は皆無で、薩摩守も例外ではない。

 命とは、いつか失われるもので、失われれば二度と戻ってこないものである。
 それゆえに人間は「生きること」と「死ぬこと」について真剣に考える。死刑存廃問題も、自殺問題も、個々人の考えの是非はともかく、そこにある生死への真剣な想いから目を逸らしてはいけないだろう。
 かつて拙房では『「殺された」人達』を綴り、記録の上では「病死」とされながら、風評・伝説・フィクションの中では暗殺されたことにされ易い人々を取り上げたことがあった。

 本作はそれとは反対に、史料の上では戦場で命を落としたことが明記されながら、「実は命を永らえて、○○に落ち延びた。」と囁かれる人々を取り上げた。

 個々人の詳細は各頁で触れるが、それらの多くは信憑性が低く、同情−日本人独特の「判官贔屓」とも置き換えられる―が生んだ、としか思えないものが多い。
 つまりは史実として論議するには学界等では一笑に付されることが多い題材なのだが、何故に同情され、伝説上ながら何故そこへ逃げたとされたのかを考察するのは実に意義深いものがある。
 第壱章 源為朝…強弓の猛者、死後に語られた二つの化身
 第弐章 安徳天皇…悲運の幼帝、海底の都に眠れたか
 第参章 源義経…元祖・判官贔屓の男、有名過ぎる成吉思汗伝説
 第肆章 明智光秀…裏切り者の代名詞、怪僧の正体なりや
 第伍章 豊臣秀頼と真田幸村…「華」と「鬼」、逃亡先に撒いた思わぬ大乱
 第陸章 大塩平八郎…一日半の反乱者、四〇日の潜伏の果てに
 第漆章 西郷隆盛…最後の不平士族、意外な帰国の噂に列島震撼
 終章 「延命」される理由とその他の「生存者」

 

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平成二七(2015)年七月一五日 最終更新