没落者達の流浪

 栄枯盛衰・盛者必衰……歴史は決して勝者だけのものではなく、敗者もまた歴史の中に大きな足跡を残している。
 そして一時の勝者も、程無く敗者になってしまった例もあれば、最終的な勝者が勝利を得る途中に不遇の時間を過ごした例もまた枚挙に暇がない。
 「勝敗は兵家の常」で、最終的な勝者になった者や、生き残った者が歴史の表舞台に立って主だった歴史を綴った訳だが、勿論不遇の中に人生を終えた者も少なくない。否、最終的な勝者となった者はほんの一握りで、多くは成とも否ともつかない結果無き結果の中に人生を終えたり、明らかな敗北の中に人生を終えたりしている。

 それ等の敗北の中には「敗北」=「死」も多いのだが、迫り来る死に対して、「逃げ切れずに捕らえられて斬られた者」、「逃げ切れないと観念して自らの命を絶った者」、「徹底的に逃げ回った者」もいる。
 勿論、敗れて逃げ回るのはカッコの良いものではない。
 面子にこだわるなら戦場に散ったり、敵の手に掛かる前に自害したりする方が恥辱は少ない、との見方もあるが、名誉よりも大切な目的の為に最後の最後まで諦めずに生き抜かんとする姿を一概に無様と誰が決めつけることが出来ようか。

 そこで本作では敗北により領土を失ったり、地位を追われたり、罪人となったりした者達の必死に生きた様に注目したくて、「流浪の逃亡者達」を綴ってみた。
第壱頁 源義経…敵と身内に追われ続けた人生
第弐頁 足利義殖…唯一「重祚」した征夷大将軍
第参頁 武田信虎…逃亡中も策謀忘れず
第肆頁 土岐頼芸…故国を奪った奴等は凄過ぎて
第伍頁 今川氏真…貴公子然とした逃亡人生
第陸頁 足利義昭…「手紙魔」と云われようと、「家柄だけ」と云われようと
第漆頁 島津義弘…戦国史上最もカッコ良い「逃げの一手」=「捨てがまり」
第捌頁 宇喜多秀家…逃げた死と、逃げなかったプライド
第玖頁 大塩平八郎…潜伏四〇日と生かされた伝説
第拾頁 高野長英…顔を焼いてまで逃げた執念
第拾壱頁 関鉄之助…水戸藩を巻き込まない為に
終章 逃亡に託す希望


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令和三(2021)年五月二五日 最終更新